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番外編3 名前の付け方について

 今回は名前の付け方について。

 本来は『カッコよさ』の回から繋げるつもりだったが、ネーミングセンスの「カッコよさ」と「ダサさ」など、どうあがいても個人的な偏見にしかならないのでばっさりカットした。

 ここでは「どのような名前を付けた方が書きやすいか(、、、、、、)?」という、あくまで作者サイドにおける利便性なり読者サイドにおける見やすさなりを考える。

 なお、その7『オリジナリティ』の考察において、「やたら名前が被っていて分かり辛い」というおまけ話を差し込んだら結構な反響があったのがこの話のきっかけである。

 正直、考察というよりは単なるこだわりの域を出ない気がしたので、今回も番外編とした。

 名前を付けることに対してさほど問題を抱えていない方はスルーしてもらっても結構だ。





 『テンプレ』異世界ファンタジーにおいて、とてもよく見かけるヒロイン名、その一例。

 アリア、クレア、マリア、ルリア、エリシア、アリシア。

 以前にも述べたが、ア行とラ行は鬼門である(拙作でレイシアという名前を使っている私も大概だが)。

 とかく文字でしかキャラの個性を表現できない小説界において、名前の『かぶり』は結構な致命傷になる。

 特に物語に多く登場するヒロイン格で、2人以上が同じ空間にいようものならもう大変。アリアさんとアリシアさんとエリシアさん(しかも同じ言葉づかい)の会話など、どうやって見分けを付けろというのか。

 それぞれが強烈な個性を放っていたり、ある程度読み進めてしっかりキャラクターを把握できれば大きな問題はないのだろうが……いかんせんそこに至るまでが大変だ。

 その作品内だけであればともかく、複数の作品と併せて読み比べされるのが『なろう』のようなweb小説界だ。似たストーリーラインの『テンプレ』小説で、かつヒロイン格の名前が他の作品とまるかぶりしていようものなら、それこそ見分けが付かなくなってしまう。


 名前とは、その対象を指し示す最も分かりやすい表現だ。

 カッコいいダサいはともかくとして、その名前が誰のことを指しているのかがはっきりと見て取れないと、ストーリーを楽しむどころではないわけだ。

 さっきまでデートしていたアリアさんに対し、「え、この子メインヒロインだったの? さっき出てきた新キャラかと思った! ……あ、それはアリシアか」なんて盛大な齟齬(そご)を起こさせないよう、気を遣ってあげたいところだ。





 文章を書き連ねるにあたってなるべく気を付けたい基本的なこととして、「同じ言葉を何度も繰り返さない」という点がある(その言葉を強調したい場合はアリだ)。

 私は特に「しかし~」とか「~である」というように、地の文の言い回しで失敗することが多いのだが……要するにその名前バージョンだ。

 似たような名前とは、例え別人であろうとも並んでいれば段々と違いが分からなくなってくる。


 アリアは楽しそうにスキップをした。

 アリシアは転びそうになったアリアの手を取ってあげた。

 アリアは恥ずかしげに笑いながらアリシアにお礼を言ってきた。


 アリアリアリアリが乱立していて、ずっと見ているとゲシュタルト崩壊しそうになる。

 性格や言動が個性的なものであれば、そこから各個人を判断することもできようが、両方とも『テンプレ』的な、すぐ主人公に惚れるヒロインことチョロインになってしまうともうお察しだ。セリフですら判別ができなくなって、前後の文脈でどうにかこうにか読み取る努力を強いられることとなる。

 こうなると、同じ場面で並べて登場させない、言葉づかいをまるきり差し替える、改名、といった対処でもしないと間違いなく今後の展開が辛くなる。

 こんな無駄な添削作業をしなくて済むよう、名前だけでどのキャラかをしっかり識別できるようにしてあげたい。

 ちなみに、これは別にキャラの名前に限ったことではない。

 武器や魔法、地名、組織、乗り物、ありとあらゆる存在に適用される。

 ファイヤーストームの上位魔法がファイヤートルネードだとしても、名前だけでは区別がつかないということだ。


 とはいえ、個性的だったらいいというわけでもない。

 スリジャヤワルダナプラコッテ(スリランカの首都)とかスベスベマンジュウガニ(カニの一種。なお猛毒持ち)とかチョチョニッシーナマッソコぶれッシュエスボグリバンバーベーコンさん(某セクシーコマンドー伝説で出てきた名前。どうでもいいが私は覚えた)とか、そもそも覚えることすら困難な名前では本末転倒もいいところである。

