出会い。
センターコロニー・グラッドストンへと向かっている途中、私達は救援信号をキャッチした。
救援信号は国際航宙規格連盟にて制定されているエマージェンシーコールのひとつだ、今回は宇宙海賊に襲われている救難、他にも遭難や航行不能等、幾つか種類がある。
艦乗りはこれらのエマージェンシーコールをキャッチした場合無視してはならない、勿論武装も何も無い艦が賊艦へ突っ込めという無茶な話ではなく、救難信号をキャッチしたら自艦に出来る範囲で協力せよという主旨の内容になっている。
広大な宇宙の話なのでエマージェンシーコールを引き継いで発信するだけでも良いし、可能なら近場のコロニーまで艦を曳航したり、戦闘艦なら敵艦を撃滅する為に戦闘に介入しても構わない。
今回のエマージェンシーコールは賊艦による襲撃、それに伴う救援だったので、アークの行動は決まっていた。
メインジェネレーターの出力を戦闘レベルに引き上げる、声を掛ける必要も無くキャプテンもシェフィも即応態勢になった。
「ヴァリアント、救援要請受諾、コールサイン アーク、ラジャー、進路そのまま」
シェフィが端的に通信した、コール時の受け答えは規定に則って、相手艦、内容、自艦名、ラジャーと答える事になっている、更に追加があれば最後にひと言加える。
丁度ヴァリアントと賊艦の後方からの参戦となったので楽なものだった、加速、そしてこれまでの星系とはレベルが少し高いという事前情報から出力ちょっと高めにしたレーザー砲でロックオン即射撃、ドパァッ!と後部メインスラスターから丸々と向こうの景色が確認出来る程レーザーは軽々と機体を貫通した。
「あれ」
「ん?」
「おや?」
思っていたより柔らかい、ダブルロックオンしていたので2機の賊艦は赤熱直後に爆散してしまった、どう見ても過剰火力だ。
残りの賊艦が離脱軌道を取ったけど、電磁加速砲を置きに行った所で胴体に直撃、こちらも少し高い出力で撃ったのだけど、機体が爆散しなかっただけで粉々に四散してしまった。
これは元の火力でも良いかもね、宝探しもクソもないレベルでの撃滅だった。
『こちらヴァリアントのパイロット・サトゥー、ありがとうアーク、助かった』
「いいえ、ご無事で何よりです、私はアークのキャプテン、ノワです」
救援を求めていた艦ヴァリアントは濃紺色で、宇宙では最もベーシックな迷彩カラーの民間機だった、但し民間機と言っても3隻の賊艦に撃たれてもシールドを維持していたことからそれなりに良い装備を積んでいると思われる。
白髪壮年のナイスミドル、執事っぽい見た目の男性がパイロットで背後から「サトゥー、御相手は女性ですの?」と女の子の声が聴こえた、多分お金持ちか貴族なのかな?
