賊艦狩り
ミュリエル・ゼクセリオン、G星系へワームホームドライブで光速移動して来た初日にして賊艦に襲われていた所を助けた女の子。
お父さんであるワタリ・ゼクセリオンさんはゼクセリオン・コーポレーションの常務取締役で、結果的に娘さんを護った私達に御礼をしたいという希望から御付き合いする事になった友人だ。
私的にはミュウちゃんは妹の様な感覚で、ミュウちゃんもお姉様と懐いてくれて良い関係を築けている。
トラブルメイカーなのかミュウちゃんと出掛けたデパートでは『全生物救済の会』とか言う変な団体のテロリズムに巻き込まれたりしたけれど、コロニーポリスやキャプテンら傭兵の活躍で事なきを得ている。
あの日、私とシェフィ、ミュウちゃんとサトゥーさんは結果的にテロとは関係なくゆっくり過ごせたけど、騒動解決直後にお父さんであるワタリさんが取り乱しながらデパートへ駆け付けた時にはミュウちゃんが突然泣き出してびっくりした。
テロの恐怖もあったのだろうけど、それ以上に仕事を置いて自分の所へ来てくれた事がとても嬉しかったとこっそりメッセージで教えてくれた、・・・うん、良いなぁ。
「仰角135、10時方向!」
「捕捉問題無し!」
「次、伏角・・・・・・ッ」
毎日遊んで暮らす訳にもいかず私達アークは宇宙海賊狩りを再開していた、航宙艦産業が盛んだということで前星域と比較して約数%程、賊艦の性能は高い事がこの数日で判明していた。
まあアークの性能からすると誤差のレベルなので、ウエポン出力も以前のままで運用する事にしている、初めて遭遇した時は安全策を取ってパワー高めに撃ったら賊艦3機とも粉々に破砕しちゃったからね。
絞り込んだ宇宙海賊の遭遇地点を腕試しに訪れると大当たりも大当たり、18隻もの大小航宙艦との遭遇戦になってしまったので現在油断なく交戦中だ。
「7!」
『ブレード遣いの白銀の小型戦闘艦、まさか処刑人ッ、ダメだ逃げろー!!』
『嫌だ死にたくない、助けッ』
「8! 9!」
『処刑人って言やあ、対艦ブレードで駆逐艦の対空を抜けてクビを落としたとかいうバケモノじゃあ!?』
『逃げろ逃げろ!万に1つも敵う相手じゃねえぞ!』
大型艦2隻、中型艦1隻、小型艦15隻で単体の宇宙海賊で言えば中々の規模だ、数は分かりやすい暴力で、ベテラン1機を素人艦が犠牲を出しながら押し潰す展開もなんて事もあるのだから最後まで油断はせずにひとつひとつ潰していく。
大型艦は後部メインスラスターに超重力砲の放射モードでは無く、射撃モードで脚を止める。
射撃モードは球状の超重力球を射撃、一定時間保持させる機能で対象を圧壊させたり物理弾を曲げたりする事が出来る。
2門のレーザー砲でシールドに穴を開け、その穴からスラスターへ向けてショット! グシャグシャとメインスラスターを潰し、誘爆の恐れを極力落として機動力を奪う攻撃だ。
後は大型艦の有効射撃角に入ること無く張り付いて、小型艦を撃ち抜く簡単なお仕事となる、相手はシールドがロストしている大型艦を撃てない、撃っても私は躱すのでやはり簡単には撃てない、まごまごしている内に小型艦の大半は撃墜といった感じだ。
当然大型艦を盾にしていても止まっていたら狙い撃ちにされるので、装甲の際を這うようにアークをコントロールする。
『後退しながら撃ってくるぞ!』
『ベースごとやるしかねえ!』
『ダメだ、商品がしこたま載ってんだぞ、狙い撃て!』
『テメーが当てろよ!ボケ!』
