授与式3
ひと騒動遭った後、私達は屈強な軍人さん達に護衛されて会場へ入った、お陰でトラブルの追加は無かったのは良かったけど暑苦しさを感じた移動時間となった、今も背後の壁際に数人ゴリマッチョの軍人さん(20歳)が待機している。
「ノワさん、以前から考えていた事があります」
「ん、何?」
「トラブル吸い寄せてませんか?」
「・・・」
ノーコメント、まあ若い女の子が小型戦闘艦のパイロットで傭兵って時点でキャプテンの言う「ナメられる」状況にはなりやすいと自分でも思う、これがゴリゴリマッチョの男の子だったら絡まれる事も殆ど無いだろうなぁって。
チラリと後ろを見る
「・・・」
無表情のゴリマッチョさんはピクリと片眉を上げて、・・・ニ、ニコリとぎこち無く笑って敬礼した、私も無視する訳にはいかないのでヘラリと手を振って応える。
(可愛いな)
(連絡先聞けないか?)
(俺は黒髪さん・・・)
(収入格差がエグくてムリだろ)
(泣きたくなるな)
ひそひそ話も目の前でされれば全部聴こえてしまって少し照れる、正面切って男の人に可愛いとか言われたことないからね。
「収入格差なんて気にするんだ・・・」
「まあ男性が女性を食べさせるって意識は基本的にあるのでは? 私は気にしませんが」
「そうだよね、お金なんて稼げる方が稼げばそれで良いよね」
「甲斐性は性別問わず補い合えば良いと思いますが、ヒモは許しません」
「シェフィ辛辣」
「一般論ですよ、軍人なら肉体的精神的経済的には適していると言えるでしょう」
「シェフィ的には軍人さんは良いんだ」
「はい、いいえ、ノワ様をお世話するのは私ですので賛同しかねます」
「ふふ、矛盾してるよシェフィ」
「はい、いいえ、・・・」
「まあ軍人さんって髪も切り揃えて、髭も剃って、格好もビシッとしてるから良いよね」
「ノワさんのハードル低過ぎませんか? あ、いえ言わんとしてる事は理解してますが」
うん、だってギルドとか行くとナンパされるんだけど、ヤろうぜ!(意訳)って口説き文句に無精髭と汗臭さが同居する傭兵が、・・・止めようかこの話、悲しくなってくる、私はナンパされたことが無いって事で。
***
大きなホールの授与式会場、ちゃんとシェフィの席も用意されていて時間まで大人しく待っていると
「ニナ」
「ウェル、何?」
ニーナの幼馴染ウェルナーさんが現れた、流石に同じ軍人では護衛に着いてくれた人も止めずに静観していた、私としてはシェフィのことを差別発言したのであまり話したくないんだけど、だからと言って無視する程憎い訳でも無い。
ニーナも返事を返しているものの、声のトーンはそれなりに低く、あまり歓迎した様子では無い。
「いや、その、あの時はすまなかった、えっとキャプテンノワとシェフィさんも本当に申し訳ないと思っている」
「・・・いえ」
まさか謝罪されるとは思ってもいなかったので、いえ、としか言葉が出て来なかった、シェフィは会釈する程度で何も言わない、主人の私に倣ってというか、あの時侮辱された時も、構わないとばかりに何も言わなかったので気にしてないだけかもしれない。
「こっちこそごめんなさい、私も言い過ぎたわウェル」
「いや、良いんだ、あの時は俺が悪かった、言い訳に聞こえてしまうかもしれんが、ニナが傭兵の小型戦闘艦に乗ってると聞いて心配だったんだ」
「そう? ありがとう、でも解ったでしょ、キャプテンノワの腕は確かだって」
「ああ、脱帽だった、俺、自分でも才能は有る部類だと思っていたけど、只の驕りと勘違いだったんだな」
ウェルナーさんの初めて出会った時のナチュラル上から目線を潜め、真摯に謝罪をして私にもシェフィにも頭を下げた。
私としてはシェフィが人形って侮辱された事に怒っていただけだから、その点で謝罪した彼に思う所は全く無い、腕前に関しては口で言うより実戦で見せ付けた方が早いし、実際見てもらった事で納得もしてくれたようだからね。
ニーナさんが戦艦から降りて個人の戦闘艦に乗るって事は遥かにリスクが上がるし、その心配から私達を貶して艦から降ろそうとする気持ちが有ったと言うなら理解出来るもんね。
先日サトゥーさんとワタリさんにも、ミュウちゃんが航宙艦乗りになると言っているんだが、と相談された時に私も同じく心配だったもん。
そういう事ならと素直に謝罪は受け入れるよ、後ろのマッチョ護衛さん達も「なんだ?」って感じの視線を投げかけているから意固地になるのも良くない、私は大人だからね。
「キャプテンノワ、俺の幼馴染をこれからもよろしく頼む」
「はい、私も自殺願望は無いので死ぬ前には逃げますから」
「ははは、あの吶喊を見た後だと心配になってしまうが、無事突き抜けた腕前なら納得せざるを得ないな」
ウェルナーさんは弱々しく笑って何とも複雑な困ったような顔になった、いやいや本当にあの吶喊は自殺行為って訳じゃないからね、余裕は相応に保っていたし、危険なタイミングは新型の戦闘艦型暗黒生命体が現れた瞬間くらいだよ、あれ以外ならほぼ全て私の技量に納まる状況下だった。
