暗黒生命体討伐戦線6
『ノワ、そっちへ行ったよ!』
ズバッと肉塊小型艦を切り裂く、いつもならこれで勝負有りなんだけど暗黒生命体と同化した賊艦は止まらない。
2つに切り裂かれた艦は多少爆発を起こしながらも散る事なく触手を生やして襲いかかる、無機物と有機物の良いとこ取りのしぶとさを持つのが同化艦の嫌らしい点だ。
斬った断面に忘れずレーザー砲を撃ち込む、今度こそ同化艦は派手に爆発して散った。
「キャプテン後ろ」
『分かってる』
同化艦二機がキャプテンの後方に張り付いたけど、慌てずすかさずブラックダイヤから火力重視のチェイサーミサイルが放たれる、暗黒生命体に乗っ取られた賊艦には人の意志など感じられない、まともに数発ミサイルを食らったことでシールドごとボロボロになる。
『チェックだ!』
爆炎から同化艦が現れた頃にはキャプテンは既に艦首を相手に向けている、四門のレーザー砲の斉射で二機の同化艦は即座に爆散した。
各担当宙域当たり数千の同化艦はかなり多い、不意を突かれる事もあるし後ろも取られる、どれだけ早く反応して対処するか、複数機で死角を減らして協力することが生き残る重要な要素になる。
『だ、誰か援護を頼む!!』
「あー、はいはいシェフィ、艦名はサイレントブレイド?」
「アイマム、こちら傭兵ギルド所属艦アーク、サイレントブレイド支援に入る」
『頼む!』
「キャプテンさん、アークは援護に入ります」
『アイアイ!アタシの方も別の支援に行くよ』
『こちらはお任せ下さい』
同時進行でアークの行動、ブラックダイヤの行動がホロギャラクシーマップにマーキングされる、互いに連携しつつ付かず離れずで同化艦を処理していた。
やっぱり小型戦闘艦クルーは最低でも2人、余裕を持つなら3人居ると疲労度合いが全然違うね、私も戦闘にほぼ集中出来るし、オペレーターはシェフィとシェフィ(球)、アークとブラックダイヤの位置関係や連携はニーナさんに任せているから楽々だね。
援護先は3対20程の数的劣勢だった、それでも傭兵2機と軍艦1機が協力して持ち堪えている。
幸いな事に3機の位置関係はそれなりに集まっていたので、射線を予告して超重力砲を撃つ事にした。
予告データを受け取った3機は承知とばかりに動きを変える、同化艦を可能な限り集める様な機動を取り始めたのだ。
3機がアークへ向かって吶喊加速、彼らとすれ違った瞬間に超重力砲が火を噴いた、全敵射線に収めて放たれたソレは同化艦の大半をすり潰した。
「同化艦2、抜けた」
『任せろ!』
『たった2なんざ!!』
射界の端の方で捉えていた同化艦が中破しながらもアークとスライド、そのまま味方3機を追い掛けるけど20以上の同化艦を相手に渡り合った腕利きだ、反転攻勢数十秒も掛けずあっという間に撃破した。
『助かったぜアーク!』
『サンキュー、俺も超重力砲載せっかなー』
『救援感謝する』
「いえ、無事で良かったです」
超重力砲は載せない方が良いと思うなー、ジェネレーター消費が重いから艦としてのバランス悪くなるし、容量問題解決しないと並の小型艦では他の武装が実体弾ばかりになってしまう、物理系武装はミサイルとか速射砲、炸裂砲、電磁加速砲が有名だけど、ミサイルは精密機器の塊、速射砲は8000~25000/minで弾をばら撒くので弾薬費がバカにならない。
炸裂砲と電磁加速砲は比較的安く済むものの弾速が遅いので当てる事が難しいという問題が有る。
まあミサイルは高価な分シールドをゴリゴリに削ってくれるし、速射砲は対空砲として有用だったりと一長一短な面があるから、対費用効果を考えると悪くは無いんだよね、今回キャプテンが貸与されているブラックダイヤ号もレーザー砲四門に加えて二門のチェイサーミサイルを載せているのは費用が軍持ち且つ効果が高いからに他ならない。
『俺達は一度退かせてもらう』
『シールドセルが心許ないからな』
『私は、・・・いや済まない引かせてもらおう』
「はい、此処は任せて下さい、アークはまだ余裕があるので」
数の力で押されていた傭兵2と軍艦1は所々焦げ跡が着いていたりとかなり消耗した様子だった、うん素直に下がって補給と修理を受けた方が良いと思う、同化艦は火力も上がってるし、数も多いから削られるんだよね。
3機共に後方へと退いていく、私はどうしようかな?
