目覚めと仕事
「お姉様ぁ」
朝、と言っても艦内の擬似時候機能による体感朝時間、ゆるゆると覚醒し始めた意識に甘くあまえる声が耳朶をくすぐった。
ゆっくりと目を開けると私の胸元に顔を埋めて穏やかに眠るミュウちゃんが居た、スリスリと身を寄せる彼女の体温を心地良く感じながら、起こさないように髪を撫でつけた。
「んふふ」
お互いに薄着なので、・・・ううんナイトブラとショーツ姿なので直に肌と肌が触れ合い幸せな感触に酔いしれた。
いつもなら体格的に私がシェフィの胸に埋まるカタチなのだけど、私より5つ歳下のミュウちゃんが相手だと私が相手を抱き込む体勢だ。
これは、良いね、うん、凄い良い、埋まるのも良いけど埋まられる(?)のもなんか良い、手の平感があると言うか庇護欲や母性がとても刺激されて思わずギューっとしたくなる衝動が溢れる、シェフィが朝方目覚め時になると私を抱擁して離さない気持ちが今理解出来たよ。
「・・・」
ミュウちゃんが起きた、長いまつ毛がゆっくりと上がる、トロリと溶けた半覚醒の瞳が私を捉えるとフニャリと笑う。
「お姉様、おはょぉございますぅ」
「!」
朝の習慣かミュウちゃんはキスをしてきた、ああああ!
「夕べはお楽しみだったね」
「いや楽しかったけど、そういうのじゃないから」
「うひひ、そうかい」
「そうですよキャプテン朝から下世話な、但し撃墜マークはひとつ増えました」
あーあー聞こえなーい! 別に変なことしてないし?
そもそも欲求は主にシェフィが解消してるんだから大丈夫っ、げふげふんっ!
食堂で朝っぱらから変な話はしないで欲しいな、未成年がひとり居るんだからね!
「わ、私はお姉様が望むなら・・・」
「・・・」
聴こえなぃょ。
そんなモジモジしないでミュウちゃん、貴女はゆうっくり大人になって下さいね、私みたいに穢れた (いや汚れている訳では無い)大人に成人早々にならないようにね、しっかりサトゥーさんにも申し送りしておくよ。
「あー、今日の朝食は何かなー?」
「本日はクロマグロの煮付けと————」
うんうん、美味しい朝食は生きる活力だからね、体が資本の傭兵ライフは質の高い睡眠と栄養バランスの取れた食生活から始まるのだ!
私はキャプテンの話が聴こえないフリを、ミュウちゃんの台詞も華麗にスルーして朝食に手をつけた、パクパクウマー。
先に食べていたニーナさんはトレーを片付けて、私の横を通る時にひそりと声を潜めて言い放つ。
「わ、私はそういうの理解ある方なので、あの、よろしくお願いします」
「ナニガッ!?」
誤解だよニーナさん、艦に乗せた相手を片っ端からウフンアハンする人間じゃないからね、そういう航宙艦じゃないからアークは!
世の中には大型航宙戦艦でショッキングピンクなデリバリーサービスの展開をしている艦もあるらしいけど、違うから!
