心機一転
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勲章の授与式から明けて次の日、胸に勲章を着けた私とキャプテンは顔を突き合わせて金銭のやり取りをしていた。
暗黒生命体討伐戦線の報酬は端数切り捨てでキャプテンが23億3500万マニ、私が23億8900万マニとなった、端数はどうせ補給とか停泊費用とかで消えて行くからね。
ゼクセリオン・コーポレーションから貸与されたキャプテンの小型戦闘艦ブラックダイヤ号の価格は装備とオプション、その他塗装や内装の追加作業込みで25億5000万マニ、この時点で私からキャプテンには2億1500万マニの借金が確定となっている。
但し、ブラックダイヤの武装は四門のレーザー砲と二門のミサイルポッドとなっていて、レーザー砲はコストが掛からないのに対してミサイルポッドは1発ごとにかなりの金銭が吸われる事になる。
特にブラックダイヤに積まれたミサイルポッドはチェイサーミサイルと言う種類の、火力も追従性能も高いミサイルで小型のマイクロミサイルと比較すると運用コストが馬鹿にならない。
宇宙海賊相手ならコスト0のレーザー砲四門で殆どカタが着く、ミサイルを使用する時は敵の数が多いか大型艦相手となる為、支出が収入を上回る事は無いと思われる。
まあそれでも運用資金は多目に無いと中々厳しい装備ではあるので、総額7億1500万マニの借金をキャプテンは私から負うことになった。
問題はこの星域では傭兵が稼げる依頼が無いに等しい事だ、依頼が有れば数億の借金も2ヶ月ほどで返せるだろうけど、暗黒生命体討伐戦線の影響で近辺に潜んでいた宇宙海賊は全て同化艦として処理されてしまった。
そして暗黒生命体が一度現れた星域には短期間で再び現れたという記録は今の所確認されていないので、稼ぐには別の星系へ移動する必要がある。
別の星系へはワームホール航法を使用するので移動にはお金が掛かる、自然とキャプテンの借金は増えるという中々な雪だるま式になっていてヒドイ具合だ。
いや一応ね、ブラックダイヤ号を担保にした借金で利息は限りなく0の120回払いと言う優しい内容だから慌てる必要は無いんだけど。
元の借金も加えると10億弱の借金で、やはりベテランのキャプテンでも仕事が無いことで落ち着かないらしい。
「酒飲んで、金ちょい貯めてぇ」
が出来る事こそキャプテンのルーチンワークらしく、仕事が無い→飲めない→借金が、だそうだ。
気にするところはそこじゃないと思うんだけどね、まあ返せる時に返してってよ、私の運用資金は手持ちと今回の報酬を合わせて19億弱あるから踏み倒されても大丈夫だけどね。
「取り立てはお任せ下さい」
最初の借金は傭兵のノウハウとか信頼出来るクルーが必要とかでシェフィの勧めに従っての借金肩代わり、今回は別だとメラメラ使命に燃えるシェフィを止めるられるかは分からない。
あ、でもシェフィの話によるとこれまでも借金積み立てはしてたんだよね、一応ブラックダイヤ号が担保に入っているから爆散しない限りは普通に傭兵ライフを送っていれば大丈夫だよね!
「それでキャプテンの艦はいつ作業が終わるの?」
「1週間だとさ」
「結構掛かるね、内部と塗装なら2日くらいかと思ってた」
「暗黒生命体の後日対応で傭兵艦やら軍艦の修理メンテに人が取られてドックが空かないんだとさ」
「なるほど」
確かに暗黒生命体の数が数なので戦闘艦の被害が0とは言えない、航宙艦製造会社は戦闘前には艦の準備、戦闘中は後方で補給と修理、戦闘終了後にもメンテナンスと八面六臂の活躍となる、航宙製造会社のバックアップが無ければ今回の勝利は有り得なかったよね。
アークでもシールドセルと電磁加速砲、爆縮弾の補充、ブラックダイヤはキャプテンが「他人の財布で撃つミサイルは最高!」って言ってバラ蒔いてたから何度も補給に下がっていた。
マルチロックオンを得意とするキャプテンは特に効果的にミサイルを使用していたので、アレがなければもっと苦戦していたよ。
アークは無補給で放つ事が出来る超広域兵器の超重力砲を積んでいるから長く戦場に留まって撃墜スコアは伸びたけど、レーザー砲と電磁加速砲それぞれ二門、それと対艦ブレードで基本的に対人戦特化なので、今回の様な大群相手には相性が良くない。
近中距離のアーク、中遠距離で瞬間火力のブラックダイヤ、1発芸の超重力砲と爆縮弾が上手く噛み合ったからこその戦果だったからね。
***
ノワが眠りについてからキャプテン、シェフィ、ニーナはブラックダイヤ号に集まり話をしていた。
「それで、ニーナはノワと付き合う事になったんだって?」
「はい、釣り合わないのは理解しているので反対されれば、その、覚悟はしていますが・・・」
「いいや、アタシは構わないよ、でもね」
「は、はい」
「ノワも成人だ細かいこたぁ言わない、アタシも保護者ヅラするつもりは無いけど、ニーナ、アンタ、軍とノワどっちを取るんだい? 返答によってはアタシはアンタを撃たなきゃならなくなるんだが?」
「それは、・・・勿論ノワさんに決まっています」
「へえ、その心は?」
「キャプテン、この場面で茶化すのはどうかと思います」
「わるいね、性分なんだよ」
「いいえ、大丈夫ですシェフィさん、正直に言うと私職業軍人なんです、安定しているし、社会保障や給料、軍人って下手な民間に行くより最初から高給取りで」
「へえー、じゃあ待遇が良ければそっちに移るのも厭わないと?」
「キャプテン」
「なんだよシェフィ、ニーナが言っているのはそういう事さね」
斜に構えた言い方をするキャプテンにシェフィが窘める。
「私は人を裏切る様な真似はしません」
「あーあー、止めてくれよ、そんな不確かな話をしたいんじゃないんだ」
「えっ?」
「言っただろう、ノワは成人だし、アタシも保護者ヅラしないって、仮にアンタが立場を上手く使って軍にノワを売り渡したとして、それはニーナを信用したノワの人生さ、でも友人の子供だし、それを見逃すのはアタシの主義に反する、つまりノワの味方をする訳だから、場合によってはニーナを撃つって話だよ」
「それは、私がノワさんを売っても構わないと?」
「売るか売らないかはニーナの勝手、撃つかどうかはアタシの勝手、結局は互いの考えの押し付け合いになるさね、まあ人生のちょこっと先達としてはノワを裏切ってくれるなよ、と言いたくはある」
「・・・ふふ、キャプテンさん、それは立派な保護者ヅラと言うやつでは有りませんか?」
「うっさいね、聡い奴は嫌いだよ」
「キャプテン、鈍い奴も嫌いだって以前言ってましたね」
「うっさいね!シェフィは黙ってな!」
「ニーナ様、これがキャプテン名物ツンデレです」
「シェフィ!!」
「ふふふ、はい、撃たれないように頑張ろうと思います、先に言っておくと退職届は常に持参してるんですよ私、まあ規定通り遺書もですがね」
「ハッハッハ、軍人らしいね、まあ精々破局して気まずくならないようにしておくれよニーナ、アタシが言いたいのはそれだけだ」
「ニーナ様、これがキャプテン名物余計なお世話です」
「シェフィ!」
「おや、失礼、余計なお世話でしたね、ふふふふ」
大人達が話し合いを重ねていた事をノワは知らない。