「えーっと劣勢な宙域は・・・」
「ノワ様、1度ひと息つきましょう」
「ん? 大丈夫だけど・・・、そだね、少し休憩しようか」
「はい、超重力砲のチャージが終わるくらいの数分でも良いと思います、先は長いですから」
そうだね、このままでも行けるけど超重力砲の再チャージまで数百秒、ドリンクでも飲んで落ち着こう、休める時に休まないと連戦が続いて損耗したりする事もある。
超重力砲がいつでも撃てる、という状態でいるのも今回の様に数相手の時にはイザ切れる手札が多いのは強みだしね。
チューと手元に浮いていたドリンクホルダーからドリンクを飲むと、意外と喉が渇いていた事が分かった、うん、なるほどね、いつの間にかって言うのも結構あるから気をつけて行こう。
「キャプテンは?」
「戦闘中です、現在撃墜数トップスコアとなりますね」
「おー、負けてられないね」
「キャプテンさんは復帰戦ですよね、流石金獅子級」
「因みにセカンドスコアはノワ様ですよ」
「えっ、本当?」
「開幕戦で超重力砲を撃ったのが効いていますね、適当に混みあっている宙域で撃てばひっくり返る程の差しか有りませんよ」
キャプテンのブラックダイヤ号はレーザー砲四門とミサイルポッド二門だから瞬発火力に優れ、常に稼ぎ続けられるスタイル。
アークは対艦ブレード、レーザー砲と電磁加速砲二門ずつなので時間当たりの火力はそれ程でもないけど、数百秒に1度撃てる超重力砲で超広域破壊が可能だから稼げるスタイル。
稼ぎ方の方法も運用もまた全然違うけど、シェフィ(球)が観測しているキャプテンの戦闘データを見ると無駄も隙も少なくて流石ベテランって感じだ。
超重力砲のチャージ完了、その間に軽く身体を動かして解し、シェフィがドリンクも新しいのを入れてくれたので準備万端。
「よし、行こっか」
「いつでもどうぞノワさん」
「はいノワ様、・・・と、これはいけませんね」
***
「各宙域の状況を報告せよ」
『A-1からA-9Z、事前予測通りに推移』
『B-1 to B-9Z、一部劣勢、援護求む』
『C-1からC-9Z、予測より優勢』
『———ッ』
各宙域担当オペレーターから報告が一斉に挙がる、手元の複数モニタリングでも確認、AIサポートに従い戦力を割り振り直す。
「どうだ傭兵どもは」
「はい、全体的に優秀ですね、作戦は予定通り・・・、いえ僅かにですが優勢で推移しております」
「そうか、ッチ」
この指揮官、普段はいいけど傭兵との合同作戦になった途端にあからさまに不機嫌になるのは止めて欲しい。
舌打ちされても副官の私にはどうしようもないし、顔に出しても面白いことにはならないのでポーカーフェイスを貫いているけど、中央指令室を兼ねた戦艦ヴァリガルマンダの空気は最悪だ。
幸い指揮官は後ろで腕組みをして口を開かないのでまだマシだ、殆どの指揮は副官の私が執らせて貰っているのでその点では有難いのだが・・・
「前進だ」
「は、前進、ですか?」
「そうだ、今の戦況ならもう少し戦線を押し上げても良いだろう」
「いえ、お言葉ですが左翼側にあまり余裕が有りません、AI予測でも前進した場合に・・・」
「聴こえなかったのか、1.5前進だ」
・・・マジかよ、今時AI予測に逆らうメリットなんて無いのに前進なんて余計な損害を出しかねないだろう、私は手元で弾き出された予測を指揮官席に送信した。
0.5、1.0、1.5前進の場合の3パターンだ、全てのパターンで左翼から自陣が崩れる予測がサポートAIから導き出されている、前進して崩れるのが遅いか早いかの差でしかない。
自分ならこのまま引き撃ち安定、戦線の維持に専念する、せめて微速後退を停める程度で様子を見るのが良、
「微速前進!距離0.5!」
ああああ!馬鹿野郎ッ、中途半端に前進は止めないあたり器の大きさが知れるわボケ!!
復唱せよと言われなかっただけまだマシかと私は他人事のように宇宙を見詰めて諦めた。




