014.胃腸を捻りあげる
「つまりノワール様は皇族方の落胤で、サジタリウスコロニーで御母上のフルコピーロイドと共に過ごしていたが、賊、または裏に貴族が居る誰かに襲われた、と」
「そういう事だね」
「念の為、確認ですがマリアスティーネ男爵令嬢が母体、御父上は・・・?」
「第三皇子」
「ああ・・・」
「やっぱり・・・」
やっぱりって何? 第三皇子ってそういう人なの? あ、この魚のムニエル美味しい。
私の正体に固まる少佐と中尉にはキャプテンがこれまでの経緯を説明をした、テーブルについても少佐と中尉は料理に手を付けず水だけを飲んでキャプテンと話をしていた。
私から話せる事はママとのプライベート位しかないので先に料理を美味しく戴いている、本物の食材ウマー。
「ノワ、第三皇子ってのはね、クソ野郎だ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
歯に衣着せぬキャプテンの物言いにみんな無言になった、て言うか帝国に忠誠を誓う軍人の少佐と中尉が何も言わないって事は相当だよね。
「クソ野郎」
「ああクソ野郎だ、妃になれない子爵以下の子女を3人孕ませたクソ野郎だ」
「クソ野郎じゃん」
「ノワ様、言葉遣いが・・・」
「あ、ごめん、糞便が如き御方なんだね」
「そうクソ野郎だ、皇帝の爺さんは事件発覚後、至極常識的な対応をしてくれた、産まれた子は皇族が引き取る、相手の令嬢家には多額の賠償と謝罪、嫁ぎ先の世話、行われた事実を公表して第三皇子は謹慎処分」
「うん、まあ常識的なのかな?」
ちょーっと皇子に対する処分が甘い気がするけどね
「ノワの誕生日は三番目だ、上に異母姉兄が2人居た」
「居た?」
「ああ、皇族に引き取られた2人が早逝したんだ」
「2人共?」
「2人共だ」
「ええ・・・、いくらなんでもそれは・・・」
「そういう事だ、マリーは、いや誰もが思っただろう引き取るけど無事に生かすとは限らない、と」
「だから逃げたんだ、育てのママと私」
「アタシとシェフィもな」
私より先に引き取られた子供達が亡くなった原因が病気なのか事故なのか、はたまた・・・
真偽の程は別にして最後の1人となる私がどうなるか、
産みのママも周囲の人も私の未来を案じた結果、白素体のアンドロイドにママの記憶をフルコピーして私を逃がすという結論に達したのは容易に想像が着く。
「お待ち下さい、陛下は決してその様な真似は」
「しないだろうね、あの爺さんは、でも皇族の住まう皇宮の中の事情なんて男爵家には遠い世界の話だ、始まりからして皇族の三男に無体な行為を強いられて、それでも皇家を信じろと?」
「それは、しかし・・・」
少佐が悔しそうに押し黙る、真実はどうなのかなんて関係ない、庶子の存在が疎ましい、始末されたと思われても仕方の無い状況が整っていたのだから。
皇家からしたら志井に落胤が紛れて逃げた事は堪らないだろう、下手をすると反乱や謀叛の旗頭になりかねない。
「でも、そうなるとママは・・・」
「それは大丈夫です! マリアスティーネ男爵令嬢の御家、つまりアニマトロン男爵家は今も健在で当主や奥様、御家族が弑されたという事実は御座いません」
中尉が手元の情報端末で素早く調べてくれた、会ったことのない祖父母、産みのママとは言え流石にホッとする。
「ま、賢明な判断だね、いくら落胤を逃がしたとは言ってもこれで男爵家まで始末したら、先に亡くなった子供2人をも始末したと言うようなものだ」
「キャプテンは知らなかったの?」
「あっちの情報網に引っ掛かる訳にはいかないからねえ、主星を飛び出してからは3星系内には1度も近寄っちゃいないよ、赤ん坊のノワと逃げる時だって1年掛けて星々とコロニーを経由してサジタリウスコロニーに来たくらいさ」
「それで、私達にノワール様の存在を明かしたのはどういったおつもりで?」
本題はそこだよね、キャプテンは何も相談しないでヴェール外すんだもん、私はこのままお金稼ぎつつ主星へ移動を繰り返すだけだと思ってたのに、キャプテンは違うみたいだ。
「情報をくれないか、アタシらの情報は15年前の主星で止まってる、そりゃあ一般的なニュース程度なら把握してるけどね、主星の情報が欲しい」
「それは構わないが、ノワール様の事は」
「此処に居るのはギルド所属艦アークのキャプテン・ノワだ、なんの事だい?」
「いや、それはちょっと」
「ノワだよ」
