美食マーケット
「なにこれ!」
「それはアンクオと呼ばれる深海魚ですね」
表面がヌメヌメボコボコでボッテリとした体、茶色の斑模様、大きく裂けた口にはギザギザの歯、グロテスクなエイリアンと見間違うばかりのコレは魚らしい。
「うわー、これ食べられるの?」
「アンクオは美味いぞ、見た目に依らず旨味の塊で栄養満点、肌にも良いんだ」
「キャプテン食べたことあるの!?」
「ああ捌いてやるよ、オヤジ!アンクオ1尾くれ!」
「あっ、キャプテンこっちは?」
「あん? ああこいつはな・・・」
珍しい食材、しかも生のままで店頭に並んでいるのはサジタリウスでは相当珍しかった、大体が加工品として保存が効くような形になっているのに、グラッドストンでは生で本物の食材が所狭しと並んでいた。
次に目を惹いたのは1m以上もある大きな魚だ、黒光りしてカチカチに冷凍されている。
「こいつぁクロマグロかっ!」
「クロマグロ?」
「ああ、海の宝石とも呼ばれる魚の王者だぜ」
「さ、魚の王者、美味しいの?」
「美味い、無駄になる箇所なんてひとつもねえよ、だけど通常は貴族や金持ちに持ってかれて市場に流れて来ねえんだ、それが1本丸々となると・・・」
「姐さん良く知ってるね! ウチは偶にだけどこういう風に仕入れてるんだぜ、血抜きとシめをきっちりして、瞬間保存掛けたから新鮮そのものだ」
「だけど、これは高いだろう?」
「単価はどうしてもなあ、バラで捌けば総額1200万位にはなるな」
「いっせんにひゃくまん・・・」
あまりの高額食材に私の語彙が死ぬ
「バラでと言う事は、1本丸々なら違うんだろうね?」
「へへへ、ご明察だ姐さん、1本丸々買うなら1000万!1000万ポッキリだ!」
「買った!!」
「まいど!!!ブラックダイヤモンドお買い上げだ!」
「ファァーーーッ!?」
「キャプテン・・・」
何してんの! 何してんのキャプテン!?
買った!!じゃないが? あまりの驚愕に喉から変な声が出る。
私はキャプテンのコートを握り締めてガクガクと揺する、食材にいっせんまんえんって頭おかしいよね、私おかしくないよね?
「揺らすな揺らすな落ち着けノワ、護衛の報酬が1億マニ、アタシの分け前が1000万マニ、実質タダ!」
「タダじゃないがっ!?」
「アホですね・・・」
「よーく計算してみな、これクロマグロ1本で数百人前はある、ちまちま毎日食っても1年以上掛かるから、1日2~3万マニ程度の出費になるんだ、大した事ないさね」
「あ、あれ、そう言われると大した事ない気もする?」
「ノワ様騙されないで下さい、世間一般的に言って大した事ありますから、まあアークの収支で言えば大した事ありませんがキャプテンの金銭感覚と一緒になってはいけませんよ」
「はっ! だよね、だよね!?」
キャプテン論に一瞬騙され掛けたけど高い物は高いよね、いやもう決済しちゃったからどうしようも無いんだけど、こういうノリで新造艦の借金もこさえて爆散して大変なことなったんだよキャプテンは!
まあ流石に新造艦が即爆散なんて予想は誰も出来ないけどさ・・・、クロマグロは私も食べるから半額の500万マニを運用資金から補填する事にしたらキャプテンがホクホク顔で笑うもんだから、最初からそのつもりだったんじゃないかと邪推してしまうよ、多分ノリでしか無いんだろうけど。
まあ良いや、これで美味しくなかったら顰蹙ものだけど食事に関してキャプテンは間違いない、気を取り直して次行ってみよう!
「シェフィ、調味料追加で頼むよ」
「はい」
「うわ、キャプテンこれはなに?」
「こ、これは・・・」
見たことの無いばかりの食材の宝庫なので、立ち止まってはキャプテンに聞いての繰り返しになってしまう、私コロニー居住者だから生鮮食品全てが珍しいんだよね、ペースト状の合成食が基本食だったし、この区画全制覇を目指すだけでも数日は費やしてしまいそうだ。
そう言えばサジタリウスから慌てて旅立ってからはこういう風に何かを見てはしゃぐ事が全然無かった、キャプテンもシェフィもアレコレと指を差して寄り道ばかりする私にイヤな顔ひとつもせずに付き合ってくれてる。
・・・気を遣わせてたんだ、私ずっと自分の事ばかりでママが殺されてから賊狩りをしていたけど、あれは全て八つ当たりに過ぎない、2人共改めて言葉にする事は無かったけどキャプテンは私のする事をサポートしてくれたし、シェフィも公私共に支えてくれていた、えっちな事とかも発散って言って一種のメンタルケアをしてくれてたんだね。
今更、本当に今更で、ふと立ち止まって気付いた。
ありがとうキャプテン、シェフィ・・・
所でシェフィ、その自然薯とかウナギとか鶏卵、チーズレバーすっぽん(すっぽん?)赤マムシドリンクはナンデスカネ? 手元の情報端末で調べると精のつく性の食品て出てくるんですケド。
「ふふふ、今夜はお愉しみでしたね」
まだ今夜来てないが? あと文字違くない?
ヤルのかい? ヤラないよね? ヤー・・・
「る! ふふふふ」
遂に心まで読まれた、クスクスとシェフィは金の髪を揺らして美しく笑う、人造機械は円滑なコミュニケーションの為にヒトの心理を読める、普段そういった機能にはある程度セーフティが掛かっている、何でもかんでも心理を読まれるとコミュニケーション以前に恐怖や不信感が先立つからね、でも会話の流れを読んで空気に合わせたノリも引き出せるのがシェフィだ。
ヤルのかい・・・、手加減してね?
「まあ、これもストレス解消のひとつさね」
「言っちゃったよキャプテン、折角見直してたのに」
「三大欲求を否定しても仕方ないだろう? ヒトなんだ、食う!寝る!ヤる! 昔は兎も角、今なら性別も関係無いんだからヤリたい奴とヤリャあいいんだよ!」
「そこまで明け透けなのもどうかと思いますが、ノワ様位の羞恥心で私はちょうど良いかと愚考致します」
「あ、うん、ハイ」
そもそもアンドロイドはヒトがイヤがる事は絶対にしないからね、シてるって事は私も許してるし気持ちいいし良いんだよ、シェフィの方でも私のメンタル分析をして受け入れてると判断してるから行為を楽し、・・・愉しんでる訳だから。
昔は男女で無ければ子孫を残せなかったけど、今は科学技術の発展で同性同士でも子孫を残せる様になっている、なんなら片親が生身なら人造機械とも子供をつくれるのだ。
人間のキャプテンとシェフィでも出来るし、半機械生命体の私とシェフィでも出来る、勿論エルフやドワーフ、小人種に巨人種と異人種間なんでもアリだ、生身同士と比較すると大金が必要になるけど、逆に言えばお金を積めば子孫はどの様な種族とも残せるから凄いよね科学の力・・・。
手術痕痛い・・・




