襲撃
「お姉様・・・」
「大丈夫、直ぐに助けが来るから」
ミュウちゃんの不安に揺れる瞳が私を見上げていた、私は彼女を安心させるように優しく抱きしめて背中を撫でつけた。
「お姉様の瞳と髪は皇族みたいで美しいですね、どうして隠して仕舞うのですか?」
「えっ、ほら、結構間違われて大変な事になったりするから、かな? あははは」
ミュウちゃんとデートをするこの日、私の格好はキャプテンハットとパイロットスーツの傭兵スタイルではない。
キャスケット型のふっくらとした唾付き帽子に白銀の髪を収め、赤いフレームの伊達メガネで目元をカバーした格好でデートスタイルにコーデしている、勿論コーディネートの主力はシェフィのセンスで我ながら可愛らしくまとめられていた。
ミュウちゃんも良い所のお嬢様のような格好で、明るい茶髪に白いブラウスと黒のワンピースでおめかしして来ていた。
うん、紛れもないデートだね、後ろからは執事のサトゥーさんとシェフィが少し離れて着いてきていたのだけど、私達は「お姉様」「ミュウちゃん」と手を繋いで楽しくウインドウショッピングを楽しんでいたんだ。
センターコロニー・グラッドストンの主要街、その中心にある大規模デパートで事件は起こった。
今日、私は先日知り合ったミュウちゃんとお出掛けをしていた、宇宙海賊狩りをするには未だ近辺宙域の慣熟が済んでいない事と情報の未習熟が要因だ、ノコノコと宇宙を飛び回って待ち伏せを食らって爆散では目も当てられない、こういうのは傭兵ギルドやギャラクシーマップとの睨めっこや航宙艦クルーとのディスカッションをして詰めて行くのだけど、センターコロニー近辺は治安が良く宇宙海賊の出没宙域の絞り出しには時間が掛かっていた。
そんな時に連絡先を交換したミュウちゃんからお買い物のお誘いが来たので、私とシェフィは気分転換に外出、キャプテンはのんべんだらりとアークに残る事となったのだった。
しかし、出掛けた先のデパートで事件が起こる、生鮮食品を多く取り扱うグラッドストンで不満を持つ団体『全生物救済の会』がテロリズムを起こしたのだ。
なんでも『全生物救済の会』は生鮮食品の不買運動を行っていた団体で、この程「我々は合成食100%を信念にこの度決起した!!」と、迷惑極まりない理由で光線銃を片手にデパートを占拠したのだった。
まずさ、合成食も元は生物なんだよね・・・、暗黒生命体の分解タンパク質とか培養藻、培養肉、有機物である以上、私達人類の食糧はほぼ全てが生き物と言える。
生の野菜はコストが高過ぎて一般的じゃないし、仮に量産効果で安くなったとしてもそれだけでヒトは生きていけない。
「いざと言う時は私が盾になりますので御安心を」
「シェフィ、それはダメ」
「聞けません、これは私の存在理由です、ノワ様のご心境は深く存じておりますがこればかりは絶対に聞くことが出来ません」
「でも・・・」
「御二方共、落ち着きましょう、今の所危害を及ぼすような行為は無いようですので静かに待ちましょう」
サトゥーさんのひと言に私とシェフィは止まった、そうだね此処で熱くなっても仕方ない。
いざ、なんてあってはいけない、ママの時のような想いは二度としたくない、シェフィも家族なのだから。
それに『救済の会』は武装してデパートの出入口を押さえているだけで、此方の行動を制限する様な事はしていない。
立て篭りなんて成功する事例は殆ど無いのだから、彼等と距離を取って大人しくしていればコロニーポリスや軍、傭兵が強化外骨格を着たゴリゴリマッチョマンが大挙して解決してくれると思われる。
「上に行こう」
「え、でもお姉様、上へ行くと逃げ場が・・・」
「大丈夫だよ、テロリストもポリスも出入り口は地下と1階でしょ? 強化外骨格装備のテロリストは見当たらないから上から襲われる事は無いはずだよ」
逆に言えば、強化外骨格を装備した救出人員は数階上や屋上から隠密行動で侵入、内部からと外部から強襲を掛けて制圧するんじゃないかな?
