016.ワームホールドライブ!
有機生分解ベッドは在庫があったので即座に設置された、高級ベッドなだけあって寝心地は極上、毎日ボタン1つで最高の状態を半永久的に維持出来るのでこれは買って大正解だった。
忘れていたけど追加物資のコンテナも程なく届いたので、シェフィが素早く検品していた。
「シェフィ、突然ベッドを購入したかと思えば何買ったんだよ・・・」
「私は家政メイドロイド、御奉仕に必要な品以外に何か?」
キャプテンがシェフィと何かを話して変な顔をしていた、私は丁度ワームホールドライブ最終申請の電子書類のチェック作業で手がいっぱいで2人が何を話しているのかまで気を回す余裕がなかった、後で聞けば、なんて思わず、この時に確認しておけば後でもう少しマシな目で済んだのかも知れない・・・
「良し、チェックオーケー、キャプテン!ダブルチェックお願い!」
「アイアイ」
ワームホールドライブに必要なゲートを使用するのは初めてなので、念の為キャプテンに確認して貰う、もう既にゲートの目前でアークは待機していた。
戦艦級航宙艦が一度に数十隻もすれ違う事が出来る巨大構造物『ゲート』、空間を歪めて恒星間航行の短縮を行う帝国技術の粋を集めた最高傑作。
あまりの大きさにサイズ感が狂う、小型艦のアークなんて宇宙を漂うデブリのひとつと変わりない程のスケールだ。
包囲する様に帝国艦隊が防衛に着いていて、如何に帝国にとってゲートが重要かを表している、仮に此処を襲撃した場合即応体制の艦隊から極大レーザーを複数浴びせられて数秒も持たずに爆散、塵さえ残さずに消滅してしまうだろう。
「ゲート進入許可降りました」
「目的地G星系、光速ドライブ、ワームホールドライブ、スタンバイ!」
「両ドライブ異常なしだよ!」
「ドライブ起動、カウントダウン開始致します、9.8.7・・・」
ワームホールドライブの前に光速ドライブが機体を加速させる、星々の光が後方へと流星が如く流れ始めた。
「3.2.1. ワームホールドライブ起動」
ワームホールドライブ起動と同時、白色が多かった流星は空間がねじ曲がった事で可視光線不可視光線が入り交じった極彩色となる。
その光景も一瞬の事で、メインモニタには光速ドライブ時の光景が自動でループ表示された、極彩色のワームホール空間は数分眺めているだけで視界に、1時間だと精神に悪影響を及ぼすと言われている、その為のセーフティーが必ず航宙艦には搭載されている。
航宙艦の中から見ればいつも通りの光速ドライブの光景と何ら変わりがない、光速ドライブと同様にワームホール航行もオートメーション化されているので目的地のゲートを抜ける1時間前にアラームが鳴って報せてくれる、流石にゲートを抜けた直後は出先で沢山の航宙艦がひしめいているのでコクピット待機するのが常識になっている。
「数十時間は移動時間だ、休憩休憩!」
「シェフィ、ジムで少し相手してくれない?」
「はい、お供致します」
こういった空き時間には慣れたもので、キャプテンはシートからピョンと降りるとサッサと部屋へと戻る、私は最近シェフィにお願いをして格闘術の手解きを受けているので、よくジムスペースで体を動かすようになっていた。
と、言うのも遺伝上の父親、第三皇子の話を聞いてから私は絶対にこの手で殴ると決心したからだ、元々ママと2人で生活していたことから『甲斐性なしのロクデナシ』とおもっていたのだけど、実際は更に『クソ野郎』という評価も加わったので殴らないと気が済まない。
でも私って運動音痴なんだよね・・・、走るのは人並みなんだけどそれ以外はからっきし、だからシェフィにお願いをして格闘術の指導を最近では受けていた、護身術にもなるからシェフィは快く教官役を引き受けてくれている。
圧縮素材のスポーツタンクトップとスパッツに着替えて準備体操、身体をしっかりと温めてからシェフィのミットを叩く。
いつもメイド服のシェフィもこの時は身体にフィットするタイプのスウェット上下でコーチングする、5分1セットをステップしながら腕が上がらなくなるまで腕を振った。
ヘロヘロになってからは息を整えながらウエイトトレーニング、このトレーニングのお陰で少し胸囲が大きくなったので私のモチベーションは高い。
なんなら仰向けになってウエイトトレーニングしている私の頭側にシェフィがサポートとして付いているので、目の前に聳え立つ大きな山がふたつあって気合いが入る、私はまだ小ぶりなリンゴくらいなので必死にトレーニングだ、メロン!メロン!メロン!ふぎぃぃぃぃ!!
・・・少し頑張りすぎた、トレーニング後はシェフィにマッサージをして貰いお風呂に入って汗を流す、あ、そこそこ、ンッ、あれ? シェフィさん、いつものマッサージと違、ンフッ、ちょっ、そこはトレーニングしてな・・・。
***
酷い目に遭いました、シェフィが言うのです
「ノワ様は少しストイック過ぎますね、偶には本能に素直になっては?」
キャプテンは好きにお酒とツマミを買って娯楽を楽しんでいるけど、傍から見ると私は溜め込んでいるように見えるようだ、そうは言っても私なりにそれなりに贅沢はしてるんだよ、保存庫には本物の果物と生乳を必ずストックしておいてパフェを食べられるようにしてるし、その保存庫も生鮮物に特化した専用品で、どんなナマモノも1年は持つ高級品だよ? これだけでも500万くらいしたもん、最近はキャプテンもナマモノのツマミを入れるようになったから共用設備と化しているけど、一応私物なんだよね。
え、違う? だからシェフィが私の代わりに発散する事にした、って、いつもシェフィにはお世話になってるからそんなに気にしなくてもいいと思うよ。
・・・何かな、そのネチョネチョは、・・・ペロペローション? ナニに使うんですかねえシェフィさん。
待って待って、ベッドでそんなの使ったら掃除が大変っ、その為の有機生分解ベッド、なーるほど!あっ。
・・・出発前の100万マニ (内50万がベッド)の追加物資は発散アイテムで疲労回復(気持ちいい)ローションとか、まあそういうアイテムを大量に買い付けて来たらしい、いや、あのね・・・、私も気持ちいいのはキライじゃないよ、寧ろ好きモノって部類・・・ってやかましいわ、何言わせるの。
でもね、ヤられっ放しも趣味じゃないんだよ、航宙艦シムでもそうだけど負け続けるのは大嫌いで勝つまでやる、負けたらダメな所を直して勝つまでね。
で、私は散々気持ち良く・・・じゃなくて翻弄されたからシェフィに反撃したの、仕返しって感じでもあったんだけど。
「なるほど、シて貰うのもまた趣きがありますね」
って新たな扉を開いてしまって、自分で墓穴を掘った気がしなくもない後悔に襲われた。
「あまりどハマりするとバカになるよ・・・」
キャプテンに呆れた顔をされながら私達3人はそれなりに爛れた生活を過ごして初のワームホールドライブの時間を有効 (有効?)に活用したのだった。
そもそも古代の話で普人種が惑星上のみで暮らしていた時代、少子高齢化が進んで人類が衰退した時期があった。
土地の広さと人口の許容人数が限界だったのが宇宙に飛び出してからは解決した、産めよ増やせよで現代まで人口は増加の一途を辿っている、つまり人類は3大欲求を受け入れて繁栄してきたのだから性欲があって何が悪い! (開き直り)
キャプテンも意外と好きだよね、私も結構好きだけど・・・
「少佐、アークからメッセージが」
「なんだ?」
「他星系へ行くそうです」
「・・・っ!?」




