理論、非理論。
「えい」
『うわあああっ!』
賊艦ズバー、相手は死ぬ。
「やあ」
『イヤだっ、死にたくな、』
宇宙海賊バッサリ、相手は死ぬ。
「とう」
『なんだ、なんなんだコイツは!』
航宙艦を切り裂く、相手は死ぬ。
「とまあ、こんな感じです、例えばα軌道でアークが近付くと敵艦の回避軌道パターンは3から5種類で確定します、この時点で・・・」
ホロギャラクシーマップ上をシミュレーターモードにしてアークを配置、分かりやすく敵艦も配置して特定の侵入角と軌道を表示させる。
この場合、敵艦の取りうる回避行動は艦首の向きと初動の姿勢制御スラスターの出方でパターンが絞られる、それを瞬時に判断してアークの軌道補整操作をしてあげると、丁度ブレードの進路上を敵艦が通ってくれるのでスパっと斬る事が出来るって寸法だ。
特にアークはメインジェネレーターもスラスターも出力がとても高い高機動型戦闘艦なので楽に当てられる、ブレードが当たるんだから、それより簡単な電磁加速砲を偏差射撃で当てるなんて楽なものだよ。
「ち、バケモノめ」
「ノワ様、並の人はブレードをまともに扱えません」
「そ、そうですね、そもそも電磁加速砲も命中率が高いなら帝国軍でも採用しています、今現在採用はされていないので・・・、その、」
その後ニーナさんはすぐに慣れることが出来た、次にアレが来るだろうと予測が可能になった事で酔いは軽減された。
今はブレードをどう当てるかについてキャプテンとニーナさんへ私なりの理論を教えている。
「いやいや、だから当たる当たらないって思考じゃなくて、『当たった』所から逆算して今のアークを動かすんだって、既に当たってるんだから外れないんだよ」
「キモ、無理に決まってんだろ天才か」
「私の個人的評価では努力を重ねきった天才というのがノワ様のパイロットとしての最終評価です」
「これ軍にデータ見せたら技術向上に活かせる・・・、ううん15歳でこのテクニック、心が折れる人が続出しちゃう、でも・・・」
キャプテン、キモって!キモって!!
最近キャプテンの私に対する扱いが雑になってる気がする。
ニーナさんが欲しいなら戦闘データは提出してもいいよ! え、参考にならないからやっぱり要らないって、シェフィは教科書通りのマニューバって言ってたから教導用に使えるんじゃないのかな、どうせなら高難易度マニューバも全部網羅しちゃおっか!
「お願いですから止めてください、死んでしまいます」
涙目になったニーナさんからもデータ供出は断られてしまった、解せぬ。
***
ニーナさんが酔い止めを飲んで航宙酔をある程度抑えた事で普通に宇宙海賊狩りをする事になった。
戦闘機動は手加減しない、結局変な手心を加えて艦を危険に晒すくらいならば吐瀉物塗れになってでも戦闘継続しようと決めたからだ。
お互いにそこはイヤなのでニーナさんには出来るだけ早く慣れてもらいたい。
『はははは、民間機が護衛も無しでノコノコと』
『あんな艦見たことねえぞ、出来るだけ破損させずに奪うぞ野郎ども!』
『おう! へへへ、女女女ぁ!』
『男は俺が貰うぞ!』
『白銀の外観なんて貴族か金持ちだ、稼ぎは期待出来るぞ』
何処の星系に来ても宇宙海賊は変わらない、殺し、奪い、貪る、銀河共通の敵だ。
ヒトの形をした暗黒生命体、帝国やギルド、一般人の共通見解のソレに遠慮や情けは必要無い、見敵必殺。
「ウエポンシステム起動、ジェネレーター出力を戦闘モードに移行」
「はい、ウエポンシステム起動」
「ジェネレーター出力異常なーし!」
「周辺宙域に他の敵艦はありません、目の前の賊艦5隻のみです、警戒を続けます」
『なあっ!?』
『武装だと!』
ガチャガチャッ、ウエポンシステムが起動したことで機体から二門のレーザー砲と電磁加速砲が露わになる。
武装を内蔵加工されたアークは一見民間の高級航宙艦に見えるだろう、しかしその中身はガッチガチの戦闘艦、民間機を略奪して改造された賊艦は相手にならない。
スロットルを上げてアークを加速させる、賊艦は全て後方からの接近だった、航宙艦の接近拿捕の場合は艦首の向きを併せて後ろから相対速度を揃える事が基本とされている。
艦首側、つまりヘッド トゥー ヘッドの体勢だと事故を起こしやすく、仮に機体武装を隠していた場合に真正面から撃たれる事にもなるからだ、航宙艦の設計思想では艦上部、特に前面に火力を集中しやすく造られているので接近は後ろからそっとが常識となる。
私の場合、後ろから来られても関係無いけど、っね!
