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ノワの方舟  作者: EVO
旅立ち
4/71

004.ノワの方舟4

書き貯めはこれで全部。

『オラオラ!ケツ振りやがって誘ってんのかァ?』


 下品な台詞をオープンチャンネルで喚きながらレーザーを撃ってくる相手に、私はゆっくりとした回避機動で誘っていた。


 ***


 星々の光が流星として流れて行く光景が広がる。

 光速航行に移行した事で、漸くひと息ついた。


「油断するんじゃないよノワ、必ず伏兵が居る」

「うん、やっぱりドライブジャマーされるかな?」

「十中八九、来るだろうね」


 ホロギャラクシーマップを展開して、今の航路だけに絞って表示させる。

 通常航行と比較して光速ドライブとワームホールドライブは安全と言われている、その理由は圧倒的速度と実質ワープとも呼ばれる位相空間移動技術によるものだ。

 ワープは帝国が管理するゲートを使用しないといけない分、料金も高額で安全性も担保されていて途中で妨害なんて事は出来ない。

 光速ドライブはジャマーが開発されているので、恐らくコロニーであれだけの騒動を起こす相手ならば確実に準備をして待ち構えているだろう。


 ギャラクシーマップを見れば大抵何処が襲撃ポイントになるのか解る、今回の航路では1箇所だけだ。

 予想される襲撃ポイントを指差すとキャプテンも同じ考えなのか頷いた。

 光速ドライブ中はオートメーションで航行される、襲撃予測点までは1時間程なのでキャプテンシートに座り直す、シムで使っていた自前の設定プリセットをアークに登録しておく事にした。


 そうして、予想通り襲撃予測点で光速ドライブジャマーを受けたアークは通常航行へと引き戻された。

 ギャラクシーデータバンクで照会した結果、相手は銀獅子級の元傭兵、複数の襲撃を警戒していたけど単機のみ、しかし傭兵としてのランクは上から2番目の銀とあっては油断ならない相手だ。


 まずは事前にプリセットしておいた設定のひとつで緩慢に、素人を装って逃げ回る。

 スロットル感度も舵取り感度も最低、ジェネレーター出力も30%程に意図的に抑えた激ニブ設定だ。

 左右にただ蛇行するだけ、そんな機動を見た相手はあっという間に余裕を油断へと持ち替えた。


『オラオラ!ケツ振りやがって誘ってんのかァ!』


 左に振れば針路を塞ぐようにレーザーが、慌てた様子で右に舵を取れば、またレーザーが針路を塞ぐ。

 レーザー砲の弾速は光速だ、基本的に回避は出来ない。

 ロックオンして撃てばほぼ確実に当たる兵器がここまで外れるのは、わざと外して遊んでいるのに他ならない。

 ベテランでもある銀獅子級元傭兵を相手に早々に逃げないのには理由があった、コイツは・・・


『もう少し抵抗してくれよ!あのアンドロイドみたいによ!』


 ママを殺した奴だ。

 私の居場所を探る為、ママに強制ハッキングを仕掛けた上に撃ち殺した仇。

 その時の事を聞いてもいないのにペラペラと得意気に喋る相手に苛立ちが募る。


「ノワ、やれんのかい?」


 静かに、私の意志を確認する様にキャプテンはサブパイロットシートから真っ直ぐ私を見つめて言う。

 それに対して私は無言で頷いた。


「そうかい、ならやれるだけやりな、だけどシールドセル残量1つになったら逃げるんだよ」


 勿論、爆散する気は更々無い。

 安全マージンはきっちり取るし、仇もきっちり取る。

 シムやテストとは違った緊張感、コントローラを握る手はじっとりと汗をかいていた。

 努めて冷静に、感情を無理矢理押さえ付けて自分を落ち着かせる。


『次はミサイルだぜェ、避けられるか?』


 御丁寧に予告までしてくれる

 光学モニタでも、計器でも確認された飛翔体はマイクロミサイルポッド。

 多連装型の小型ミサイルで追従性能に優れる、爆発の衝撃と熱量でシールドをガリガリ削り取る代物だ。

 シールドセルは残量4、何発も受ける訳にはいかないのでミサイルを回避する為にチャフとフレアをばら蒔いてマニュアル通りの回避機動を取る。

 そして幾度か敵の望むようにお尻を振ってあげた後、私は逃走に適した航路へと針路を取った。


『———』


 オープンチャンネルで声を垂れ流す敵から薄らと嗤う音が聴こえる。

 そこは岩礁地帯で敵の罠があった、マイクロミサイルポッドを事前に数発転がしていて、一定範囲に入った熱源を感知すると追従し始める、所謂「置きミサイル」だ。

 無論、私は知っていてそこへ突っ込んだ

 流石にキャプテンがサブシートから振り返ってチラリと私を見たけど、何も問題無い。


『ギャハハハッ!終わりだぜ子猫ちゃん!』


 爆煙に包まれる機体、視界も何もかも見えなくなる。

 慌てず騒がず、減衰するシールドにセルを注いでシールドを維持。

 同時、事前にセットしていた機体設定へ切り替える。

 進行方向と真逆、反転させて後ろに迫る敵機に艦首を向ける。フルマニュアルでスロットル、バランサー、姿勢制御スラスター等の感度が最高値に設定された機体は私の思い通り、ピタリと寸分違わずコントロールされた。

 並列処理で姿勢制御をしながらメインスラスターとサブスラスターを全力で吹かして減速、艦を保護している慣性中和装置の効力を超えた強烈な減速Gが身体をシートに押し付ける。


「ッ!」

「ぐっ」


 ブレードを起動。機体両翼と90度交差して配置されたそれは、魚のヒレの様に上下に展開。

 未だ敵機は目視出来ない、それでもレーダーやセンサーといった計器、数字は嘘をつかない、間違いなく爆煙の先に敵は居る。


「終わりはお前だ、賊は、死ね」

『ッ!?』


 自分でも驚くほど冷たい声が出た

 敵の息を飲む音が聴こえたのも置き去りにアークは加速した。

 5秒前、既に起動していたドライブによって光速へと加速したアークのブレードは敵機を真っ二つに切り裂く。

 最低単位のドライブ起動なので、加速直後にドオンッ!と光速ドライブ解除時特有の衝撃波と共に通常空間に戻る、加速から光速ドライブ解除まで0.1秒以下の時間だ。

 それでも既に敵機は遥か後方、2枚に卸された機体は無様な姿を晒していた。

 光速の攻撃はレーザー同様、回避は至難の業だ。


「マジかよ、イカれてるぜ・・・」

「流石ノワ様です」


 呆れたキャプテンの声と、成し遂げて当然と誇らしげなシェフィの声がコックピットに響いた。

 ママの仇を取れた事で、少しだけ、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった気がした。


「やったよ、ママ」





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