『早速で申し訳ございませんが護衛依頼を受けて頂けませんか、勿論今の戦闘の報酬もお支払い致しますので』
「ええっと、行き先は? 先程この星系に来たばかりでセンターコロニーを目指しているのですが」
『おお、それならば私共の目的地もグラッドストンなので』
すぐ様ヴァリアントの方からは今の戦闘の報酬が即金で提示された、その額5000万マニ。
更にグラッドストンまでの護衛依頼報酬5000万の合計1億マニが提示、私の目は点になった・・・
(貰っときな、ポンとこれだけの額を支払えるのは金持ちの証拠だ)
(はえー、すっごい)
(正確な分析を致しますと、危機を脱した事で気が大きくなり財布の紐が緩んでいると推察します)
(パイロットにそれだけの裁量があたえられているとしたら相当裕福か貴族しか居ない、貴族なら「余計な事を言い触らすなよ」って口止めの意味合いもあるからねえ)
成程色んな思惑があるんだね、即金で1億マニなんて心臓に悪いからやめて欲しいよ、まあ命の値段と考えると替えがきかないから安く感じるかもだけど。
『? どうされました?』
「あ、いえ大丈夫です、ではコロニーに到着してからで良いのでギルドを正式に通して頂けますか、依頼はお受け致します」
こうすることで事後ながらも組織を通した契約とされるから、保険は常に用意しておこう。
勿論、今のやり取りもしっかり記録しているのはシェフィの視線と頷きで把握しているので安心だ。
この場に長居をして別の宇宙海賊に遭遇するのも面白くないので早速移動を開始する、航宙ドライブの複数艦同期モードをヴァリアントに送信、光速ドライブは1秒の遅れでもとんでもない距離の誤差を生んでしまうので護衛依頼を受けて使用する場合は必ず同期ドライブを行う。
『光速ドライブ、シンクロを完了しました』
「では、光速ドライブカウントダウン」
「はい、光速ドライブ、5.4.3.2.1…、ドライブ起動」
ドドォン!とアークとヴァリアントは同時に光速ドライブへと移行した、念の為ギャラクシーマップで航路を確認したけど、まあ襲撃は無いと思われるので只一緒にコロニーへ移動するだけで5000万マニになるのは良いのかなぁと申し訳ない気になるね。
「これだけで5000万かぁ」
「ハハッ、景気の良い話さね」
「それなりにある話ですね、護衛隊を組んだものの何事もなく報酬だけ戴く」
「そんで現地解散にして、帰り道でケチったクライアントが襲撃されるまでセットだ」
「ええ・・・」
いやまあ有るのか、保険と一緒だよね、なんでもないから保険解約したら、今度は解約した途端に保険が必要な場面に遭遇したり、タラレバを考えたら何事も保険と余裕は大きく取っておいた方がいいって話だね。
アークにしても、こんな試作型の小型戦闘艦なんて中破大破したら修理費で幾ら請求されるか分かったものじゃない。
あ、航宙艦産業が盛んなら1度簡易オーバーホールも兼ねてシップメイカーのドック入りした方が良いかもね、精密スキャンでも受けておけば今の資金水準の見直しも出来るもん。
「アークを1度簡易オーバーホールか精密スキャンに掛けてみようかな、って思ったんだけど、どうかな?」
「あー、そうだねえ、アタシは反対しないよ、但しメイカードックに入れる場合は必ず情報制限契約を盛り込んでおかないと、丸々データを抜かれてコピーされちまうから、そこは注意だね」
「私の方で契約書の雛型を先に制作しておきましょう、プライベートスペース、プラットフォーム、ジェネレーター、戦闘データは最低でもロック」
「お願いシェフィ、そもそもこの艦って製作者が・・・」
「Dr.レオナルド、稀代の天才発明家の遺作だよ、多分メインジェネレーターは誰にも手が出せないね」
「ダヨネー」
『DRLE - 0000 - Ark Prototype』
アークの型式DRLEはDr.レオナルド、試作機0000、艦名Ark Prototypeで一品物の小型戦闘艦だ。
レオナルド博士は本物の天才で、現在の帝国の発展の何割かが彼の功績とされている。
そんな彼が遺した試作機アークが普通な筈もなく、プラットフォームつまりはフレームからして専用設計、特殊装甲、備え付けのブレードも分子分解とかいう謎の技術品だ。
特にメインジェネレーターは小型高出力化が施されており、それを複数で平行励起させることで小型戦闘艦としては恐ろしい程の出力を叩き出している。
アークに乗った当初は中型艦上位並の出力かと思っていたけど、実際の所は大型艦並の出力がこのアークには備わっているので何処か企業のドックに入庫させる際には綿密な交渉と契約が必要になるだろう。
私もテストパイロットとしてゼクセリオン・コーポレーションで働いていたから、ある程度ハード、ソフト両面での技術の話は解るつもりだったけど、このアークに関しては理解不能でブラックボックスの塊といった感想しか出て来ない。
つまり技術者にとっては垂涎の小型艦、それがアークなのであった・・・




