授与式4
操艦モードはフルマニュアル、デュアルスティック左右合計36スイッチを単独と複合の組み合わせで事前にマクロを組んでおき、ペダルはフィフスペダルをメインスラスターとサブスラスターに割り振る。
勿論、スティックスイッチとの組み合わせで姿勢制御スラスターやスタビ、各所推進部の切り替えも可能だ、そうすることでフルマニュアル操艦時に微細なコントロールを実現している。
因みに各所レスポンスは最大感度にすることで反応はギンギンにしてある、制御は難しくなるけど鈍くしてすっとろいよりは最大感度にして人が慣れた方が遥かにメリットが大きい。
戦闘機動、マニューバの時にセッティングなんか弄ってる暇なんて無いからね。
モニタは全周天モデル、死角は人間の視界に追従するので首を振って確認出来る範囲は全て観測出来る、これもUIを割り振り必要な情報を拾うようにセッティング、まあレーダー系はオペレーターに任せているから私は大体3Dレーダーだけ端っこに表示させているだけだ、背後死角は3Dレーダーでほぼ補完出来るし、バックアイカメラも端に表示しているからアークの現セッティングでは死角はほぼ無い。
今回の作戦は暗黒生命体が多過ぎて、あまり縮小したマップは出せていない、レーダーが真っ赤に染まるから拡大表示にするしかなかったんだけど、そうなると敵との相対距離がかなり近い表示で判断から行動までの時間が短く、要求難易度が少し上がっていた。
「「「クレイジー・・・」」」
「ちょっと酷くないですかね」
大群の隙間を縫って左翼から右翼まで抜けただけだよ、途中で超重力砲とか爆縮弾、レーザー砲と電磁加速砲で道をこじ開けてきただけで特別な事は何もやっていない。
それなのにクレイジーとか頭おかしいとか言われるなんて、納得がいかないんだけど。
『・・・おめでとう』
「慎んで拝受致します」
会場から挙がった声に、目の前の副官さんは勲章を手に取って言葉少なに胸元に着けた、今思ったんだけどオフショルダーのドレスだから胸に凄い気を遣いながら着けていた、ジャケットを羽織るタイプのドレス正装もあるから式典用にはそっちの方を着てきた方が良かったね。
シェフィから勧められるままにこっちのドレス着てきたけどさ、こちらの方が可愛らしいですって、や、可愛いけど流石に胸に勲章付けるならもう少し配慮したドレスにしておけば良かったね、まあ受勲なんて初めてだから次が有ったら服装にも気遣いしておこう。
キャプテンの勲章も同じ物で立派なケースに入っているのを戴いて舞台を降りる、元の座席に戻るまで通路にダラっと足を拡げてジロジロと私を見ていた傭兵が結構居たんだけど、帰りはスッと足を収めて大人しくしていたのが印象的だった。
私の勲章が一番最後の受勲らしく副官さんはまとめに入る、こういう挨拶は定型文が有るのか途中から聞き流してボーとしている内に授与式は無事に終わりを迎えた。
「もう帰っても良いのかな?」
「はい、事前の呼び出し等も無いのでこのまま帰艦して問題ないかと」
「ていうかシェフィ、このドレス、正装だけど勲章着けるの大変そうだったよ」
「申し訳ございません、ノワ様を着飾るのが楽しくて拝受される勲章への配慮を忘れておりました」
「ううん、私もドレス自体はウキウキしてて忘れてたし、次が有ったら考えておこう」
「はい」
「すいません、私が気付けば良かったですね、勲章なので胸に着けられるのは当然でした」
「いやいやニーナさんのせいでも無いし、まあみんな勉強になったって事で、ね?」
「はい、でも本当にそのドレスは似合っていますよノワさん」
「う、うん、ありがとうニーナ・・・」
「確認します、ノワ様とニーナ様は御付き合いを始めたのですか?」
「はえ!?」
「そそそそ、そんな私如きが恐れ多い!」
「いやいや、私こそニーナさんに釣り合わないっていうか」
「・・・御付き合い判定にしておきますね、そもそも偶にノワ、ニーナ呼びになっているのはお気付きですか?」
「「えっ」」
それは知らない、言ってたかな、ずっとニーナさんって呼んでいたつもりだったけど、ニーナさんも私の事ノワさんて・・・・・・、いやさっきノワって呼ばれてたわ。
チラリとニーナの方を見ると、同じ事に行き当たったのなパチリと目が合った。
「「あ」」
「はい、御付き合いですね、了解しました」
シェフィによって認定されてしまった、いやいやあのね、違うんだよ、そりゃあ暗黒生命体討伐戦線の後に、その、眠れなくてニャンニャン致した訳ですがね、その時に2人きりの時にはニーナって、あっちもノワってなったけど、それはほらベッドの上っていうか、って何言ってるんだろ私っ!?
「こっ、こういう時は歳上の私がしっかりしないと!」
「え? ニーナ、さん?」
むんと力を入れて頷いたニーナはグッと拳を握って言った。
「ノワール、さん、お付き合いしていただけますか」
「あ・・・、はい、よろしくお願いします」
「てえてえ、ノワニーナてえてえ」
「え、何、シェフィ」
「いえ、なんでもありません」
(なんだ百合か)
(てえてえ)
(俺も間に挟んでくれないかな)
(は? 解釈違いなんだが?)
(死ねよ、百合に挟まる男は死ね、今すぐ)
(そうだな死ね)
(酷すぎない!?)
(いや、百合に挟まっていいのは百合だけだ、お前はSHINE)
ん、なんか周囲が少し騒がしい、
「ノワ様、私も偶に御相手して下さいね」
「!? な、何言ってるのかなシェフィは、もう、戻れる気もしないから責任取ってよね」
「はい、いいえ、勿論です」
シェフィは私の返事が分かっていたのか、とても嬉しそうに頷いた。
始まりは恐らくアークに乗って初めてシェフィとニャンニャンした時だった、新たに扉を開いてしまった私は気付けば通った筈の背後の扉が見えなくなっていたのだ。
シェフィがその、ね、とってもよかったので、戻れない戻るつもりもない道に入ってしまったから、その責任は是非ともシェフィに取ってもらわないと困る。
幸いなことに科学全盛のこの時代、性別の組み合わせなんて関係無くパートナーを選べるので凸凹は無視出来るのが良かったよ、本当に。
(ああ~)
(金髪アンドロイドも銀髪少女と黒髪美人の百合!?)
(ご飯3杯は行けるわ)
(やっぱり挟んでくれないかな)
(死ね)
(死ね、氏ねじゃなくて死ね)
(百合に野郎は死ねよカスが)
(やっぱり酷くない!?)
この後、傭兵ギルド所属艦アークはキャプテン兼パイロットで対艦ブレード使い『処刑人』ノワール、百合の方舟の2つ名で呼ばれる由来を本人達は知らない。
「なんか最近アークリリィって呼ばれるんだけど?」
「搭乗員全員が女性だからじゃないですか?」
「なるほど」




