お金と真の戦い
帝国航宙艦隊が多数の星域から到着すると戦況は一変した、5000兆もの暗黒生命体は大火力の暴力の前にタンパク資源へと成り果てた。
艦隊の到着前に同化艦を片付けた傭兵の役割も終わり、残り(残りと言っても大群)の暗黒生命体の殲滅は帝国軍がきっちりと平らげたのであった。
同化艦は回収しないのが常識、以前宝探しで回収した際に一部の組織が生きていた事で二次災害を引き起こした事件が有ったからだ、戦闘データを軍とギルドに提出して大人しく報酬が支払われるのを待つだけとなっている。
「キャプテンはこの後どうするの?」
「んー?そうさねえ」
キャプテンは今回の作戦で借金を返して、尚且つ戦闘艦を購入出来るだけの資金を獲得出来る見通しになっている、爆縮弾は互いに4発、超重力砲を搭載している分アークの方が撃墜スコアは上だけど、倒した暗黒生命体を考えると恐らく20億マニは下らない筈だ。
借金を差し引いてもそれなりの小型戦闘艦を購入出来る、なんならハイエンド機である今回の搭乗航宙艦を買い取るのもアリだ。
基本的に航宙艦の仕様はワンオフで、オーナーの好みに有った武装とパーツで構成されている、まあ最新ハイエンド機の中古なら直ぐに買い手が付きそうだけど、ゼクセリオン・コーポレーションでもそのままキャプテンに買い取ってもらった方が面倒は少ないと考える。
あれ? そう考えると作戦開始前にキャプテンがアレコレ口出しして自分仕様の艦を仕上げさせたのもこれを見込んでの事だったのかな、最初から買い取るつもりで仕様変更を捩じ込んでいた可能性が、でもハイエンド機+武装の購入資金足りるかなぁ、運用資金を考慮すると微妙なラインもいうか多分足りなくない?
「・・・・・・んだが」
「えっ? ごめん聞いてなかった」
突然キャプテンに言われて私は思考の海から意識を戻した、完全に話を聞いてなかったので聞き返す。
「だから、艦は買い取るつもりで多分資金が足りなくなるから金貸して欲しいんだが」
「ええ・・・?」
借金無くなるのにまた借金するの? なんとも言えない表情が完全に出ていたのをキャプテンも分かったのか、珍しく気まずそうな顔をした。
「まあ良いけど」
「ノワ様あまりキャプテンを甘やかしてはいけませんよ」
「私としては借用書にサインを貰うのを推します、いくら知己と言っても金銭は確りするべきですよ、ノワさん」
「アンタら・・・、アタシが借り逃げするとでも言うのかい」
「「一般的な話です」」
「あ、はは、まあキャプテンの事は信頼しているけど書いておこうか、で、幾ら貸せば良いの?」
「アタシの予想では今回の報酬は20億マニは堅いね、只ゼクセリオンが用意したこの機体はハイエンド、装備と細々とした仕様の変更で22、3億マニは行くだろうから・・・」
「5億マニくらい?」
「いや、戦いには間に合いそうに無かったから見送ったけどね、オールペイントも掛けたいしミサイルポッド搭載で出て行く金もデカイ、運転資金も加算すると悪いけど7~8億マニは欲しいねえ」
「良いよ、じゃあ8億で見積もっておくからシェフィ契約書お願いね、正式なのはキャプテンの艦の売買と報酬が支払われたらにしよう」
「・・・分かりました」
「凄いですね、桁が違い過ぎて目の前がクラクラします」
シェフィはポンポンお金を貸してしまう私に若干不満そうだけど、キャプテンが艦持ちになれば8億なんて直ぐに支払い終えると思うよ、そういう問題じゃないのは解ってるけど、キャプテンなら本当に借り逃げはしないでしょ。
我ながら桁違いの資金にも慣れてしまったなあ・・・
「ニーナさんにも報酬支払うから慣れるよ、えーと結局今回キャプテンはアークに乗らなかったから」
「5%程ですね、キャプテンとは経験の差が有りますし」
「ふぇっ!?」
