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ノワの方舟  作者: EVO
決戦、暗黒生命体
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暗黒生命体討伐戦線7

『ダメだ、持ち場から離れる事は許されない』

『だからこの宙域で人と艦を遊ばせるくらいなら劣勢の宙域か前線に行かせろって言ってるだけだって!』

『優勢とはいえ未だ当該宙域は制圧完了ではない、許可出来ない』

『無能かテメー? 残るならテメーら帝国軍だけで片付けろや、大してスコア稼いでねえだろ雑魚助!』

『貴様、口に気を付けろ!!』


「あ、このババロア美味しい」

「先日カフェで食したパイナポーで試作しました、良ければレシピ登録しておきましょう」

「わーい、これ好きー、シェフィも好き」

「ふふふ、いえーい、です」

「あのうノワさん良いんですか? こんなのんきにデザート食べてて」

「ん? いーんじゃない?」

『構わないさねニーナ、アンタの幼馴染が気を利かせて隊を分ければ良いのにグダグダと』


 オープンチャンネルでヒートアップしていく口論、音量を下げ気味にして私達はティータイムを楽しんでいた。

 今日のデザートはシェフィお手製のパイナポーババロア、舌触りが滑らかで舌の上で解けて消えて行く美味しさが試作とは思えない完成度の高さを思わせた。


『俺ぁ行くぜ、こんなの誰が見ても崩れるのは時間の問題だ』

『命令に背く気か!』

『バーカ!一生お仲間と言ってろ坊や!』

『行くぜ行くぜ行くぜーーー!』


 遂にウェルナーさんは傭兵を抑えきれずに突破された、ドドドドォンと半数程の傭兵艦が本隊左翼へと応援に向かった、残りの半数は大人しく宙域担当軍人のウェルナーさんに従っているようだけど、本音を言えば同化艦をほぼ片付けたこの宙域に残ってもうま味は少ない、何故か前進しだした本隊の戦力が薄い部分、左翼へ向かって稼ぎたいだろう。


『決まったねえ』

「うん、じゃあ行こうか」

「はい」

「なんか、その、すいませんウェルが・・・」

「ニーナさんが謝る事じゃないでしょ」

『なっ、ま、待てアークッ!ニー・・・』


 ズドォン!!!

 なんか止める声が聴こえた気がしたけど知ーらない、アークとブラックダイヤ号も他の傭兵艦に追従して本隊左翼へと光速ドライブを起動した。

 と言っても一応この場の上官に当るウェルナーさんを蔑ろにした訳じゃない、上位命令の帝国航宙艦隊旗艦であるヴァリガルマンダからの応援要請が届くのを予想していたので、艦首を左翼に向けて光速ドライブをスタンバイ状態のまま待機していたのだ。

 アークは超重力砲(グラビティブラスト)搭載艦なので絶対に要請が来ると思っていたし、キャプテンは金獅子級の戦力、当然の帰結だ。


 半分の傭兵艦と帝国軍の小型艦小隊居るなら大丈夫大丈夫、寧ろ制圧出来ないなら誰かが言ったように雑魚助さんだからね、頑張って!

 行く行かない、行かせないで揉めていた私達の担当宙域はなんだかんだで半々に割れたからね、勿論私達は行く派で待機していたんだけど、シールドセルや弾薬を補充して戻って来ても未だ口喧嘩していたからね、先頭切って行くのも後々槍玉に挙げられるから、トイレ行ってデザート食べてお茶してたんだよね。


 て言うか既に本隊左翼は若干崩れ掛けてる、なんで前進しちゃったかな本隊の指揮官は、引き撃ちで良かったじゃん。

 シェフィの試算だと本隊全体の1.2%の損害を出しているみたいで結構洒落にならない、通説だと艦隊の2割、20%が中破以上で全滅判定だから、早目に対処しないと暗黒生命体に抜かれて私達の後方、補給修理艦に被害が出てしまう。

 補給修理艦にも護衛は着いているけど、更にその後方にはグラッドストンが居るので抜かれる訳にはいかないのだ。


 制圧済みの宙域からは続々と左翼へ戦力が送られていて後手後手の対処になりはじめているし、最悪も考えないといけないかな?

