願い。
驚きで目をみはるデイビッドの顔を見つめながら、私は自分の言葉に納得していた。
そうだ、私はデイビッドが好きなんだ。
だからそばにいてほしい。
そばにいたい。
大きな手で今みたいにずっと私に触れていてほしい。
自覚すると至近距離で見つめあっているのが恥ずかしくて、私は俯く。
するとデイビッドが深呼吸を一つした後、「すまない」と言った。
あ、これは振られるパターンだ。
昔読んだ少女マンガでよく見た。
雇い主の娘からの好意なんて迷惑だったかな。
そう思ったら、また涙が勢いよく溢れ出る。
「ひぃ……ん」
あぁ、みっともない。何この情けない声。
だけど止められない。
「リリ、本当に悪かった。意地の悪い問い詰め方をした」
低い声だけど、さっきまでとは違う。温度の通った声音だ。
「八つ当たりをした」
「八つ当たり?」
顔を上げると、バツの悪そうな顔をしたデイビッドがいた。
「……リリが魔物の毒にやられたと聞いたとき、本当に怖かった」
かすれがちな声が続く。
「ティナがいなければ本当にリリを喪っていただろう。山狩をしながら、自分が不甲斐なくて情けなくて」
「情けない?」
「リリを危ない目に遭わせた。俺が助けられなかった」
助かってよかった、とデイビッドはめずらしい、気弱な笑みを浮かべる。
「自分自身に腹が立って、リリに八つ当たりをしたんだ。すまない」
デイビッドは目を伏せ、私に頭を下げた。
「リリが目覚めるまで、反省もした」
「反省?」
「本当はもう少しゆっくり気持ちを伝えたかったが、それは愚鈍な考え方だった。リリを喪うかもしれないなんて思っても見なかったから」
デイビッドが琥珀色の瞳でひたと私を見つめる。
「好きだ。最初からずっとリリが好きだった」
「え……」
驚きで目をまたたく。その拍子に目尻に残っていた涙が頬を伝う。
「今まで好きだからそばにいたし、リリが願うならなんでも叶えてやりたいって思ってる」
デイビッドは私の涙を長い指で優しくぬぐってくれた。
「……本当?」
「本当だ。リリが俺を嫌いじゃないのは知ってたが、誰よりも一番の存在になりたかった。でもそれは俺の希望だから……リリにちゃんと選ばれたくて、先に言わせてしまった。……すまない」
口早に言葉を紡ぐデイビッドの顔は、ムキになった子供のようにも見える。
私はなんだかのぼせたような心地で、ぎこちなく何度もただ頷いた。
デイビッドが私を好きって言ってくれた。もしかしなくてもこれは両思いってことだよね。
なんだかポカポカと体が熱い。
「うれしい……」
我知らずそうつぶやけば、手をギュッと握られた。
「うれしいか?」
「あ、う……ん」
デイビッドは私の返事を聞き、締まりのない顔で破顔した。私は真っ赤になってるであろう顔を隠せず、恥ずかしさでもじもじしてしまう。
だが続くデイビッドの言葉に高揚感がスッと消えた。
「俺もうれしい。討伐から戻ってきたら、……結婚しよう」
「えっ」
デイビッドはフラグを立てた。
「イヤか?」
「イヤじゃない、うれしい」
告白タイムからのプロポーズに伝説の死亡フラグ。
私は先ほどまでとは違う冷や汗を含んだドキドキに、デイビッドの手を強く握り返した。
「し、死なないでね!」
「もちろん」
「行く前に婚約して。あと絶対帰ってくるっていうのと、浮気しないって誓約書に書いてっ」
「書かなくてもちゃんと帰ってくるし、浮気はしないぞ。まぁリリが安心するならなんでもするが……」
デイビッドは照れくさそうに頷く。
「俺からもいいか?」
「なぁに?」
「ティナを必ずリリのそばに置いてくれ。リリの戦闘力とティナの治癒魔法なら、何があっても互いに補い合えるだろう」
それは私を信頼してくれている言葉だ。
うれしくて涙がじわりと視界を塞ぐ。
冒険者をしていたら今回みたいなこと、いくらでもある。
だけど危ないから魔物討伐をやめて大人しく家にいろと、デイビッドは言わない。
さすが私の好きになった人だ。
「わかった! デイビッドがいない間、私もみんなと協力して人を守る!」
そう宣言してデイビッドに抱きつけば、「リリ、ここで俺の理性を試すな」と、デイビッドが苦笑いをする。
だけど無理やり剥がすことはせず、私が満足するまで抱きしめられてくれた。




