暗黒生命体討伐戦線5
暗黒生命体との遭遇宙域、開戦まで10時間——————
『以上が今回、暗黒生命体討伐戦線の作戦概要となる』
作戦なんて言っても大したことはない、帝国航宙艦隊を中心に傭兵と民間から協力を取り付けた民兵隊で陣形を組み、各星域から駆け付ける援軍が到着するまで戦線を維持する事、ただそれだけだ。
サジタリウス星系で参加した大規模作戦と同様、指定された担当宙域を僚機と共に戦い抜く事、前回との違いは暗黒生命体の数が過去最大で戦闘時間が長時間に渡る為、自己管理をしっかりして集中力を維持、休憩を上手い具合に挟まないといけない点だろう。
後方には帝国航宙艦の空母級、傭兵ギルドや航宙艦製造メイカーの補給整備艦が待機しているので適宜後退して修理と弾薬補充を受けられる。
その時に合わせて休憩を取ればまあ保つだろうと思うけど、援軍の到着まで戦い続けろというのは中々タフな作戦になりそうだ。
『1つ、質問が』
『何かね』
『限界を感じたら撤退しても?』
『君は戦う前から逃げる算段かね、自信が無ければ今此処から去っても構わないが?』
傭兵から1人挙手をして質問が飛んだ、退路やその時の判断についての確認だ。
Hahahahaとそれなりの数の嘲笑がオンラインブリーフィングで起こる、いやいや死にそうになったら退くよね、大規模作戦の主催は帝国軍だ、敵前逃亡とか後々言われて無報酬とか懲罰を食らったら堪らない、皆笑っているけど確認は大事だよね。
それにただでさえ敵は多数、味方は足りないってのに帰ったら?なんて皮肉よく言えるよ、今回の指揮官とはあまり仲良くなれそうにないね。
私は音声がカットされているか確認してニーナさんに話し掛けた。
「ニーナさん、あの人知ってる?」
「はい、残念ながら」
「残念ながら? 有名な人なの?」
「はい、傭兵嫌いで有名な艦長ですね・・・」
「えー、個人の好き嫌いをこんな時まで持ち込んじゃうんだ」
「何でも当時の恋人が傭兵に惚れ込んでフラレたとか、そんな噂が」
『カーッ、下らねぇなぁ!』
「ちょっとキャプテン、音声切ってるよね」
『あっ、しまった』
「ちょっと!!」
『冗談だよ、しっかり切ってるさね』
一瞬キャプテンの声が筒抜けになってしまったかと焦った、それにしても立場のある指揮官なんだから公私の使い分けはして欲しいなぁ、私達傭兵と帝国軍の小型戦闘艦乗りは暗黒生命体が賊艦を乗っ取った同化艦2万が相手だからそこまで波及しないけど、帝国軍主力本隊は5000兆オーバーの暗黒生命体が相手だ、変に意地張って引く所で引けずに戦線崩壊とかしないよね?