 本隊が全滅判定出したら必ず1度撤退して立て直しを図る、その間に私は即座にセンターコロニー・グラッドストンに帰還してミュウちゃん達を回収、強引にでも暗黒生命体の包囲を突破して逃げさせてもらう。

 まだ勝機は潰えてないから頑張るけど、いや勝機というか敗因を潰し切れば負けないからだけどね、敗因は本隊の潰走、勝因は本隊が全滅しても持ち堪える事だ。


 ***


 ドォン!!!と程なく光速ドライブが解除された、メインモニターに表示された惨状に私は言葉を失った。


「こ、これは・・・」


 たかが1.2%の損害と侮るなかれ、対暗黒生命体の戦闘において爆散した艦以外はそのまま同化艦として乗っ取られた敵に回る驚異となる。

 駆逐艦や軽巡洋艦、重巡洋艦が数隻、赤黒い肉を装甲に張り巡らせて味方を撃っていたのだ。

 内部でどの様な変容があったのかは解らないけど、通常白、青系統のレーザー砲が暗黒生命体特有の真っ赤なレーザーを放っていた。


『乗っ取られてるねえ』

「ノワさん、最悪な事に艦橋が無事で撃沈に迷いが生じているようです」

「これは流石に手を出せない? あ、せめてコクピットパージでも出来れば」

「それは望み薄です、ご覧下さいノワ様」


 シェフィが惨状の中から拾い上げた映像がモニタに映し出される、それは艦橋をパージしかけて失敗した有様の重巡洋艦だ。

 赤黒い肉の繊維が艦本体から伸びて艦橋を逃がさないように捕らえている、艦橋がブラブラと浮遊しながらレーザーを放ち味方に襲いかかる様はなんとも言えないシュールな絵面となっている。


『撃て撃て!』

『しかしまだ乗員がッ』

『ああああっ!イヤだ、肉が足に、あ゛あ゛あ゛っ!』

『命令だ撃てェーー!!』


『仕方ないねえ、行くよノワ!』

「うん」


 地獄絵図の中へ私達は戦場へと飛び込んだ、狙うのは同化艦と艦橋コクピットブロックを繋ぐ肉筋、艦にまともに当ててしまうと爆発に巻き込んでしまう、パージされたブロックにはシールドが有るとしても艦搭載のジェネレーターとは切り離されている為、そこまで強度は高くない、狙いを澄まして肉筋に当てる必要があった。

 キャプテンは出力を絞ったレーザーで、私は対艦ブレードで同化艦とブロックを切り離して行く、戦闘速度で精密射撃を行える人員が軍には不足しているようだ、まあ小型戦闘艦は最初から賊の同化艦の為に宙域に散らして配置していたから仕方ないけど、駆逐艦級の射手ならこれくらいやって欲しいものだ。


『い、今だ、()えええー!』


 これで猛威を奮っていたいくつかの中型以上の同化艦が爆散した、ブロックは牽引(トラクター)ビームでまとめて戦艦空母方向へポーイと投げておく、流石にこれ以上は面倒見きれない。


『ゴ、ゴン、うわっ』

『ガゴン、ガリガリ、ひい』

『痛え、何だ、どうなってる』


 無造作に纏めたことでコクピットブロック同士がガランガランとぶつかってしまって慌てた声が響いた、ごめんね生きてるから許して。

 全滅判定が全体のたった2割って言うのも、負傷者や遺体の回収の為に倍の人と艦が必要になるからなんだよね、今放り投げた数隻分のコクピットブロック回収にしたって攻撃の手を緩める事になる航宙艦が数隻必要になる、被害が広がる前に対処して先手先手でいかないといつの間にか追い込まれてブロックの回収さえ出来ずに撤退なんて事にもなりかねない。


 最も高価なコストって人なんだよ、戦艦一隻が轟沈したとして人的損失の方が遥かに高くつく、育成費用や時間、勿論遺族への支払い等も考えると取り戻すのには時間もコストも更に掛かるんだから。

 仲間だから撃てないってこともあるだろうし、士官級になるとその辺りの計算も冷静にしているだろう、それでも撃墜命令が出ているのは同化艦による被害の拡大を減らす方がリスク管理として正しいと判断されただと思う。

 私だって助けられる人は出来るだけ助けたいけど・・・


『あ、ごぇ、だす、け・・・』

『xxxx.!?xxxxxx.xxxxxxu!!!』


 コクピットも人も完全同化してしまったものは撃破以外に助ける方法は無い、艦橋の内部、強化グラスの内側に赤黒い筋張った肉塊がひしめいているのはもうどうしようもない。

 完全同化艦に関しては帝国軍の方でも容赦無く極太レーザー砲を叩き込んでいるので、そういう事なのだ。


「ごめんなさい」


 謝罪をして艦橋を最大出力のレーザー砲で撃ち抜く、シェフィとニーナさんも出来るだけ助けられる様、いつも以上に丁寧に対艦スキャンをして敵味方識別判定をしてくれたので、助けられた艦は多かった筈だ。


『謝る必要は無いよノワ、戦場に出た以上は平等に敵か味方しか居ないんだ、アタシらが撃ったのは敵、それだけさね』

「・・・・・・うん、ありがとうキャプテン」


 賊艦を撃ち落とすのは構わない、彼らは人であって人にあらず、同化体に対しては中々遭遇する機会に恵まれないので何とも苦い気持ちが胃の中で溜まり消化しきれない気がした。

 これから慣れていけるのか、それは分からないけど今の気持ちは憶えておこうと心に刻んだ。







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