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ノワの方舟  作者: EVO
決戦、暗黒生命体
34/71

暗黒生命体討伐戦線2

 ゼクセリオン・コーポレーションの重役を務めるお父さんから聞いたのだろう、ミュウちゃんは私達の身を心配してコールして来た。


『お姉様は作戦に参加為さるのですよね・・・?』

「うん」

『お気を付けて、あの、烏滸がましい発言とは自分でも思うのですが・・・』

「ん?」

『いざと言う時は私達の事はお気になさらずに逃げて下さいませ、私はお姉様にもしもがあった時の方が自分を許せません』

「ありがと大丈夫だよ、無理はしないし失敗もしない、必ず生きて成功させて、それでまた打ち上げの食事を一緒にしよう」

『はい・・・、はい!いつまでもお待ちしております、お姉様』

「うん、必ず帰って来るから皆で食べる美味しいものでも選んでて」

『ふふ、はいっ!』


 ミュウちゃんを安心させて私もホッとした、うんうん笑って待っててよ私失敗しませんから。


『え? お父様、替わって? 直接会いに? ズルいです私も一緒に行きます!』

「どうしたのミュウちゃん」

『あ、いえ、その、お父様がコール替わって欲しいと』

「私は構わないけど・・・」

『むう、折角のお姉様とのコールなのに・・・、お父様キライ!』

『ゴトゴトッガツ! き、キライ・・・、コラ!ミュウ!待ちなさい!はっ!?ご、ごほん、ええとコール替わったワタリです』


 ホロ通信の映像が乱れたかと思えばゴツンと痛そうな音と共にミュウちゃんから、お父さんであるワタリさんに相手が代わった。


「はい、えーっと、お久しぶりです」

『ああ、ううん、みっともない姿をお見せして申し訳ない、お互いにあまり時間がないとは思うのだが直接話をしたい事があってね、時間を取れないだろうか、勿論此方から其方へ足を運ぶつもりだ』

「はい、こっちはあと10数時間は自由時間なので、その間なら何時でも」

『分かった、すまない今から向かわせてもらう、それとキャプテン・ドレイクの同席もお願いしたい、詳しくは直接』


 ワタリさんはそう言うとコールを即切断した、なんだろう通信では言えない様なことでキャプテンも同席して欲しいって、あの様子だと本当に今すぐ向かって来るみたいだから出迎えの準備をしなきゃね。


「ノワ様どうされました?」

「あっシェフィちょうど良かった」


 シェフィがタイミング良くメンテナンスポッドから出て来たので、今コールであった事を伝える。


「なるほど、では食堂の方で皆集めておきましょう、ノワ様とキャプテン、お世話に私と揃うならニーナ様も同席した方が手間は掛かりません」

「そうだね、私からキャプテンには伝えるから、ニーナさんと出迎えの準備の方お願い出来る?」

「はい、かしこまりました」


 そして本当にスグ出掛けて来たのだろう、ワタリさんは30分程でアークを訪れた。


「お姉様!」

「コラコラ、ミュウ!御挨拶をしてからだろう、すいませんノワさん」


 嬉しそうに抱きついてくるミュウちゃんを受け止めて頭を撫でる、苦笑しながら注意するワタリさんに私は特に気にせず笑顔で頷いた。


「早速で申し訳ないが話をしたい」

「はい、食堂で良いですか? 皆集まってます」

「ありがとうございます、ほらミュウ、今は大切な話があるんだ」

「はあい、えへへお姉様ー」


 ふすふすと私の胸に顔を埋めていたミュウちゃんは腕を抱き込んで離れなかったので、そのままに寄り添って移動した。


 ***


「単刀直入に言おう、小型戦闘艦に乗らないかドレイク殿」

「アタシが? 悪いけど艦を購入する資金に乏しくてね、優しい艦長様から更に借金しても中古のエントリーモデルで精一杯、そんな艦で今回の作戦に参加するつもりはないよ」

「無論、艦はゼクセリオン・コーポレーションから供出しよう」

「ハッ!太っ腹なこったねえ、ぶっ壊しても支払いなんて出来ないよ!」

「仮に大破しても費用は請求しない、と言えば?」

「・・・何が目的なんだい」

「そうです、話が見えないんですけど」


 あまりに突然の話に皆怪訝な表情を隠せない


「っと、すまない拙速が過ぎたな、簡単な話だ、帝国航宙艦隊から戦闘艦の供出を求められてね、弊社としても生死の掛かる場面なので何隻か渡したのだが、小型戦闘艦だけ余ってしまってね」

「まあ、そんなこったろうとは思っていたけどね」

「どういう事キャプテン?」

「最新型の艦は中型大型共に少ない人数で運用出来るように造られているんだ、戦艦の人員を割けば頭数はかなり稼げるんじゃないかい? ニーナ」

「そうですね、交代の人員を多少削る事にはなりますが、駆逐艦級や軽巡洋艦級までなら戦艦一隻から中型艦数隻分の人員は出せると思います」

「その通りだ、実際我等ゼクセリオンの中型艦数隻、同業他社からも数隻の供出、相当数の中型艦を揃えられたようだ、だが」

「小型戦闘艦が余ったんだろう?」

「あー、そういうこと」

「どういう事なんですか、お姉様」

「つまり、今回の様に暗黒生命体の大群が押し寄せた時に必要な戦力って中型艦と大型艦の数なんだよ、重巡洋艦や戦艦級が居れば居る程助かる、1番火力を出せるからね」

「はい」

「中型艦に数人割くのと、小型艦に3人割く場合とでは今回の戦闘予測を考えると中型艦を増やした方がコスパが良い、でも製造側からすると小型艦の方が量産し易いんだよね、だから」

