因縁
「彼は悪人では無いんです、ただちょっと無神経な所が結構それなりに有って・・・」
「結構、」
「それなりとは、つまり『かなり』では?」
「ええ、まあ、でも悪意は無いんです、それが悪くも有り良くも有り」
「悪くない? あ、悪くなくなくない?」
「ノワ様、この際はっきり言った方が誤解もないでしょう、『悪い』と存じます」
「存じちゃった!?」
一応ね、こうムッとする点がそれなりにあったから私とは合わないなあ、なんて短時間の内に思っちゃった訳で。
ニーナさんの幼馴染って事ではっきり言い切るのは悪いかなぁ、なんて思ったからボカシた表現にしていたのにシェフィったら・・・
「ふふっ、そうですね、悪いです、ノワ様もお気になさらず」
幼馴染への悪口に気をわるくするかなと思っていたけど、心当たりがあり過ぎるのかニーナさんはクスリと笑って気にした様子もなかった。
ウェルナーさんは俗に天才という存在だったらしい、子供の頃からスポーツ、勉強とトップクラスの成績で親同士が知り合いな事もあってニーナさんとは幼馴染の様な関係だったらしい。
「こんなに優秀な子が彼氏になればニーナも安心なのにねえ」
「ウチもしっかりしたニーナちゃんがアイツを見てくれると助かるだけどなぁ」
なんて親同士がそういった婚約やら御付き合いを仄めかす様になったミドルスクール時代、彼にはいつの間にか付き合っている彼女が何人か居た。
「ウェルの好みのタイプは金髪、赤毛で胸の大きい明るい子が好きみたいで」
「派手好き?」
「そうですね、私は髪も染めた事は有りませんし、面白みのない女って陰で言っていたと、親切な彼女達が教えてくれました」
「うわぁ」
「ええ、うわぁ、ですよ、幼馴染で付き合いが長いってだけで敵認定されてますからね、私は一度もウェルをそういった対象に見たことは有りませんのに」
「一度も・・・」
「はい彼は学生時代は大抵何でも出来たので、モテたけど男友達は少ないんです、あんな感じでナチュラルに自分を上に置いて話を進めるので、女の味方と男の敵と女の敵って感じの環境で、手のかかる弟みたいな」
「あっ、ふーん・・・」
すごい簡単に想像がつく、いや普通さ、知り合いとか幼馴染でも肩掴まないよね、男同士ならまだ解るけど男女間では無い。
「ああ、そういえばあの頃でしたね、クラスの仲の良い女友達数人と男子数人でアミューズメントパークに遊びに行こう!って盛り上がって、スカートを履いて出掛けたのですが・・・」
「あ、察しました」
「出掛けの家の前でバッタリ会って、何処に、誰と、何しに、スカートはやめろ、と」
「ニーナさん、それ意味分かってます?」
「分かってますよ、彼が私に向けて好意を持っていた事くらいは、私としては隣近所の男の子ってだけなので知らないフリをしてました、彼も告白してくることは無かったので、それをまさか今まで引っ張るとは思いもしませんでしたが」
軍学校に入ってからは制服でパンツスタイルが常になった事、また度々言われていたこともあり、いつの間にかスカートは似合わないと刷り込まれていたようだった。
「先程、やはりスカートの事を言われて、あっこれのせいだ!ってハッと気がついて反射的に殴ってしまいそうになったので、実は我慢してたんです」
スカートぎゅっと握りしめてたのってそういうことか、私はてっきりハラスメントでニーナさんが萎縮したのかと思っていた。、
「私がスカート履いて、貴方に何か関係あるの! 好きなんだからほっといてよ!って怒鳴りそうになっちゃいました」
あー、言っちゃえば良かったのに、軍人だからメンタルコントロール効いてるのかなぁ?
因みに彼は遊撃艦隊の精鋭部隊所属、21歳で部隊所属は本当に凄いらしい、でも地方星域とはいえ旗艦の副官になったニーナさんも相当凄いよね。
「色々と人間関係で苦労したせいか俯瞰するのが得意になっていて部隊配属の時に上官に言われました、「君にはすぐに戦艦に乗ってもらう、艦長候補として頼むぞ」って」
「ニーナさんの方が凄い様な気がするんだけど?」
「はい、若年の士官候補は分かりますが配属時点で艦長候補は異例かと」
「適性試験で向いていたみたいです、彼は逆になんでも出来るけど立場を与えるには不安があるから、って遊撃部隊に・・・」
「納得」
その後もカフェで軽食を摂りながらニーナさんの話を聞いた。
「軍ってやっぱり力こそ正義みたいな思想が強いので、ナメられると終わりなんです、だから容姿に影響しない程度に身体置換技術を入れて、格闘技の組手の時には徹底的にやり合うんです」
「oh・・・」
い、意外とバイオレンスだねニーナさん、でも軍人だもんね若いとか女性とか関係無く、必要な時には武力行使する訓練を行ってるから当たり前か。
ギシリと拳を握った彼女はとても頼もしくみえた、そして彼とニーナさん、私達の因縁はこれからが本番だったのだ。
数日後、大規模作戦で傭兵ギルドから緊急招集が掛かった、内容はセンターコロニー・グラッドストンから程なく近い宙域において、暗黒生命体が大量発生したとの報告が帝国軍航宙艦隊旗艦ヴリガンダインから齎されたとの事だ。
傭兵ギルド内は殺気立っていて、訪れる度にナンパをして来るような傭兵も今日ばかりは情報端末と睨めっこ、カウンターで真剣な表情のギルド担当者と会話をしている。
暗黒生命体は元々大量に現れる存在だ、なので暗黒生命体現出、応援求む!となると稼ぎ時だと皆張り切る。
しかし、わざわざ「暗黒生命体が大量発生」と文言が付いた場合は桁が違う、最低現出単位数万が天文学的に跳ね上がる。
漆黒の宇宙が赤黒いグロテスクな肉塊によって埋め尽くされる光景はSAN値をガリガリと削り取る程の異様な光景になるだろう、私も記録映像で見たことが有るけど「うえっ」としか言い様がないグロさだ。
いくら資源の宝庫と言っても対処が出来ない数だと、対象宙域どころか星系をも滅ぼしかねない事態を巻き起こす。
これは俗に言われる『暗黒の海』と呼ばれ警戒対象宙域は戦々恐々となる。
対処法は1つ、帝国軍航宙艦隊の増援が到着するまでコロニーや避難民を守る事、大量のアンコは大艦隊で平らげる、数の暴力には数の暴力で以て対処するしかない。
あんこの海、あんこし、・・・こし、あん。




