死にハンの日常
誤字脱字ありましたら遠慮なくご指摘下さい。
ではどうぞ(°▽°)))
男は簡素な寝所の上に、仰向けに横たわっていた。
壁が剥がれて、剥き出しの骨組みが見えるこの部屋は、かつて街の中で最も流行った宿屋の一室であった。今は新しい、商人ギルドの経営する宿が隆盛を誇っている。昔の面影は、今はもう無い。
頭上では風もないのに揺れるランプが灯っていた。
男はゆっくりと目を瞑った。
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誰かが呟いた気がした。
しねと。
いつも願っていること。
いつも向かっていること。
いつも思えばこそ頑張っていくもの。
いずれ死ぬのだから。
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「あんた、少し休んだ方がいいんじゃないかい?」
翌朝、いつも遠目に見てくるだけの宿屋の女将が、今日に限って静かな声で尋ねてきた。
人に話し掛けられたのが久し振りであったからか、自分に話しかけられたと理解するのに少しの時間を要した。
「もう一生分休んだよ」
女将はそう素っ気なく答えた自分の、心を覗き込むかの様に目を合わせてきた。
うっとおしい。
親切のつもりかもしれないが、今の自分にしてみればお節介もいいところである。
だって、自分は死にたいのだから。
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俺の名は、クラウディ・ラインハルト。冒険者だ。
何故この仕事を始めたかと言うと、生きる気力が無かったから。要するに、1つの仕事を続ける気力が無かったのだ。
あと、俺が余所者で身分証明書を所持していなかったからだ。いつのご時世でも、身元の分からない怪しげな野郎を好んで雇う所はないだろう。
その点、この仕事は余所者の俺でもある程度の生活費を稼ぐことが出来た。
しかも、この都市アルク周辺には余り強いモンスターが存在しなかった。
精々ゾンビやゴブリン、オークといったところ。
何故ならアルクは三方を川で囲まれた軍事要塞都市であり、発生するのは洞窟から湧くか、死体が魔物化するかのどちらかなのだ。
そんなこんなで。
酒を飲み、金が無くなったら依頼を受ける。そんな生活スタイルをここ数ヶ月続けていた。
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その日は朝から最悪だった。
朝集会所に向かう途中、見知らぬゴロツキにいきなり金を出せと脅された。
首を振って断った自分に舐められたと感じたのか、ナイフを振りかざして襲ってきた。
顔面に一発打ち込んで気絶させ立ち去ろうと考えたのだが、そのゴロツキは誰かに一服盛られていたらしい。急に膝をついて苦しみ出し、口から血を撒き散らして倒れ込んだのだ。
お陰で自分は一張羅を血で汚され、その上街の警邏に事情聴取を受ける羽目になった。
どうやら今日は酒を飲めないらしい。
「ガア"アァアグ、ギャァ"アァアァア"」
街道沿いの森から数体のモンスターが威嚇しながら飛び出してきた。
今日受けたのはゴブリンの討伐だ。商人が運ぶ荷物を狙って集団で出現するようだ。
最近色々なモンスターの報告数が増えている気がする。
街にいるエセ学者がもうすぐ大災害が起こると予言しているが、あながち嘘ではないのかも知れない。
最初は(顔とか緑がかった皮膚の色とか全てが)気持ちが悪かったが、今ではもう慣れた。さっさと片付けてしまうに限る。
「炎の刃よ顕現せよ、我は炎の舞を崇める者なり。いざ共に踊らん!」
炎舞はとてもポピュラーな魔法の1つだ。自分の持っている武器に炎を纏わせ攻撃することが出来る。
多少切れ味が悪い刀でも、この魔法を使えば補うことが出来る。
ただ酒のために冒険者となった自分は、体力・魔法力共に高くないことを自認していた。
というわけで、俺の戦い方はまず足を潰し転ばせ、のち頭を潰すというスタイルだ。
何より自分は力量に見合った依頼しか受けないので、余り困ることは無かった。服も汚れないし。
倒し終わったゴブリンの死体を一箇所に集めて燃やす。死体は放置しておくとゾンビになる可能性がある。何より怖いのは、伝染病の温床となることだ。放置しているのがバレるとギルドで報酬を得られないことがある。
また、ギルドで依頼を達成したかという証拠になるのは燃えた後に残る魔石結晶であることが多い。
死体に手を突っ込んで取り出すこともできるが、手間がかかる。
死体を放置するのは百害あって一利無し。何でもかんでも燃やせばいいのだ。
まぁたまに木に燃え移って、火災が発生することもあるのだが。
「燃えたか。さて、魔石結晶はっと。んっ?なんだこれ?」
それは小さなナニカ。
ぐっと握ると、宝石の様な冷たさと硬さがあった。魔法結晶は大体淀んだ虹色をしているが、これはタールのような黒色で、完全な球体をしていた。
光を反射しないのか、今まで見たことのあるどの黒よりも黒かった。
こんなものは今まで見たことがなかった。
ギルドに売ろうかとも考えたが、食えもしない、魔力も秘めていないモノに、ギルドが金を払うとは思えなかった。
灰で汚れたソレを、俺はぎゅっと握りしめた。
一週間に一度UPします( ´ ▽ ` )