「あっ、単艦辺りの貢献度が良いのは中型艦、数を揃えやすいのは小型艦だから、小型艦が余ってるんですか!」

「そうそう、特に小型戦闘艦は傭兵の方が多いから、軍に小型艦を供出しても人が割けないんだよ多分、ニーナさん?」

「はい、小型戦闘艦はパイロット育成にコストも時間も掛かりますので帝国軍としては小型艦を渡されても動かせる人員が居ないと思います、小型艦は花形であると同時に常に人員不足ですから・・・」

「つーわけで、アタシの様な手持ち無沙汰になりがちな人間に声が掛かった訳か」

「その通り、弊社テストパイロットも前線には出ないがコロニー周辺の警備には参加する事が決まっている、・・・それだけ人が足りていないのだ」

「それは分かりますけど、キャプテンは片腕が・・・」


 サジタリウスで撃たれた時に左腕の肘から上が蒸発、治療をしないままなのでキャプテンは未だに隻腕だ。

 いくらベテランでも片腕で小型艦の操艦、しかも戦闘なんてリスクが高い、定期便を運航するのとは訳が違うんだから。


「まあ、そこは気にしなくて良いよ、ホレ」

「ええっ!?」


 キャプテンはコートの中から機械腕(メカアーム)を取り出した、そして徐ろに消失していた左腕に当てるとバチリと音がして装着が完了する。


「キャプテン、腕作ってたの!?」

「何事も次に備えておくもんさね、流石に肘と手首がグルグル回るのには違和感があるが」


 ギュイイイン、ギュイイイン!と手首がドリルの様に、肘から先もクルクルと回ってグーパーグーパーと機械腕を動かすキャプテン。

 元々はアークに同乗する事によって、私の評価がキャプテンの腕前と誤解されない為にわざと片腕のままにしていた筈だ、安物の機械腕や生体再生腕だと変な癖が付くからとも言っていたけど。


「ま、ボチボチ自分でも動かさないと鈍っちまうからねえ、費用請求されないってんなら乗らない話はないさね」

「それは良いけど、1人で? シェフィかニーナさんをそっちに乗って貰うとか」

「すいません、私はノワさんの下に派遣されてるので・・・」

「私もノワ様専属の家政(ホーム)メイドロイドなので」

「1人でも問題ないよ、金獅子級傭兵を舐めてもらっちゃ困る!」


 キャプテンの腕を信じていない訳では無いんだよ、これまでのサポートも適確且つ迅速なので先ず間違いないんだろうけど、流石に病み上がりの戦闘がこんな大規模作戦だと一抹の不安があるってものだ。

 暗黒生命体の大群相手ともなればオペレーターの1人有る無しでかなり負担は違ってくるからね。


「Mr.ワタリ、ゼクセリオン・コーポレーションの支援は艦のみなのでしょうか」

「人か? すまないけど此方も戦闘に堪えられる人員は・・・」

「いえ、宜しければ第3の私思(サードマイン)を一機貸与戴けると、キャプテン・ドレイクの艦も私の方でサポート出来ますので」

「第3の私思? お姉様、サードマインってなんですか?」

第3の私思(サードマイン)って言うのは、人造機械(アンドロイド)や私みたいな半機械生命体(ハーフメカロイド)のオプション装備で、簡単に説明すると多重思考操作端末(マルチタスクロール)で動くもう1人の自分だね」

「へえー、シェフィ姉様は分かりますけど、お姉様も扱えるんですか?」

「ううん、私は操艦に多重思考を全振りしてるから無理だよ、向き不向きがあって遠隔操作支援は苦手なの」

「現在、アークの支援はキャプテン・ドレイクを除いてもニーナ様と私で十分です、リソースは足りていますので第3の私思(サードマイン)の端末さえ手配して戴ければ問題は有りません」

「あ、ああ、それくらいならば問題無い、最高の物を用意しよう」

「サードマインもだけど、艦も準備間に合っているのかい? 30時間弱しかないだろう?」

「・・・死ぬ気で現場には頑張ってもらっている」


 うわぁ可哀想、突貫作業もいいところ、2日間寝ずに納艦整備、武装の取り付け、最終調整もするの?

 無茶苦茶だよね、通常ベースが出来上がっていても艦を注文して引き渡されるまで数週間は掛かる、現在の各航宙艦メイカーのドックは地獄の様な忙しさに殺されているよ、私もゼクセリオン・コーポレーションでアルバイトしていたから分かるけど、何事と順番と時間が必要なんだ、それを巻くという事はとても大変なんだから・・・


「一応、特別手当は出る、臨時給だ、軍への供出艦も全て買取りされるので本社は死んでもやれと・・・」

「その本社がお父様達じゃないの?」

「・・・」


 娘のミュウちゃんから鋭いツッコミが入って、ワタリさん無言で横を向いた。

 他人事のように言ったけど、その方針を決めたのはワタリさん()なんだよね、無理を言ってるのは分かってるんだろう、まあ暗黒生命体の数とか聞いてると死ぬ気でやれと言うのも理解出来るけどね。







死ぬ気でやれ、死ぬぞ。

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