キャプテンだって、御茶の子さいさいとまでは言わないが、まああんなもんだろ、って言っていたしね。
アークとブラックダイヤであの数を殲滅しろ、なんて物理的に無茶な話でも無いので、同じ様に何度も吶喊を仕掛けても失敗はしない。
「そ、そうか、本当に宇宙は広いな、俺も腕を磨かなければ」
「宇宙? まあ広いですね」
「・・・」
「ノワさん凄いです、ウェルこんなに謙虚になる事なんて無かったんですから、いつも自信満々で実際一度二度やれば何でも出来る位には優秀だったんですよ」
「え、じゃあ次は同じ事ウェルナーさんも出来るようになるね」
「は、ははは、次は、ムリカナ」
最後の方のウェルナーさんは何故か引きつった笑いで立ち去って行った、どうしたのかな。
「ノワ様もひとが悪い」
「え、何が?」
「ナチュラルボーンってノワさんみたいな人の事を言うんですね、今振り返ってみるとウェルは全部恣意的な態度でした」
「ナチュラルボーン? 何が?」
「「なんでもありません」」
「???」
ウェルナーさんが一度二度やれば何でも出来るって話が本当ならかなりの天才だよね、私は繰り返し練習しないと出来るようにはならなかったもん。
(これが努力した天才としなかった天才の差ですか)
(流石ノワ様、才能に溺れる小物とは違うのです)
シェフィは誇らしげに私の頭をなでなでして、嬉しそうに笑ったのだった。
その後受勲式は厳かに始まった、今回展開された暗黒生命体討伐作戦における受勲式なのでかなり人数は多い。
遅滞作戦を提言した作戦参謀、実行した艦隊全体に金一封の目録のみの授与であったり、駆逐艦、巡洋艦と単艦の活躍に対する褒賞など大小様々な勲功が讃えられる。
『続けて外部戦力協力者』
帝国軍が終わると次は外部協力者へと移った、今回の作戦ではコロニーから傭兵ギルド所属艦以外の戦闘艦も多数参加している、暗黒生命体の数が5000兆オーバーと桁違いの大群だったので、傭兵以外にも艦の供出を行った航宙艦製造会社等も受勲対象となっている。
ミュウちゃんのお父さんであるワタリさんもゼクセリオン・コーポレーションの常務取締役なので、組織を代表して目録を受け取っていた。
『傭兵ギルド所属艦アーク、キャプテン・ノワール』
「はい」
司会進行役の方から呼ばれて立ち上がると周囲が少しザワついた。
(あの子が、功一等・・・?)
(子供じゃないか)
(マジで少女じゃん)
目立ってるなあ、キャプテンは軍と関係が良くないからって辞退したけど絶対コレを嫌がった結果だよね、うぐぐ、次は私の代わりに出てもらうからねキャプテン!
『貴君は今戦場で最も戦果を挙げた艦の1人だ、貴君らの活躍が無ければ軍人だけでなく帝民の尊い犠牲者もあっただろう、アトランディア帝国軍を代表して私、が謝意を示す』
銀翼の鷹が翼を広げて羽ばたき、胸部にアトランディア紋章が刻印された勲章、功一等銀皇大勲章。
勲章を手渡すのは先程見知った副官だった、んー? 艦長さんは居ないのかな、さっきから視界に入る中では座席の並びや階級章的に副官さんが1番階級が高いと思われる。
『さて、少し御付き合い願いたいのだが、功一等銀皇大勲章、どうやら彼女キャプテン・ノワールと同僚艦の艦長キャプテン・ドレイクの受勲に対して疑問の声がある様だという話が一部から挙がっているようだ』
ザワザワと私が立ち上がった時以上に会場の雰囲気が乱れた、知ってる人は知っている、あの場に居なかった人は何が起こっているのか困惑した様子だった。
『論より証拠、アーク全面協力の元、我等アトランディア帝国航宙艦隊の情報解析能力をフル活用した此方の動画を見てもらいたい』
その場で公開されたのはアークのコクピット内部の映像と、戦艦ヴァリガルマンダの観測データ、タイムラインを同期させたものだ。
アークの方は、主に私のペダルとデュアルスティックを動かしている操艦の様子、戦艦からは超高精細超望遠でアークの挙動を際に入り分析している映像、つまり異例ではあるけど実戦データの公開を軍はしたのだった。
まあ、これに関しては私が難癖付けられやすいだろうと軍の方からの提案だったので、私は有難く提案に乗らせて貰った形になる。
「航宙艦ってあんな動き出来んのか!?」
「指が、良く動くな」
「アレってスマートグリッドのミリタリースペックじゃねえか? 片方のスティックだけで18スイッチあんだぞ」
「は? 両方で36スイッチをフル稼働? 人間じゃねえ・・・」
「待て待て、ブレード持ちでフルマニュアル操艦!?」
「はーっ!?フルマニュアル!!?」
「観測Gがヤベエ・・・、あんなんゲロ吐くわ」
「「「クレイジー・・・」」」
失礼な、練習すれば出来るようになるよ、スイッチの割り振りだってマニューバとプリセットの切り替えが大半で、そこまで複雑じゃないし!