 理想としては、「覚えやすく」「他の人(あるいは物)とはっきり判別できて」「他作品で広く使われていない(あくまで推奨)」名前が理想的ではあるのだろう。





 差し当たってはキャラの名前だ。

 ではここで、主要人物の名前の『テンプレ』を定義してみようか。


 主人公……普通の日本人男性の名前

 ヒロイン1……ア行とラ行の組み合わせ

 ヒロイン2……同上

 ヒロイン3(ケモ耳)……猫獣人なら高確率で「ミーシャ」


 異論があればどうぞ仰ってほしい。

 ホント、マジで、こういう名前のパーティばっかりだから!!

 複数の『テンプレ』小説読んでると分かるけど、大宇宙の意思で定められているかのごとく同じような名前がわんさか出てくるから!!


 ……相も変わらず荒ぶってしまったが、そこまで大袈裟な話でもないのだこれが。

 『テンプレ』がスピード展開なのはもう言うまでもないが、基本的にキャラの細かい掘り下げ(ヒロイン視点で1話分くらいモノローグ挟むとか、ヒロインの素顔が見られるサブエピソードとか)がほぼ入らないストーリーラインで、しかもハーレム展開だから、同列のヒロインは息つく間もなく増えていく。

 異世界転移した主人公の名前は、別に普通だろうとそう問題にはならない。

 西洋ファンタジーに迷い込んだただ1人(複数召喚でない限りは)の日本人なので、前提からして他キャラと名前の差別化ができている。

 別に他のキャラも、作中でたくさん登場する以上、いくらかは近い名前が出てきてもそれは仕方がない。問題なのは、冒頭でも述べた通り「同じ場面に」「同じような名前が」「何回も」出てくることだ。

 本来、これは男性キャラも例外ではないのだが、『テンプレ』での場面は「主人公+ヒロイン複数」の構図ばかりだ。

 登場人物紹介をするイメージで、一度キャラクターの名前を縦に箇条書きにしてみるといい。名前の文字列がなんか似てるなー、と思ったら危険信号じゃなかろうか(そういう意味では拙作も割と危ない)。

 特にハーレム展開が濃い『テンプレ』作品を想定する時こそ、アリアリ現象をなんとか回避してほしいと切に願う。





 時に皆さま、キャラの名前をどのようにして決めているだろうか。

 日本人の名前付けの際は、漢字の総画数から運気などを占う姓名診断が盛んだし、そもそも漢字一文字だけでも色んな意味がある。

 例えば「目標に向かって高く昇ってほしいから」という願いを込めて『翔』や『昇』といった名前にされた親御さんだって多くいらっしゃるだろう。

 西洋圏であれば、王室の人の名前をそのまま子供に付けるなんてことも珍しくない。

 なお、アリアという名前もわりかしメジャーらしく、意味としては独奏曲――オペラなどでのソロパートのことを指すそうだ。演目上における主役の見せ場という意味合いもあり、「人生という舞台の主役として輝いてほしい」なんて意図を含んだ名付けだったのかもしれない。

 文字におこすとキレイに見えたから、なんて理由で付けるのもアリだろうし、別に大袈裟な由来でなくてもいいだろう。桜の木が咲くころに生まれたから「サクラ」という名を付けるのも率直で素敵だと思う。


 あるいは「名前の由来に物語上の伏線を入れる」なんてのもいいかもしれない。

 「黒木という名前の男が異世界で魔王を倒したが、1000年後の未来に飛ばされた」なんてストーリーがあったとして、その1000年後の未来に「○○=ブラックウッド」という名前のキャラが出てきたら、「え、主人公の名字と関係ありそう。どういうこと?」となる展開にできたりするわけだ(異世界は英語圏なの? というツッコミは無しで)。

