010.宇宙海賊掃討
『帝国時間1200、作戦を開始する、主砲撃て』
淡々と少佐の号令から宇宙海賊の掃討戦が始まった、少佐は旗艦ガルガンチュア搭乗でほぼ最前線に居る。
ガルガンチュアからは広域通信と個別通信で大まかな作戦行動が指示されるので、通信はオープンで活動する。
例えば宙域封鎖を狭めるとなれば、各宙域に配置された私達も同様に戦線を押し上げたりする事になるからだ。
その辺りはオペレーターのシェフィが担当してくれる、経験豊富なキャプテンも居るので私はいつも通り現れた賊を撃破するだけなので大規模作戦と言ってもやる事はそこまで変わらない。
ジェネレーター出力は最低限に絞り待ち伏せする、各レーダーも最低限に、レーダーは出力を上げると範囲も精度も上がるが敵機にも艦の存在が気付かれてしまう。
その点は痛し痒しで状況によるとしか言えないけど、待ち伏せ、不意を打てる有利は大きい。
「来たよ」
キャプテンの声と共に私はアークのジェネレーター出力を戦闘レベルに引き上げ即座に加速した。
「ブレード展開」
完全に不意をついた一撃で小型艦1機をブレードで捌く、配置が激戦区でない以上は数で稼ぐよりブレードで始末した方が儲けに繋がる。
『なっ、待ち伏せだ!殺せ!』
『馬鹿野郎、白銀の機体にブレード、アイツは処刑人だ逃げろ!』
『馬鹿はテメェだ!あんな足の速い艦から逃げられる訳ねえだろが!殺すんだよ!』
『ダメだっ、速すぎる』
『逃げっ、うあああ!!!』
処刑人? 何の話か分からないけど逃がすつもりは無い、先は長いので物理弾系は使わずにレーザー砲で残り賊も撃ち抜く、超重力砲でも良いけどメタメタにして宝探しが大変になるし儲けも減る、それに広域破壊兵器なんて使ったら重力波が拡がって此処に敵機が居ますよ、と宙域全体に宣伝する様なものだ、出来るだけ速やかに静かに処理するのがベストだ。
戦闘を終えると次に備えてジェネレーター出力を落として急速冷却システムを起動させる、光学兵器であるレーザーや超重力砲は使用すると発熱する、それらの熱は砲身と機体全体で発散冷却されるのだけど時間当たりの基礎冷却値を超えた熱量はこういった追加冷却装置で冷やす。
艦が高温になれば敵機に見つかりやすくなるので、即座にそういった処置をして再び待ち伏せる。
「相も変わらずクレバーだねえ、本当に15かい?」
「別に、シムに教えてもらった通りの対応だと思うけど」
「頼もしいキャプテンだよ、油断せず行こう」
「うん」
「と言っても暇だねえ」
「キャプテン、言った側から・・・」
役割分担がきっちりしているからこその現状だ、前線が崩壊していたら抜けてくる敵機も多くなる、こちらが少ないと言う事は作戦が上手く行っている証拠だ。
『旗艦ガルガンチュアより傭兵各艦、セクターK1からK4、X2からX6担当は指定の宙域へ、繰り返す・・・』
チビチビと水を口に含んで脱力していると旗艦ガルガンチュアから命令が下された、全体指揮の為に戦艦には優秀な目があり、戦力の割り振りは適宜行われる。
大勢のオペレーターが担当セクター毎に傭兵との連携を取り持っていた。
「こちらアーク、了解しました」
シェフィが返事をしながら送られて来た座標をギャラクシーマップに打ち込む、それを確認して該当宙域の状況を確認すると、1:7程の比率で傭兵側が劣勢となっていた。
「暇って言うと仕事が来るもんさね、まあ忙しい時には更に来るけど」
「このまま終わられては平時の収入より落ちます」
「違いねえ」
キャプテンとシェフィの会話を聴きながら私はアークのジェネレーター出力を戦闘レベルに上げて指定セクターへと急いだ、こういう時1箇所を食い破られるとそこへ目掛けて後続が飛び込んで来る、そうなると対応が後手後手になって大乱戦になりかねない。
大乱戦になると装備が揃っている軍艦や傭兵艦でも事故が起こりやすくなるので、それは防がなければならないのだ。
『死ね!死ね死ね死ね死ね!』
『軍の飼い犬が!』
『もう少しだ落とせ、とっとと逃げるぞ!』
『ヒャッハー!傭兵は死ねぇ!』
一機の傭兵艦が多数の賊艦に粘着されていた、シールドはロストしていないもののこのままでは結果は見えている。
他の艦も似た様な状況で最低でも3、4機の賊を相手取っていて、支援する余裕は無さそうだ。
追われている艦名はタキオンセイバー
「シェフィ」
「はい、こちら傭兵ギルド所属艦アーク、タキオンセイバー戦闘に介入します」
『頼む!シールドが長くは持たないッ』
傭兵艦を追っている賊の背後からブレードで先ずひと撫で、そしてアークのスラスターを全開に賊を追い越す、その際にバレルロールしながら電磁加速砲二門で2機をズドン、フルマニュアル操作でタキオンセイバーと相対速度を合わせ、艦の後部に張り付いてアークを盾にする事でひと呼吸。
