皇帝陛下1
帝国に記録されている遺伝子情報に寄ると私の父親は、やはり当時無体な行動をして3人の貴族令嬢、庶子を孕ませた第三皇子。
母親も当時の遺伝子検査で記録されている通りで、マリアスティーネ・アニマトロン男爵令嬢で確定だそうだ。
ギルスさんとショーンさん話によると、やはり暗黒生命体討伐戦線にて私達が叙勲した事が切っ掛けらしい
けど、皇帝陛下に話を通すと意外な事に
「本人が望めば保護すれば良い」
と泰然と答えたそうだ、幼馴染で学友でもあるギルスさんとショーンさんは慌てて問い詰めると皇帝はこう答えた。
「レオナルドが遺した方舟を男爵家が都合良く手配出来たと本気で思っていたのか?」
ましてや帝国が誇る近衛と軍から足取りを全く掴ませずにだ、との言に唖然となったそうだ。
つまり15年前当時、ママとキャプテンは見逃されたのだと言う、庶子とは言え可愛い曾孫が引き取って2人続けて亡くなった事に胸を痛めた皇帝は一計を案じた、皇帝と言えども全てを知っている訳ではなく、事故死なのか病死なのか、はたまた謀殺されたのか調査の時間が欲しかったそうだ。
その間、私とママを皇宮に上げて保護するには世間も皇帝自身も疑心暗鬼となっていたし、かと言って皇宮で謀殺する様な輩が本当に居たとすると男爵家で母子を護りきれるかは大いに不安であった。
その頃、男爵家は偉大なる皇帝とは言え無体を強いた男が居る皇族を信じて良いのか、否、娘と孫を護れるのは自分達だけだと思い詰めていた。
だから皇帝は思い切って男爵家の動きを見逃した、アニマトロン男爵家が一族全員D星系に行くのも、母マリアスティーネのフルコピーアンドロイド・育てのママとシェフィ、私とキャプテンがひっそりと出立するのを、ついでに小型戦闘艦として最高の性能と安定性を持つDr.レオナルドの遺品アークを手土産にしてやるのも・・・
「つまり、全部皇帝のジジイの手の平の上だったって訳だ」
「よく考えてみると、サジタリウスから追っ手が全く居なかったのは皇帝陛下の手の者によって始末されていたのでは?」
「有り得ます、陛下は情に厚い御方、ノワ、ール様をずっと見守っていたのでは?」
「なるほどねー、まあその辺はもういいや、そんな事よりニーナ」
「な、なんですかノワール様」
「それ、止めないと怒るよ」
さっきからニーナは私の事をノワール様と呼ぶ、ギルスさんとショーンさんに会って話を聞くまで普通にノワって呼んでいたのに。
「いえ、ですが」
「ニーナ、ひどい、私を捨てるんだ・・・」
ジワリと視界が滲む
「あ!いえ、そんな、ノワさ・・・、ノワ、そんなつもりは!」
「むふー、じゃあ様付けなんて絶対しないでね?」
視界が元に戻る
「・・・はい、ノワ」
「くく、今この状況でお別れなんてしたら皇女をヤり逃げした女だねニーナ」
「ちょっとキャプテンさん、人聞きの悪いこと言わないで下さい!」
「お別れする時はちゃんと話し合おうね、立場とか気にするなら私本当に泣くから」
「はい、すいません浅慮でした」
「ううん、これからもよろしくねニーナ」
「はい、・・・はい、ノワ!」
そもそも私の立場はニーナに隠した状態で御付き合い始めた訳じゃないからね、大規模作戦の時の会食で話を通していたんだから、今更遺伝子検査で白黒ハッキリして貴女は皇女なので釣り合いません別れましょうは酷すぎるよ。
「皇族の話を抜きにしてもノワは男爵家の令嬢なので、結局平民の私は釣り合わないと思うのですが・・・」
「もー、ニーナまたそういう事言う、私皇族にも貴族にもならないよ」
「えっ!?」
「あれ? なんでそんなに驚くのニーナ」
「ノワ様、そのお話は初耳ですよ、まあ私はそうだろうとは思っていましたので驚きませんが」
「あれー、言ってなかったっけ?」
「アタシも聞いてはいないねえ、まあシェフィと同じではあるが」
「ど、どういうことですかノワ、皇族にも貴族にもならないって!」
「いや、どうもこうも・・・」
宮内省の話だと確かに皇帝陛下?(曾お祖父さん)は私を心配してるし、なんなら引き取る用意は有りそうな流れではあるんだけどさ。
15歳にもなって今更皇女です宜しくお願いします!って私はキツいと思うんだよね、必要な教育も受けてないし、私が胸を張って自信があるのは航宙艦の操作とそれに関する知識だけだよ、皇女として~なんてムリムリ。
じゃあ、仮に未だに会ってはいない生みのママと実家であるアニマトロン男爵家に入れます、となったとしてさ、男爵家に皇家の血筋の人間が入るのって、私は兎も角、男爵家にとって荷が重い話になると思うんだよ。
結局15年前の真相にしたって、謀殺の話が出る位には皇族の価値は高い訳で、何故伯爵家以上じゃないと皇家に嫁げないか、なんて話の根本的な点は権力やら伝手やらと手を尽くせる実力が認められているからなんだよね、じゃあ男爵家にそんな実力があるかと言えばそれは大変な事なので、私はこのまま闇に葬られた方が皆にとって都合が良い。
あ、勿論闇に葬るって言っても、私達を殺してしまって終わりって話じゃなくて、私は皇族では無いし貴族でも有りません、傭兵ギルド所属艦アークの艦長兼メインパイロット、キャプテン・ノワールです、ってお話にして欲しいなあと。
決して、ノワール・エル・アトランディア皇女殿下なんて大層な存在では有りませんよー、って事にしたいところ。
宮内省のギルスさんとショーンさんは私を保護したい気配が強いし、近衛騎士の3人は皇帝直属とあってお仕えしたい感がヒシヒシと伝わって来ていたんだけどね、考える時間が欲しいので1度お帰り下さい、と何とか説き伏せて時間を貰ったのは、こういう話をみんなにしておきたかっただけだ、最初から私は皇族にも貴族にもならないってね、まあ皆には言ったつもりになっていたから、あの場で即答しなくて良かったよね、言ってたら言ってたであちらもこちらも「「えっ!?」」ってなってだろうし。
「ま、皇帝のジジイの命令で即近衛が拿捕、妥当な流れだな」
「はい、いいえ、我々に選択肢を頂けるのか、諸共葬られるのか気掛かりな要素はありますが」
「まさか、ここまで大それたことになるとは・・・」
キャプテンは皇帝のジジイって言ってるけど知り合いな訳じゃないよね、まあいつも通りの様子に安心するけどさ。
シェフィは冷静に状況を分析している、確かに近衛旗艦の格納庫にアークとブラックダイヤが居る状況は私達にとって良い状況とは言いきれない、楽観も出来ないけど悲観する程のものとも思えない、なんとも言えないねえ。
顔色の悪いニーナには謝るしか出来ない、・・・ごめんね? まあ何とかなるよ、多分。
最悪の場合は私の身を差し出せば皆の生命は約束してくれる筈だ、鍵になっているのは私に流れる皇族の血なのでその辺りの覚悟は既に完了している。
航宙艦の戦闘と同様に、何事も自分の都合ばかりに良くはいかない、最悪は必ず考えておかないとね・・・
「ノワ様、私は最期まで御付き合い致しますよ」
私にだけ聞こえる大きさでシェフィが言った言葉はとても頼りになるひと言だった。