ギャーギャーと騒がしい賊艦が言い争っている間に、大型艦2と中型艦1の対空砲火をチマチマ潰してしまえばもう打つ手なし、覚悟を決めた小型艦が大型艦ごとアークを撃って来ても援護は無くなっているので、此方は遠慮無く大型艦から離れて戦闘機動を取るだけだ。
艦の性能、操艦技術の差は歴然、バンバンと残りを撃ち落として終わりという訳。
「ふう、一発目にしてはヘビーだったね」
「ですが無傷での大勝、流石ですノワ様、さすノワです」
「運が良いと表現しても良いし、悪いと表現しても良いねえ、ま、こんな日もあるさ、シールドセルも6個中4個残量となれば余裕の部類だろう?」
「そだね、数は多かったけど腕は大した事ないし、キャプテン帝国軍艦隊に通報は?」
「してるさ、それよりもお楽しみの・・・」
「宝探し、だね!」
大型艦も中型艦も手脚をもぎ取った状態で生け捕りだ、対空を潰して、脚を潰して、主砲は残ってるけど射角は無い、あ、今諦めが悪いのか姿勢制御用スラスターでヨロヨロと回頭していたけどバーンしてお終い。
帝国航宙艦に通報して拿捕して貰うのが1番お金になる、到着までの間は撃墜した小型艦の宝探しでオーケーだ。
アークにはキャプテン用の強化外骨格が積んであるけど、たった1人で数十人居るであろう大型艦中型艦の制圧はリスクが高い、余裕が有るなら拿捕制圧用途の戦闘ポッドを買っても良いけど、今の所必要性は感じないので購入予定は無い。
キャプテンを積極的に前線に出すのもイヤだし、帝国軍に通報して来てもらい、ゴリゴリマッチョマンの強化外骨格部隊に制圧して貰うのが1番よ、賊艦って汚れてて臭いことも多いし・・・
お風呂入った方良いよ?
大部隊だけあって「宝探し」は盛況だ、小型艦でさえレアメタルや資源類を満載していたりするのでアークのメインモニターに表示されている暫定予想収入の金額がモリモリ上がって行く、100万マニから数百、1000万・・・。
食料品や酒類も豊富に出て来る出て来る、人が多いからこの辺りも自然と多くなるね、但し食料品はアークの方が質が高いので売却、酒類はキャプテンが好きだけど余程珍しく無い限りはこれも全て売却だ、解析装置を通していると言っても気分的にあまり良くない、賊艦だとやっぱり安酒が多くてキャプテンの口には合わないみたいだし。
まあアーク乗りたての頃はお金も何も無いから漁っていたみたいだけど、今はそれなりにお金があるのでそういう行為はしていないみたいだ。
宝探しでじっくり吟味していると、ドォン!ドドドォン!と光速ドライブから離脱した帝国軍の艦隊が私達の通報を受けて現れた。
宙間戦闘時、小型艦に関しては殆ど生存者は存在しないが、今回の戦闘では大型艦中型艦の居住区画は潰していないので軍人の出番だ。
通常、手脚をもがれた状態で抵抗なんてまずしないのに、諦めの悪い賊は最後の最後まで暴れてやるといった存在が居る。
生死問わず(デッドオアアライブ)の宇宙海賊は最悪の場合、艦を撃沈してしまった方が楽なので抵抗即撤退、艦砲射撃なんて軍人も居るくらいだ、そんなイザコザに巻き込まれたりしたくないので状況を説明しつつ戦闘ログを提出、さり気なく艦から距離を取る。
それからは粛々と状況が進んで行ったので、激しい抵抗も無く賊達は捕まる事を選んだのだろう。
『此方は帝国航宙軍旗艦ヴリガンダイン、艦長のヘイムダルだ、傭兵ギルド所属艦アークに問う...』
状況を見守り帰るばかりの私達に旗艦ヴリガンダインから通信が入ったのは、軍艦による賊艦の曳航準備が整ったタイミングでの事で、私とキャプテン、シェフィはお互いに目を見合せて驚いた。