宇宙を股に掛けて、って喧しいわッ、ぜえぜえ・・・
***
キャプテンとニーナさんは朝食後に昨日のミーティングの続きをコクピットで、私とシェフィ、ミュウちゃんは部屋でこれまでの私達の事をお喋りしたりホロゲームをしたりで自由に過ごしていた。
意外に思うかも知れないけど傭兵の戦闘艦乗りは情報収集と打ち合わせ、それと移動時間が大半を占める、実際の戦闘時間なんて長くても数時間、疲労や集中力の低下は生存率に直結するので短時間戦闘が推奨されている。
軍やギルドの大規模作戦みたいに長時間に渡り拘束される事も有るけど、それにしたって一つ一つの戦闘時間は短いし、休憩を取らずに継続戦闘か休憩を取る為に合間をコントロールするのは個別の判断に任せられているのだ。
帝国軍単位だと人が多いので休憩と職務をローテーションして戦い続けられるけど、個人戦闘艦はあくせく働いたりはしない。
情報は傭兵ギルドやキャプテン、ニーナさんの軍の伝手を使って待つのみ、どちらかと言えば新クルーのニーナさんと役割の被るキャプテンとの擦り合わせが大切だ。
勿論、艦長兼メインパイロットとして私も参加する必要は有るのだけど、ミュウちゃんが泊まりに来ているのでその分は後回しにして貰った。
楽しい時間はあっという間で、昼食を食べてお茶をしている内にサトゥーさんがミュウちゃんを迎えに来る時間が来た。
「お姉様、お世話になりました、私の我儘を聞いてくれてありがとうございます」
「ううん、私も楽しかったよ」
「また・・・、いいえ、メッセージとかしても良いですか?」
「うん、何時でも、とはいかないかもしれないけど」
「はい! 絶対返して下さいね! 私ずっと待ってますから」
『また』も『絶対』も必ずとは言えない、私は戦闘艦乗りなんだから明日死ぬかもしれないのだ、それでもこういう約束は大切にしたいと思った、ママの時のような想いをミュウちゃんにはさせたくない。
「あ、待って」
コロニー内専用ビークルに乗り込む直前に呼び止める、ちょっぴり不安そうなミュウちゃんをギュッと抱き締めて、明るい茶色の頭を優しく撫でた。
「お姉様・・・」
「出来るだけ守るから、またね」
そっと、私は在りし日のママがしてくれた様にミュウちゃんのおでこに口付けをする。
「あ・・・、えへへへ、はい!」
お別れは笑顔で、それに最期にはしないんだからこれで良いよね、遠ざかるビークルに手を振って私達はお別れした、偶にはこんな穏やかな日常があっても良い。
「さーてと、ミーティング参加しようかな」
「はい、キャプテンとニーナ様の間では概ね意思疎通の確認が終わったようです」
「後は私とかな?」
「はい、いいえ、艦長メインパイロットのノワ様はアークの中心です、実戦でニーナ様が合わせる事を覚えた方が得るものは大きいでしょう」
確かにね「アレやるよ!」なんてサブパイロットやオペレーターに一々宣言したりしない、確認を取るのは爆縮弾や超重力砲のような広域破壊兵器くらいかな、この2つは宙域に多大な影響を及ぼすから効果範囲やタイミングをしっかり周囲の艦に予告通達して撃つからね。
それ以外だとレーザー砲、電磁加速砲、ブレード、操艦の直接戦闘に関係するのは私が、そこにキャプテンが索敵、フレア、チャフ、電子欺瞞装置のフォローとシェフィの通信管制をそれぞれ合わせる形だ。
言われてみればそうだね、私に合わせて貰うしかないんだから実戦が一番になるかも、一応何回かアーク搭載のシムで連携の確認を取ってから出航、少な目の宇宙海賊を見繕って実践かな?
「それとニーナ様の護衛能力の確認も必要ですね」
そうだね、近接能力と射撃能力の確認もだ、ニーナさんのことは信頼しているし、まさか帝国軍提出のデータが偽物って事は無いだろうけど、身の安全を実地で試す訳にもいかないもんね。
私は弱過ぎて相手にならない、キャプテンは片腕、となるとシェフィとの手合わせが一番無難かな?
治療ナノマシンや医療ポッドも有るし、シェフィが手加減を誤るとも思えない、そもそもニーナさんは軍人で身体置換技術を4%程入れているから並の人間より遥かに頑丈な筈だ。
通常なら、人間<半機械人間≦亜人種<機械人間<人造機械の順番が身体強度の差になる。
訓練とトレーニングを積んで身体置換技術を入れた軍人だと機械人間クラスまで行くのかな?
まあ民生仕様と軍用仕様でこの順番は簡単に入れ替わるから一概には言えないけど・・・
ハーフメカノイドのノワは握力50kg位あります。




