撃墜王
ミュウちゃんのお泊まり会とニーナさんの歓迎会は一緒に行われる事になった、シェフィと自動調理器の本物食材による手料理とキャプテンセレクションのウエルカムドリンク (私とミュウちゃんは生搾りフルーツジュース)、贅沢品だけどセコセコ貯め込んでばかりじゃあ面白くないので、使うべき時はドーンと使うのです。
「では、新たな出会いにカンパーイ!!」
「乾杯!」
「乾杯です」
「よろしくお願いします」
「戴きますお姉様!」
乾杯の音頭を執るとドリンクを一口含むと合成食とは違う天然の甘みと酸味が口に広がる
「こんな高級品本当に良いんですかお姉様」
「良いよ良いよ、遠慮なくおかわりしてね、ほら料理も好きに取って貰って」
「はい、ありがとうございます!」
料理も生鮮食料品区画で仕入れたばかりの物をふんだんに使っている、見た目がグロいバケモノみたいなアンクオは姿造りに、クロマグロは煮付けと刺し身、ネギトロォにされた。
「アンクオ気持ち悪いね」
「ですね、でも美味しいです!」
アンクオの頭はそのままに体の部分が捌かれているので見た目のインパクトが強い、顔だけ見たら絶対食べようとは思わない見た目だよねアンクオ。
でもその身は脂がのっていて山葵醤油をちょっと付けて食べると美味しいのだ、頭は最後のシメに鍋で米と一緒に煮込んで雑炊にするらしい、頭はコラーゲンが豊富でお肌がスベスベになるとか。
「ニーナさん楽しんでますか?」
「はい、わざわざ私の為にありがとうございます」
「ううん、これからよろしくね」
「はい!」
ニーナさんは結構な大酒飲みのようでカパカパとグラスを空けていく、顔色も全然変わらないので本当に強そうだ、でも顔に出なくてイキナリ中毒で倒れたりする人も居るからシェフィに視線を送った。
「体内アルコール問題の無い数値を推移しております、所謂酒呑みと云う存在ですね」
簡易解析で念の為こっそり診てもらっても問題ないようで一安心、ていうかそんなにアルコールに強いんだ、私なんてひと口、ううん数口くらいで記憶無くなるのに・・・
身体の大きさを考えるとキャプテンが1番大きくて、次にシェフィ、ニーナさん、私、ミュウちゃんの順番だ、お酒に対する強さは身体の大きさは関係無いんだね、キャプテンは割と早い段階で上機嫌に顔を薄ら赤くしてチビチビ呑んでるタイプ、お酒は好きだけど量は飲まない系だ。
ニーナさんは・・・
「コレは2580年物の・・・」グビ
「あ、話題のローシャウオッカ」グビ
「キャプテンさん、このブランデーまさかっ」グビ
「お、おう」
お酒が水のように消えていく、蒸留酒&ショットグラスはひと口、ワインはゆっくり飲むけどブランデーのペースは早い、あのキャプテンが面食らって若干引いてるレベルだよ、まあテーブルに出したお酒は飲むつもりだったから飲まれても怒ることは無いだろうけどペースと量が凄い。
「お姉様、ニーナ様凄いですね」
「ね、おつまみも消えていくし、アレであの体型維持って・・・」
「うう、羨ましいです、私太りやすい体質なのでスナック好きだけど我慢してるのに」
「分かる」
「世の中理不尽ですね」
「解る!」
私とミュウちゃんは更に強い絆で結ばれた気がした、世にいう「カロリーの理不尽同盟」結成であった、・・・冗談です。
「一説によると身体置換技術によって消費カロリーが増えていると云う知見が一部であるようですね、勿論技術的には否定されていますが未だに人の体は未知の部分も多いので簡単にオカルトを否定も出来ません」
「へー、じゃあ私も身体置換技術入れたら・・・」
「お姉様はダメです、綺麗な体で居てください」
「激しく同意致します、許しません」
「ア、ハイ」
有無を言わさないシェフィとミュウちゃんに頷かされる、これは反論してはいけないのかな。
でもアルコール分解体質とか出来るよね確か、毒物及び劇物分解の体質変化系でもエントリーレベルの技術だった筈、あれを入れたら私もお酒を飲めるように・・・
「飲めないノワ様が良いのです、激しく、荒々しく、ドエ・・・、ごほん」
「え、なに、ドエ?」
「はい、いいえ、ナメクジのような素晴らしい体験が、いえ、何でもありますが何でもありまスン」
「スン!? どっち!?」
シェフィの言動が少しおかしい!
う、初めての時のお酒の記憶がッ、うごごご。
気持ち的には思い出したいような、湧き上がる感情的には思い出してはいけないような謎の葛藤が心に生まれた、私本当にあの時なにしたの!?
***
ハチャメチャな歓迎会兼お泊まり会の宴はどうにか秩序を保ったまま終わることが出来た、洗い物は浄化システムに容れてお終いだから手間は掛からない。
キャプテンはほろ酔いで部屋に戻って行った、ニーナさんは「はっ!お任せ下さい!」と突然敬礼したかと思えばモップ掛けを初め、終わったら静かに部屋に帰って行った、見た目には判らなかったけど意外と酔ってた?
シェフィにテーブルの清掃を任せて私とミュウちゃんは一緒にお風呂に入る事になった、なんで一緒に入る事になったんだっけ、まあいっか?
こういう身内だけの時はキャプテンハットはコクピットのメインシートに置いてある、見られて困るのは対外的な民衆とか大勢の人間って感じだからね、基本は無帽でシェフィにヘアセットされたままアークの艦内を歩いている。
脱衣所でヘアピンと髪飾りを外し髪を下ろす、白銀の髪も容姿偏光技術が解除された当初は違和感しか無かったけど慣れたなぁ
「お姉様、綺麗・・・」
「あまり見ないで、恥ずかしいから」
ウェアを脱いでいると、ホウとため息を吐きながらミュウちゃんが言った。
「なめらかな白いお肌、白銀の御髪、青空や海よりも深い蒼眼、お姉様本当に皇族じゃないんですか?」
「・・・」
や、そうだよね、誰でもそう考えるよね、私もこんな容姿の人間見つけたら疑問に思うもん、ミュウちゃんが疑問に思うのも当然だと思う。
言いふらされるのは困るけどミュウちゃんはそんな事しないだろうし、ここまで懐かれて騙すような真似も心苦しいなぁ。
うーん・・・、よし! 私は決心して行動に移した、人差し指を立てて自分の唇に当ててシーと言いながらウインク、そのままミュウちゃんの唇にも人差し指をちょんと触れる。
明言はしないけど、頭のいいミュウちゃんなら理解してくれる筈だ。
「はうう!!」
あれ? 私は神妙な顔で頷くのを予想したんだけど、予想に反してミュウちゃんは顔を真っ赤にして無言でコクコクと頷いただけだった。
そっと自分の唇をフニフニと触れてポーっとしている、・・・待って、違うからね?
「流石ノワ様、もう撃墜しましたか、さすノワ」
脱衣所のドアの隙間からシェフィがニヤリと呟いてすぐに立ち去った、待って、違うよ?
「・・・おねえさま」
ほおう、と先程より遥かに熱量の高いため息が脱衣所に静かに広がった。
ノワ様は御自分の容姿が世間一般的にどのランクか理解すべきです、シェフィから言われたそんな会話が出会った当初あったなあと私は思い出していた、あの時の私は「ふふふ、ありがとう」って言って、シェフィのお世辞だと思って軽く流したんだよね、いや別に口説くとか落とすとかそういうつもりは全く無いですけどね!?
落とした。