「上に報告を・・・」
「ノワだ」
「待っ」
「ノワ」
キャプテンゴリ押し過ぎぃー! 相手は少佐だよ!? 中尉も居るんだよ! 多分貴族なんだよね、家名は軍人として任務中だから名乗っていないだけでさ。
「少し失礼します、キャプテンが言いたいのは上に報告してどうなる、という話です」
「それは勿論、ノワール様は我が帝国艦隊の総力を持って護衛することになると思うが」
「護衛? ハッ! 敵も味方も分からないのにかい?」
「キャプテンは端折り過ぎなんですよ、つまり、15年前の時でさえ皇族が自ら処したのか、宮内省で内々に処分したのか、軍部が主導したのか、何もかも判断の付かない組織は安全なのか、ということです」
「え、でも、それを言うなら少佐さんと中尉さんにばらしたのはなんで? 2人も敵の可能性があったんだよね?」
私の疑問にキャプテンが答える
「アタシなりに試させてもらった、先ずは爆縮弾の起動座標、あの位置は帝国艦隊規定のギリギリの位置だ、なんなら微妙にアウトな距離だな、勿論最高効率の座標でもあったが堅物なら許可しない、少佐がアレを許可した時点である程度柔軟な対応のするタイプだと判断した」
「へえー、そうなんだ」
「次に年齢だ、少佐は見た所40前後、中尉は20代、15年前の出来事を考えるとまず関わっていないだろう、暗殺の類いだと仮定した場合、当時40以上の高官級が関わった可能性が高い」
「た、確かに?」
「最後に『勘』」
「勘・・・」
最後の最後で胡散臭くなったけど、確かにお互いに顔を見せあってお話した感じは腹に一物を抱えている様には見えない、2人共軍人っぽい凛々しさと迫力はあるけど優しさも見えるし、いや15歳の私が言うのは信頼性に乏しいけどキャプテンがそう判断するならある程度信じてもいいと思う。
「我々帝国軍人に目の前に貴き御方が居るのに見逃せと?」
「承服致しかねますよ?」
「だから言っているだろう、この子はノワ、キャプテン・ノワだ」
「そんな屁理屈が通るとでもお思いか、簡易検査でも遺伝子検査をすればものの数秒で」
「拒否する」
「は?」
「遺伝子検査を拒否する」
「馬鹿な!そんなこ、と」
キャプテンはそれはもうヤラシイ笑いを浮かべて私を見た、あ、なるほど、ピンと来たよ!
「拒否します、触らないでエッチ」
「え、エッチ・・・」
遺伝子検査は接触型のものしかない、アークにも遺伝子検査は搭載しているけど血液や体液であればほぼ100%、唾液でも90%近い精度で判定出来る。
但し、この科学技術が進んだ御時世に無断でチェックする事は有り得ない、チラッと体液を取られてクローンやらなんやらと簡単に創り上げてしまう技術がそこら辺の医療ステーションにはあるからだ。
遺伝情報や体液等のやり取りは帝国法で厳しく、それはもう厳しく取り締まられている、つまり私が了承しない限りは『皇族の特徴を完璧に揃えた一般人』という存在になる。
まあ軍が強権を発動して遺伝子検査は出来る、多分確定すると思うんだけど軍施設で検査をした時点で隠す事は不可能なんだよね。
で、敵の存在の有無もあるし、誰が敵なのか分からない組織に私の存在がバレた時点で私の身の安全は保証出来ない、少佐が仮に私を強制的に戦艦に軟禁保護をしたとしてポックリ暗殺された日には少佐も堪らないだろう、勿論私も堪らない。
まだアークに乗って傭兵狩りしてた方が安全じゃないかな、あの傭兵の戦い方を考えると少なくとも爆散させて問答無用の死は無さそうだからね。
賊に捕らえさせて手札にされるか、自らの手で始末したいのかは分からないけど、捕まって薬漬けとか洗脳されると、・・・うう、考えたくもない未来だ。
「さあってと、ご馳走様」
キャプテンは料理を食べ終わるとワインクーラーに入っている封を切っていないワインを掴み立ち上がった、私はとっくに食べ終わっているしシェフィはずっと後ろに控えていた。
「もう少し、このコロニーには滞在するから色良い返事を待ってるよ、なに世間話程度で構わない、下手に探りを入れられて捕捉されても面白くないからね」
「あ、お、送ります、少佐」
「ああ、中尉、頼む」
この場で拘束されないのが返事だと思うけどね、少佐さんは胃のあたりを抑えて顔色がちょっと悪くなっていた、ごめんなさいウチのキャプテンが・・・
え、主に私のせい? あははは、私は被害者だから、第三皇子に文句言ってよね、死ねって。




