帝国近衛艦隊
帝国近衛艦グランゼウス、言わずと知れた帝国唯一の皇族直轄にして最強の戦艦、今は亡き天才発明家Dr.レオナルドが遺した技術と超希少金属を使用して製造された戦艦は最大射程が通常戦艦の2.7倍、出力が8.95倍とも言われ、三重の分厚いシールドと多層装甲を撃ち砕くには爆縮弾を数百と撃たねばならないとされる名実共に最高の御料戦艦である。
当然ながら戦艦の周囲は、最新にして最強の矛と盾である近衛艦隊によって固められ、事実上の不沈艦とも呼ばれる帝国の象徴たる艦隊だ。
そんな帝国航宙戦力でも最大最強の艦隊に万全に待ち構えられた状態で逃げられる艦など存在しない、金獅子級傭兵のキャプテンでも、先日銀獅子級に昇格し操艦の腕だけならキャプテンにも負けないと自負する私でも、この状況ではスラスターに火が入った瞬間に宇宙の塵と化すのは明白だった。
「所謂、お手上げって奴だねえ」
「そうですね、どうにもなりません」
「ニーナ、近衛艦隊って」
「はい、帝国航宙艦隊とは完全に独立している、皇帝の手足となります、お力になれずすいません・・・」
「ううん、皇帝直属じゃ仕方ないよ、ニーナのせいじゃない」
「そうだねえ、寧ろ近衛の動きを知っててアタシらに教えていた方がヤバいってもんさ、まあなるようになれ、だな」
既に私達の艦アークとブラックダイヤは戦艦に着艦、キャプテンとシェフィ(球)もまとめてアークに搭乗して待たされていた。
幸いな事に手荒な対応はされていないので、突然処刑されたり捕まったりという話ではないようだ、今もアークはシールド維持を許されているので逃げたり暴れたりしない限りは酷いことにはならないと思われる。
『此方、ウインバルド准将、アーク聞こえるか』
「はい、こちらアーク、キャプテンノワです」
『・・・・・・・・・』
「あの?」
『いや、今から其方に宮内省職員2人と近衛騎士3人が向かう、搭乗の許可を願う』
「願う? 命令じゃないんですか?」
『要請だ、命令では無い、が、これらの理由を答える権限を我々は有していない、理解の程を』
んー、意味が分からない、私達を拿捕したのは『命令』なのに、アークへの人員の搭乗は『要請』ってどういう事なの?
そして搭乗要請は宮内省と近衛騎士、宮内省は皇宮や皇族の身の回りを司る省庁、近衛騎士となると皇族の直接護衛に着く役職の筈だ、しかも今私とやり取りした准将さんの様子のおかしさ、となると。
「バレてる?」
「そうなるかねえ、近い星系に入った途端に包囲確保、近衛艦隊、宮内省、騎士サマとくれば、既に皇帝、または近しい所でアタシ達の事は把握してるんだろう」
「そうですね、そうなります」
「ですが、いつ、どのタイミングで? ゲートを抜けた瞬間に確保となれば最低でもG星系側のゲートを通った時点で艦隊が展開されていないと間に合いません」
「派手にやり過ぎたねぇ、間違いなく功一等銀皇大勲章を拝受した段階だろうよ」
「あ、身元の照会」
あれだけの立派な勲章を与えるからにはそれなりの背後関係を軍では調べる、私とキャプテンの背後を遡って行けば15年前のサジタリウスコロニーまでの航行記録、更にそれ以前の足取りに疑問を持って調べられたら完全に誤魔化す事は至難の業だと思われる。
「ノワ様、搭乗依頼です」
話している間にアークの目の前には宮内省職員と戦闘服を身に付けた軍人然とした近衛騎士が立っていた、近衛騎士は皇族の護衛という性質上、常在戦場の心得で常に戦闘に入れる状態であるとギャラクシーTVとかで見たことがある、これは本物の近衛騎士だ、私は艦長として意志を確認する為に皆を見渡した。
「上げないと話は進まないだろうね」
「格納庫を破壊して離脱は可能ですが、その後の安全は保障出来ません」
「近衛と手合わせを何度かした事があります、3人ならば私とシェフィさんで十分対応出来る人数ですが・・・」
・・・うーん、なんかみんな割りと好戦的でビックリだ、キャプテンが1番建設的な感じがするのは如何なものだろうか。
「だ、大丈夫、基本は争わない方向でね、仮に数人抑えても此処は戦艦の中、外に飛び出しても包囲されてるし、近衛艦隊とことを構えると指名手配されかねないから、落ち着いていこう?」
「アイアイ、キャプテンノワ」
「はい」
「分かりました」
皆から賛同を得られたようでホッと一安心、と思ったらハッチから見て死角の方へシェフィ(球)がスイーっと位置取った、え、念の為? ・・・だから止めなさいって!
***
「お初にお目にかかります、私は宮内省皇帝陛下付、筆頭次官のギルガ・ヒューズマンと申します」
筆頭次官、予想していたより遥かに上の役職が来た、いや上と言うか宮内省の事務方トップだ、皆息を飲む。
いつも余裕の様子のキャプテンも、冷静なシェフィでさえも驚いていた、帝国軍所属のニーナに至っては言葉も無いといった様子で私も驚きで何も言えなかった。
「キャプテン・レディ、お名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」
「あ、初めましてノワールと言います」
「ノワール様、私と共に来たこちらは侍医のショーン・ロードス、どの様な要件かは御理解していますか?」
「はい、私の血について、ですね?」
宮内省次官と侍医が揃ったならそれしかない、2人とも初老で穏やかそうな男性だ、ゆるりと頷くと侍医のショーンさんが酸素飽和度をチェックするようなサック付きの端末を取り出した。
「御手を拝借しても良いでしょうか?」
私は緊張しながらもショーンさんに手を差し出した、端末から出ているサックを指先に取り付けてショーンさんは端末を操作する。
「やはり、ギルガ殿」
「おお・・・」
「あの、どうなんですかね?」
宮内省の2人は確信を持っていたのか頷き合う、ショーンさんは私の指先からサックを取り外し、当初より畏まった態度に加えて、更に胸に手を当てて言った。
「数学的に申しまして99.9999%、ほぼ確実にノワール様は皇族の血をその身に宿して居られます」
その言葉を聞いた瞬間、私はホッとした気持ちと面倒だなあと言う気持ちが綯い交ぜになった。
ホッとしたのは、これまで散々皇族の庶子だ、という前提で行動して来たので、今ここに居たって「違います」とか言われたりするパターンだ、ここまでお膳立てされておいて「誰だよお前」は恥ずかしすぎる、面倒だと思うのは、まあこれからの対応についてだね。
そして、宮内省の2人も近衛騎士の3人も私の前で跪いて頭を下げた、あー・・・、やめてよもー、はいそこキャプテンニヤニヤしない!
私は最後の抵抗として目深に被っていたキャプテンハットをキャプテンに返し、ハーフアップの髪を解いて言った。
「取り敢えず時間下さい」
お願いします! 後、跪くのも止めてくれませんかね?