アークの艦上部を賊艦へ、下部はタキオンセイバーに向けたまま機動を維持、後方 (アークから見て上部)の賊を二門の電磁加速砲とレーザー砲でロックした。
「キモっ、何をどうしたらこんな機動が出来るんだ」
『げぇっ!なんだコイツ!』
『慌てるな!撃ちやすい体勢だ、落とせ!』
『しょ、処刑人じゃねえか!俺は逃げるぞ!』
複数の賊のレーザー砲がアークのシールドに着弾した、ジェネレーター出力の高い2層型シールドは揺らぎもせずに受け止める、元々被弾もしていないのでこの程度は問題無い、その間にバンバンバンと3機を爆散させた。
『助かったぜアーク!』
反転攻勢、状況を理解したタキオンセイバーがアークの陰から飛び出して残り2機を吹き飛ばした、賊艦8機に追われて撃墜されていなかった事からも相当の腕前を持つ傭兵っぽい。
「へへへ、ご馳走様だぜタキオン!」
『あっ!?ドレイク!』
「ボロボロじゃないかい、此処は任せて1度下がりな」
『くっ、了解した、キャプテン・ノワ本当に助かった、ありがとう』
「あ、いえ、此方こそ?」
キャプテンの知り合いなのかニヤニヤといった感じで若干煽ったものの、タキオンセイバーはシールドセルが尽きていたのかシールドを弱々しく明滅したまま後方へと下がって行った。
「さ、次々行きますか」
「はい、それでは」
次にシェフィが指定した所はかなりの激戦区になっている、星系軍の先制攻撃から運良く逃れたのか駆逐艦級1隻に中型のミサイル艦が2機随行、更に周囲を小型艦が相当数飛び回って傭兵とやり合っていた。
『後なんざねえんだ!ありったけミサイル喰らいなぁ!』
『此処を抜けたらッ』
『ヒーーッヤッハーー!』
明らかにこれまでの賊とは練度が違う、駆逐艦級が指揮を取っているみたいでミサイル艦と小型艦が互いにフォローする挙動を見せていた、だから傭兵も攻めあぐねて敵機を中々減らせていない。
「キャプテン」
「あいよフレア、チャフいつでもいいよ、アレは中々に骨だろう、どうするんだい?」
「ミサイルを躱して駆逐艦を黙らせる」
「ハッハッハ!言うは易し、行うは難しってね!」
「大丈夫、問題ない」
あの賊艦が崩れないのは駆逐艦とミサイル艦2機の対空砲火が恐ろしく厚いからだ、核となっている駆逐艦を倒せばベテランの傭兵達もその隙はきっと見逃さない、私はスロットル全開で駆逐艦へと吶喊を仕掛けた。
『!? なんだコイツ!』
『処刑人だ!間違いない!』
『処刑人だと!此奴が!?近付けさせるな!ミサイル撃て撃て撃て!!』
「来たよ!チェイサーミサイル、数は28だ!」
チェイサーミサイルはマイクロミサイルより大型で火力の高い武装だ、いくら出力の高いアークと言えどもあの数を撃ち込まれたら只では済まない。
キャプテンは反射的にチャフとフレアをばら蒔いた、それでも全ては無効化出来ないだろう、私はチャフの影響で狙いが弱くなったミサイルへと突っ込む。
フレアに釣られたミサイルは明後日の方角へ飛んで行くので無視していい、躱す、チャフの影響が薄いミサイルも躱す、躱す、躱す、躱す。
「ぐおおおッ」
「ッッ!!」
鋭角機動の連続ででミサイルの追従性能を超える、そのせいで強烈なGがアークに掛かりっぱなしになる、高性能の慣性中和装置でも殺し切れない重さに歯を食いしばって、耐えて耐えてッ!
『ぬ、抜けやがった!』
『あの対空砲火を・・・』
『撃てぇ!ミサイルだ、撃て撃て!』
『無理だ!安全距離の内側に入られた!』
賊と傭兵の通信が混在する中、視界がパッと開けた、ミサイルを抜けてしまえば実質駆逐艦単機のみ、大口径レーザー砲が怖いけど駆逐艦級以上になると死角も大きい、有効稼働範囲外へと逃げながら接近する。
『何やってんだ!ミサイル撃てーー!!』
『無理だ、この距離ではロックも出来ないし、撃てたとしても爆発しない!』
『誰か止めろ!』
3Dレーダーを視界の端で一瞬だけ確認するも小型艦の援護は絶対に間に合わない、駆逐艦とミサイル艦の援護で周囲の傭兵達を抑えていたのだから当然の間合いだ。
そして駆逐艦の艦橋をブレードで斬り裂いた、離脱ついで、行きがけの駄賃に駆逐艦の左舷側に居たミサイル艦1機もレーザー砲を浴びせて無力化させる、残っていたミサイルに引火してしまったのかド派手に散った。
『今だ!賊共死に晒せェー!』
『ヒャッハー!汚物は消毒だ!』
『イーヤッハーーー!!』
ごっそり援護を失った賊が蹂躙されるのは早かった、膠着状態だったセクターがあっという間に制圧される。
ていうかさ、オープンチャンネルだから賊と傭兵の声も聞こえてきて思うんだ、柄の悪さがどっちも一緒なんだけど・・・
ふぅ、流石にミサイルの嵐を潜り抜けるのには神経を使ったので思ったより大きいため息が出る。
その時だった不快な警告音が鳴り響いたのは
「巨大な重力震を計測、これは」
「来るぞ!暗黒生命体だ!」