 こだわれば、文豪・江戸川乱歩の名前の由来がエドガー・アラン・ポーから取ったように、名付けひとつでその人に対するエピソードを作ることだってできる。

 このように、名前とは結構遊べる(、、、)のだ。


 名は体を表し、名付けには親から何かしらの意図や願いといったものが込められている。

 ならば、キャラという子供に対して、親である我々作者がその名前に気持ちを込めるのは自然なことだと思わないだろうか。





 名前で個性を付けたいなら、作品そのものもそうだが対象と同じ種類(、、、、)を参考にするのは避けた方が無難かと思う。

 当たり前のことだが、「ファンタジーに出てくるキャラの名前」を参考にして「ファンタジーに出てくるキャラの名前」を考えたら、そりゃあ同じような名前になる。特に人気がある作品から流用すると読者にバレやすい(、、、、、)ので、なるべく避けたいところだ。

 世界観の様式を守るためにも、ある程度似たような方向性の名前になるのはやむを得ないことだろうが、だからって主要人物の名前が他作品とゴロゴロ被るようでは「ありきたり」「量産型」という評価がますます加速してしまう。

 スタンダードな名前として、サブキャラなど一部に流用する程度ならいいかと思うが、主要人物くらいは頭を捻って考えてあげようよ、と声高に申し上げたい。


 ではここで、お手軽にできる名前付けの方法をひとつ。

 『花』『宝石』『陣形』『記憶』『季節』『シンデレラ』『和菓子』『魔女』。

 いったい何の文字列かというと、私がこれまで作品上に出した名前のモチーフに選んだキーワード達(のごく一部)である。

 今の世の中はホントに便利で、こういった言葉を検索エンジンに入力するだけで、そこから派生した色んな情報が出てきてくれる。たったひとつのワードから、何十何百の関連するワードが出てくることも珍しくなく、そこには変わった名前やキレイな名前だってたくさんある。


 例えば、拙作“AL:Clear”ではフェブリルという名前の少女が登場するが、名前の由来は英語で2月、Februaryをもじって付けている。テキトーに付けたわけではなく、2月があるということは、他の1月~12月も当然あるわけで……という深読みができるようにしている。

 実際に登場させるかはともかくとして、この時点で都合12人分の名前のモチーフができたわけだ。

 その気になれば、1ワードの検索から全登場人物の名前を決めることだって充分可能だ。統一感が出るし、キャラ同士の関連性を名前から読み取れたりと色々と面白い構成にできたりする。

 何なら自分の趣味に則った名前を探してみるのもいいかもしれない。

 私は結構なワイン好きなのだが、先日飲んだ赤ワインの名前が“シシェル・サンテミリオン”だった。響きもキレイだし、もうこのままキャラの名前に使ってもいいんじゃなかろうかと思ったほどだ。

 他にも絵画、音楽、料理などなど、名前のネタはいくらでも転がっている。





 ここまで書いておいて何だが、名前に個性があるから作品にも個性が表れる――なんてことはあまりないかと思う。冒頭でも述べたが、あくまでこだわりの域の話だ。

 名前が違うだけで中身は他の『テンプレ』と一緒……では何の意味もない。

 web小説において、人は何かの名前を覚える際単なる文字列で記憶するのではなく、「○○で××なキャラクターがアリアなんだ」というように、中身と名前をリンクさせて初めて記憶している。

 書籍化された作品なら挿絵も付くので、名前と外見のリンクだけでも覚えることは可能だが、見事なイラストのキャラクターでも中身に何の特徴が無ければ宝の持ち腐れだ。

 傍から見たら下らないこと、不必要なことに見えるかもしれないが、下らなかったり不必要と思われる概念から生まれるのがこだわりであり、それを追求したのが娯楽作品(エンターテインメント)というものだ。

 そういう意味では、中二病の意識を見習ってみるのもいいかもしれない。


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