一抹の不安を残してブリーフィングが終わってしまい、私は何となく不穏な空気を感じたのだった。
***
『よおよおアークの! この戦いが終わったらどうだい俺と一戦』
『ギャハハハッ!テメーなんか相手にされるかよフニャチンが』
『んだテメー、ぶっ殺すぞ!』
『あぁん?やってみろよ、この童貞が』
『どどど童貞ちゃうわ!歴戦の勇士だわ!』
『プロ相手のな』
「最低・・・」
『やっぱアークの声良いんだよなぁ、誰か顔見たやつ居ねえのかよ』
『傭兵ギルドで見たぜ、銀髪のJKと金髪のアンドロイド、黒髪の美人とくせっ毛茜色大女の4人だ』
『全員女?』
『おお、全員女で、全員タイプは違うけど全員イケてるぜ』
『マジ!? 俺JKがいいな』
『俺は金髪だ』
『黒髪』
『ん、癖毛茜色の大女・・・?』
『アンタら調子くれてっと蹴り潰すぞ』
『ゲエッ!!ドレイクッ!?』
『し、失礼しやした姐御!』
『すいませんすいませんごめんなさいごめんなさい』
配置に着いてから下世話な話を繰り広げる傭兵達、私は音声のみで答えていたけど話の内容が酷すぎるので切ろうか本気で悩み始めた頃合いだった。
途中でキャプテンがカメラもONにして通信に参加、一喝すると意気揚揚と下品に笑っていた傭兵達が蜘蛛の子を散らす様にして一斉に通信を切ってしまった。
「キャプテン何かしたの?」
『ひっひっひ、さあてね?』
「なんかあれだね、下品さで言えば賊と変わらないけど、撃ち落とせる分、賊艦の方が気持ちマシまであるよね」
『『『・・・』』』
「ノワさん音声ONのままですけど・・・」
「え、ああ、うん知ってる」
やだなあニーナさん、わざとに決まってるじゃん
「戦闘中に間違って誤射したら捕まるよね」
『一機までなら間違いかも知れないねえ』
「二機は?」
『わざとかも知れない、間違いかも知れない、なんたってアタシらの担当は2万もの同化艦だ、間違いは誰にでもあるさねえ』
「そうだね、まあ5000兆よりマシだけど2万だって十分多いもんね、背中には気を付けよう」
『『『・・・ッ』』』
脅してないよホントだよ、2万の同化艦もこちらの味方の数を考えたら大群なんだから、背後 (死角)を気を付けるのは当然の対応だよ、別に背中に気を付けろよ、とか言ってる訳じゃないよ、間違った誤射はあるかも知れないけどそれは皆に言える事だからね (にっこり
逆にやられる可能性も勿論あるね、でも戦闘中は私は全周天に掛けて情報処理してるから不意は取られないと思うなあ、余程の超長距離狙撃とかなら兎も角ね。
「それにしても傭兵がモテない理由って言動と見た目が100%だよね」
「あ、それは私も同感です、収入は一般的に大金持ちと言って差し支えないのに、言動と身嗜みで全部台無しにしてますよね」
『そうだねえ、髭でも剃って大人しくしていた方が余程良いだろうね』
「まあ、ああいう言動取ってたら女の子の間で噂広がって誰も近付かないだろうけどね」
「近寄るとしたら本当にお金に困ってる人じゃないですか? 他の要素には目を瞑ってるんだと思います」
『『『・・・』』』
「ノワ様、キャプテン、ニーナ様、程々にしておかないと士気の低下に歯止めが掛かりません、そこまでにしておきましょう」
「はーい」
「えっ、あっ、失礼しました」
『ひひひ、ニーナは本音だったね』
こんなので士気下げて影響受けるなら最初から紳士的に行動しておいてよね、私達の士気を落とすのは良いのに、やり返されて自分達の士気落としてパフォーマンス下げるの馬鹿らしいでしょ。
私としても黙って聞いてるのも癪だから言い返すに決まってる、まあ下ネタ程度は何ともないけどママや家族について言われたら確信的に誤射するかもね?
『無駄話は終わりだ、来るぞ』
そう言ったのは帝国航宙艦隊、精鋭部隊第4小隊『ゲインパワー』小型戦闘機乗り隊長のウェルナーさん。
・・・うん、ニーナさんの幼馴染と担当宙域が被ったんだよね、幾つか宙域を割り振られた中でまさか同じ宙域に割り当てられるなんて。
大群の暗黒生命体の中でも同化艦は機動力が頭抜けている、足の速い同化艦だけが突出してこちらの陣形と接触するので、それ等を帝国軍の小型艦が釣ってばらけさせる。
釣られた同化艦を各担当宙域内で撃滅、2万の同化艦を処理し終わったら本隊に合流、そんな手筈になっている、簡単でいいね!
そもそも帝国軍の指揮下で傭兵が細かい作戦行動なんて出来ないのは先程の会話の中でも解る事だ、一応大雑把な伝令役で帝国軍小型艦小隊が宙域に派遣されて協力することにはなっているけどね。
『アイアイサー』
『や、やるぞ』
『お、おう』
『・・・うす』
ニヤニヤといつもの調子で明るい返事のキャプテン、へこんだ傭兵達多数の声と共になんとも締まらないカタチで大規模作戦の鞘当が開始された。




