017.恒星間移動、その後で
ブクマ10ありがとうございます!
ねっとりじっくりワームホールドライブを楽しんだ数十時間、それもあっという間のことで今はワープアウト5分前、しっかりコクピットの座席に皆が着座して準備万端だ。
や、オートメーションだからワープアウト後でも本当は大丈夫なんだけど、身嗜みが乱れた姿でゲート管理局と話すのもアレだからね、マナーだよマナー。
それとゲートの周辺は帝国艦隊が大量に護衛艦として滞在しているから治安が良いんだけど、ゲートからある程度離れると途端に治安が悪くなるんだよね、何故かってゲートを使用して移動する艦は漏れなくお金になると思われているから。
いち恒星間のゲート使用でも2000万マニ前後支払って移動するくらいだから、交易とか裕福な家庭とか少なくともコロニー近辺をウロウロする艦よりは遥かに旨い獲物と思われているだよ、宇宙海賊に。
帝国艦隊も馬鹿じゃないからパトロールは強化しているんだけど、それでも広大な宇宙の話、全てをカバーなんて出来ないからゲートから離れる際には必ず管理局から注意を促される事になっている。
『宇宙海賊の被害にご注意を』
なんなら護衛をその場で手配するくらいだ、ゲートを利用する殆どの航宙艦はその辺を理解しているので護衛を雇っている事が多いのだけど、それでも高い確率で宇宙海賊の被害に遭うのだ。
『またの御利用お待ちしております』
自動音声と共に安全距離にて艦にコントロールが戻るのは各コロニーの港湾と同じだ、港湾以上に出入りする航宙艦の数があるので当然のシステムだね。
微速前進ヨーソロー、G星系ホロギャラクシーマップを開いてミーティングを行う、行先は・・・
「ガレオンなら航宙艦製造会社コロニー群、F星系なら保養地惑星群だね」
「シップメイカー」
「はい、G星系の主要産業は航宙艦製造となります、傭兵艦のレベルも他星系と比較すると高く、それに比例して賊艦の装備もグレードが高めの場合が散見されます、御注意を」
「へー、土地柄って奴なのかな、分かった気を付けるよ」
雑談をしながら皆でギャラクシーマップにフラグを立てていく、ゲートを通る前に集めておいた資料もワープ中に確認していたのでそれも参考に候補地を選定する、ホイホイホイっと。
航宙艦製造の主要企業は小型ながら専用コロニーを所有している、スターレイ・インダストリー、コズミック・ホライズン、そしてゼクセリオン・コーポレーション、三大航宙艦製造メーカーだ。
別段アークの装備を更新する訳じゃないけど、何かを購入するなら企業コロニーに行った方が安く済む場合が多い、まあセンターコロニーと呼ばれる各メーカーの直営支店が寄り集まっているコロニーが有るから総合的な手間を除くならそこでも良いんだけど・・・
「キャプテン、何処かメーカー覗く?」
「あん? いいや、手持ちはまだ5000万マニにも満たないからね、センターで良いんじゃないかい?」
「そっか」
ピッピッピッと各直営本店を消去、途中いくつかの研究、畜産、民間コロニーもパス。
特に航宙艦ショップにも用はないし、候補地をサクサク消していくと無難に人と物が集まりやすい、つまり過ごし易いセンターコロニーだけが残った、まあ消去法でいけばそうなるよね。
人と物が集まるなら近隣星系には宇宙海賊も沢山居るだろうし、傭兵の出番もかなり見込めるだろう。
「行き先はセンターコロニーであるグラッドストン・コロニー」
「異議なしだ」
「光速ドライブ、セット、いつでもどうぞ」
ドォン!と光速に加速した音を後にアークは目的地へと向かった、ワームホールドライブとは違って今度は本物の星の瞬きが幾重にも光条となり後ろへと流れ出した。
***
「メーデー!メーデー!メーデー!こちらコールサイン ヴァリアント、宇宙海賊の襲撃を受けている、至急救援を求む!」
『諦めて止まれよ! 優しくしてやるからよ!』
『そうだぜぇ、じぃっくりとなぁ!』
『ギャハハハ!オメーは前も同じ事言ってぶっ壊してたじゃねえか!』
『うるせえ!様式美って奴だ』
「くっ、誰か!」
私はどうなってもいい、だけどお嬢様だけは必ず護らねばならないのだ。
まさかたったひとつコロニー間移動するだけで宇宙海賊と遭遇するなんて、これは偶然ではない狙われていたと考えた方が自然だろう。
下卑た笑いを挙げる賊艦のレーザーがいくつもシールドに当たり明滅する。
「ひっ、サトゥー!」
「御安心を、ヴァリアントのシールドは簡単には破れません、我が身に変えてもお嬢様をお守り致します!」
賊艦は3、どうやらヴァリアントを撃滅する意思は無いらしくジワリジワリとシールドを削られていた、実際強力なシールドジェネレーターを積んでいるので今すぐどうこうという事はない、拿捕、十中八九お嬢様の拉致が狙いだ。
ひと艦に数人、拿捕時に乗り込まれた時を考えれば10人程、最悪身命を賭して奴等を道ずれにする覚悟は出来ている。
コクピットブロックをリリースの後、ヴァリアントを自爆させれば・・・
『ヴァリアント、救援要請受諾、コールサイン アーク、ラジャー、進路そのまま』
私が内心覚悟を決めていると、天の恵みか神の差配か鈴のなるような若い女性の声がコクピットに響いた、応えてくれた艦の名前はアーク、モニターに表示された情報によると傭兵ギルド所属艦となっていて、漸く私とお嬢様は安心したのだった。
救援艦のアークは神速が如し速度だった、救援要請を広範囲に飛ばす為にレーダーも最大出力で拡げていたのだが、レーダーの最外縁に味方を表すグリーンシグナルが映ったかと思えば、瞬時に距離を詰めて来て我々の後方から賊艦3隻の内2機を撃ち抜いた。
強力なレーザー砲だ、艦の後方から撃たれた賊艦はシールドごと艦首までくり抜かれた、断面は赤熱し数秒と経たずに爆散する、これが2機同時。
『なあっ!? クソっ傭兵かよ!』
賊艦も相手が悪いと判断したのか、執拗に我々ヴァリアントを追い込んでいたのが嘘のように逃げに転じた。
しかしアークの行動は的確且つ速かった、ヴァリアントから離脱軌道を取った賊艦の行き先へ待っていましたとばかりに弾丸が飛び、艦の土手っ腹に大穴を開けた。
「今のはまさか電磁加速砲?」
強力な電磁力によって物質弾を撃ち出す電磁加速砲はプラズマを纏って飛んでいく、出力によって色は変わるが黄から青白いプラズマだ、破壊力は高いが光速のレーザーより弾速が遅く当てにくい武装、賊艦と傭兵艦では性能差があると言ってもあんな当てにくいものをピタリと偏差射撃で仕留めてしまうなんて、不幸中の幸い、私達は腕の立つ傭兵に救われたようだった。
『あれ? 結構脆かったね』
『もう少し出力絞るか、これじゃあ宝探しも出来やしない』
『もしかしたら元の出力でも良いかも知れませんね』
驚いたのはアークから聴こえてきた声が全て女性だった事だ、こんなヤクザな仕事は女性が極端に少ない、ましてやあれだけの腕を持つ傭兵ともなれば、その存在は限られるだろう、もしかしたら金獅子級か名の知られた傭兵なのかもしれない。
宇宙は広いので大企業の「本店」と呼ばれる組織は数星系にひとつ位の間隔で存在しています。