そうなると1階の出入口に近ければ近い程危ない目に遭いやすい、テロリストが一般客の中に紛れてないとも言いきれないけど、上の方で保護された方が遥かに安全だと思う。
立て篭り犯が成功しないというのも理由がある、解析装置だ、航宙艦さえ丸裸に出来る解析装置が有るのに高々コロニーのいち構造物に手間取る理由は無い、設計図と解析装置の結果を合わせて、人の配置も丸裸、優秀なコロニーポリスと軍は早々に解決してくれるだろう、私達に出来るのは争いの場から出来るだけ離れて身を隠す事だ。
ミュウちゃんはゼクセリオン・コーポレーションの重役の娘、私なんて皇族 (っぽいと思われてしまう)容姿でノコノコとテロリストの目に止まれば、利用されること間違いなしだ。
幸い私達が上層階に居るタイミングでテロリズムが起こったらしく、簡易的な放送の後に各階の隔壁が降りて切り分けられた。
高性能AIにて暫定的に敵味方判定を施された後、被害を最小限にする為の措置だ。
私達の居るフロアはグリーンスキャンから通常照明に戻ったので、一応セーフ判定だね。
「閉鎖されたということは、此処は安全なんですよね」
「うん、スキャンされたし一応はね」
「じゃあ、お姉様デートの続きをしましょう! 人も少ないし今なら!」
「あ」
ミュウちゃんはピョコンとジャンプをして私の帽子を取ってしまった、パサりと纏めていた髪が自由になる。
「お姉様の髪、本当に綺麗です! この髪飾りとか絶対似合います!」
「あ、ありがとう」
慌てて髪を隠す様に抑えたけど、確かに隔離された影響か周囲の人はほとんど居ない、これくらいならまあ大丈夫かなと久々に髪を晒してミュウちゃんに付き合うことにした。
「ミュウちゃんにはこっちのブローチとか似合うよ」
「ありがとうございます!えへへ」
明るい茶髪と白いブラウス、黒のワンピースという正統派お嬢様なミュウちゃんにはクラシックなブローチを当ててみた、少し大人っぽいかなと思ったけど似合っている、はにかんだミュウちゃんがとても可愛いかった。
***
昼から酒を楽しもうとしていたアタシは今、強化外骨格を装着して総合デパート前で待機していた。
それもこれもノワがテロリストの決起集会に巻き込まれたからだ、幸い各階層の隔離は済んでいたが1階に限ってはテロリストが一般客を人質に取ってしまっている。
テロリストの通信を殺す為に完全通信封鎖をされているのでノワとシェフィ、ミュリエル嬢の安否は現在分からない。
通信封鎖直前のシェフィからの連絡ではテロリストが居ない階層で隔離されたと言っていたので大丈夫だろう。
で、何故傭兵のアタシが駆り出されているのか、どうやら『全生物救済の会』とやらが決起した人数が事の他多かったらしい。
コロニーポリスに配備されている強化外骨格隊員の人数より遥かに多く、反撃を許さず制圧する為に同数以上の強化外骨格装備人員を揃えたかったそうで、傭兵ギルドを経由してアタシにまでおハチが回って来たのだった。
頼りの軍の方は作戦行動中でグラッドストンコロニー近辺には居なかったので緊急依頼というカタチで傭兵ギルドに回ってきた。
『各員マーキングを確認してくれ』
突入は同時、各小隊がそれぞれ1人でテロリスト1人を完全に無力化するのが作戦だ。
総合デパート内の事件とあって血みどろの惨状にする訳にはいかず、可能な限り非殺傷装備での制圧が推奨される。
アタシは左腕を失っているが、強化外骨格のアシスト機能で脳波コントロールサポートのお陰で左腕も動かせる、こんな素人同然の占拠を行う集団なんざ物の数じゃあないだろう。
敵味方識別も終わっていて、自分に割り当てられた標的に向かってダッシュ、スタンショットで終いだ。
『行くぞ野郎共!ゴーゴーゴー!』
『野郎じゃないが?』
『はっはっはぁー!』
『砕け散りやがれテロリストが!』
『いや砕くな、散らすな!』
市民運動家と変わらん生身の人間なんて、強化外骨格の一撃でも食らったらグチャグチャのミンチになっちまう、加減の効く機械的なスタンショットで良いんだよ!こういうのは、テンション上がってワンパンした日にゃ只の虐殺さ。
装甲もシールドも生身の人間が携行出来る装備じゃあ相手にならない人間型戦車が強化外骨格だ。
はいズドン、バチバチィってな具合で制圧完了だ、報酬はコレで100万マニ、チョロいと言えばチョロいし人死にが出ない対策と言えば安いと言える美味しい仕事だ。
アタシも久々に強化外骨格の運用と運動も出来て、まあ悪くなかった。
スタンショットと言っても高圧の電撃弾だ、多少の障害が割りと残るらしいがテロリズムを行う存在に慈悲は無い、生きてるだけ感謝しろ。
上半身開放状態の強化外骨格でノワの反応がある階層へ様子を見に来た、まあ何も無いのはシェフィの通信から分かってはいるのだけど念の為だ。
「お姉様、アーン!」
「あ、あーん・・・」
「うふふ、美味しいですか?」
「うん、ミュウちゃんもアーン」
「アーン、おいひいです!」
アタシは何を見せられているのだろうか・・・、シェフィと執事のサトゥーはニコニコと楽しげにノワとミュリエル嬢の食べさせ愛をのんきに見守っていた。
キャプテンお疲れ様です。