「仮に20億マニとして、1億マニか、安、・・・くはないか、いけない、精神的に少し財布の紐引き締めよう、シェフィも思う所あったら注意してね」
「はい、いいえ、ノワ様の資金運用に今の所問題は有りません」
「1億? いちおくまにって、いくらまに??」
「ニーナさん? おーい、もしもーし!」
遠い目をしたニーナさんは、いちおくいちおくと言って別世界に行ってしまった。
「無理も有りません、帝国軍士官、戦艦の新任副官の年俸が800~1000万マニ、手取り800万程となれば、数時間で10年分の稼ぎですから」
「あー、そう考えるとニーナさんも相当な高給取りだよね」
「ノワ様ほどではないと思いますが・・・」
「いやー、アハハハ、傭兵艦はまた別世界だと思うよ、常に生命を天秤に乗せてるんだし」
そう考えるとまともな職種じゃないよね、軍人のニーナさんの方が余程真っ当だと思うよ国家公務員だし、戦艦轟沈なんて戦争でも起きない限り有り得ないんだから小型戦闘艦乗りより遥かに安全だ。
うーん、2億くらい支払っておく? ニーナさんってアークに乗りたくて乗ってる訳じゃないんだよね、任務として搭乗した訳だし。
チラッとシェフィに目配せする、
「いちおくまに・・・」
シェフィは無言でふるふると顔を横に振った、あ、はい、今回は1億ってことでいこうね。
いやまだ報酬支払い確定してないから少なくなるかも知れないけど。
***
センターコロニー・グラッドストンへ帰還した時間がそれなりに遅かったので、ミュウちゃんには無事帰ったと一言メッセージを送っておいた。
ひと眠りというには戦闘のせいで少し昂っていて、シェフィは手続きで忙しそうなので私は食堂でホットミルクを飲んで気持ちを落ち着かせていた。
シュンと食堂の扉が開いた音がしたのでそちらを見るとニーナさんもラフな部屋着姿で食堂に現れた。
「ニーナさんも眠れないの?」
「はい、その、目が冴えてしまって」
「解るー、昂ってるよね!ホットミルク飲む?」
「たかっ!? あ、はい、戴きます」
ポチッと自動調理機のボタンを押すと数秒も経たずにホットミルクが出て来るので、ニーナさんに手渡して私は隣に座った。
「ノワさんも眠れないんですか?」
「うん、賊艦退治の時はそんな事無くなったけど、流石にあの戦況で集中力持続しているとね、スイッチが中々オフになってくれないんだ」
慣れた部分もあれば、慣れていない部分もある、私の場合長時間戦闘に集中している場合にずっとギラギラとしちゃってオンオフが切り替わらなくなっちゃう、キャプテンはベテランでその辺は慣れているみたいでお酒飲んでサッサと寝てしまうんだけど、私はまだまだだなあ。
「私も、初陣の時みたいにドキドキしてしまって眠れなくて」
「あー、そうだよね、初陣の感覚が1番近いかも」
私の時はシェフィとあれシて、これシてぐっすり眠った訳だけど、生存本能とかの関係なのか一般的な説の通り昂りが落ち着くんだよねえ。
「その、良ければ御相手致しますが」
「うん、・・・うん?」
「な、何度も言わせないで下さい、私で良ければ」
エッ、キャプテンは寝た、シェフィは忙しい、歳頃の昂ぶる女の子と女の子が2人、結果何も起きない訳も無く。
もじもじと指を捏ねくり回すニーナさん、しっとりとした黒髪は乾いていない、お風呂上がりの甘い匂い、耳を真っ赤にして上目遣いでチラチラと私の様子を窺う姿は歳上とは思えない初々しさに溢れていた。
「あの、初めてなので、優しくして下さい、ね、」
それは卑怯な一撃だ、会心の一撃と言い替えても良い、普段は凛とした軍人の雰囲気を纏ってカッコイイ系なのに、そんな乙女な姿を魅せて来るなんて男性相手だったら襲われているよ!
イケナイ、これはイケナイよ、私はニーナさんの手に指を絡ませてお説教する為に部屋へ連れて行った。
にんげんだもの。