武装展開、加速と同時に艦首を伏角180度、つまり後方に艦首を向ける、引き撃ちと呼ばれる姿勢だ。
武装の展開、民間機と思いきや戦闘艦、追うか諦めるか判断の時間など与えはしない、射程内に賊艦5隻を捉えたレーザー砲と電磁加速砲でマルチロックオン、合計四門が火を噴いた。
カカッ!とレーザー砲が賊艦のシールドを容易く貫通した、パワーに勝るアークの一撃は元民間機である賊艦の存在を許さない。
また、電磁加速砲から射出された物理弾もシールド、そして装甲を破砕する、これで5機中4機を戦闘不能に追い込んだ。
『なっ!クソがッ!』
そうそう逃げなら撃たれると追いたくなるよね、最初に後ろを取らせてあげたのも、アークが加速した瞬間、反射的に追いたくなる人間の心理を突いている、ウエポンシステム起動も同時、反転引き撃ちも同時、情報を一度に与えて意識の空白を作ることで棒立ち状態を作り上げる、そこを撃っただけの簡単なお仕事だ。
「凄い・・・」
ぼう然とニーナさんの呟きがコクピットに静かに響いた、まともな戦闘は初めてだから驚いたかな、基本にアークでの賊艦狩りは一方的だ、撃つ、爆散、撃つ爆散、撃爆散。
戦闘機動の出番なんてほぼ無いよ、じゃあなんで事前に体験して貰ったのかと言うと、いつ強烈なGが掛かる戦闘になるか分からないからだ、いきなりよりは演習しておいた方が良いでしょ。
『死ねェェェェ!!』
仲間を撃墜され、幾つもの誘いに乗った残り1機の賊艦がレーザー砲を三門撃ってきた、3つの光条がアークに迫る。
しかしこちらは戦闘艦出力の二重シールド、全てを受け止めて尚、欠片も揺るぎはしない。
シールドの削り合いはどれだけ先にレーザー砲を相手にぶち込めるかになる、シールドが堅くてもレーザーの出力が足りなくても数を撃ち込めば、いずれシールドは飽和してロストする、まあそんな事許さないけど。
カッ!カッ!と3本のレーザーがシールドに着弾、パルスタイプのパパパッと光線が幾度も幾度も着弾する。
「・・・」
アークを動かしてレーザー砲3本中1本を回避
「・・・」
慣れて、相手の呼吸を読める様になると2本回避出来る様になって来た。
『バ、バカな、光速の』
「レーザーを、・・・避けてる??」
「ノワ、遊んでないで終わらせな」
「遊んでないよ、偶に呼吸を読む練習しておかないとレーザー躱せないからさ」
光速のレーザーは不可避の攻撃だ、光を回避出来る人間は居ない、人間が航宙艦を操作している以上それは当然の結論になる。
でもね、タイミング次第ではレーザーも回避出来るんだよ、動いている艦と止まっている艦、どちらが当てやすいかと言えば止まっている艦になる。
回避機動を取りつつ、射程と射撃動作角を見極めて、相手の呼吸を呼んで撃たせてあげる、レーザーが通る道筋を織り込み済みでチョイっとズラせば簡単にレーザーは外れるといった具合だね。
具体的には一瞬だけ、思わずトリガーを引きたくなるタイミングで艦を止めてあげると撃ってくる、それを躱す、以上だ。
このテクニックは乱戦時や腕利き相手の時に生かせるので、偶に呼吸を合わせる感覚を忘れない為にやるようにしている、はいズドン。
「こんな感じだけど、どうかな」
「・・・」
「ニーナ?」
「あ、は、はい!大丈夫です!」
戦闘終了、ニーナさんに声掛けしても黙ったまま固まってしまって動かない、顔色は大丈夫そうだね、どうしたんだろう?
「どうされましたニーナ様、思った事は言って頂いた方が良いと思いますが」
「・・・いえ、その、我々の心配は杞憂だったと安心しております」
「安心?」
「はい、少なくとも航宙艦の戦いではノワさんが死ぬ事は無いと、逆に護衛任務時の気持ちが引き締まった思いですが・・・」
「あー、言いたいことは分かる」
「・・・です」
「え、どういうこと?」
「つまりだなノワ、アンタの傭兵としての腕は良いから簡単に爆散はしない」
「うん」
「生身の時に襲われた方が死にやすいんじゃないか? そうなると出歩く時の護衛に就いたニーナはドッキドキさね」
「なるほど、でも流石にセンター・コロニーのグラッドストンで堂々とは襲って来ないでしょ」
「それは流石に無いでしょうね、警戒をしておくことに越したことは有りませんが、グラッドストンコロニー内での犯罪行為は自殺と同義です、コロニーポリスの数がサジタリウスとは桁違いですから」
うんうん、ニーナさんは真面目だからあまり気負わないようにフォローしておこう、そもそも私は攫われる対象であって暗殺対象ではないから、襲われた時に護衛のニーナさんの方が危ないんだよね、その辺りはシェフィに後で言って含めておこう。
私は攫われても殺されない(筈だ)から、一度相手を泳がせて此方の体勢を整えてから助けてくれれば良いんだよね、最悪なのは護衛のニーナさんが死ぬ迄頑張ってしまう事だ、なんか軍の極秘任務みたいな感じで来てるから心配なんだよね、アークの艦長として気をつけておこう、うんうん。




