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13)ロバート(乳兄弟)のことで気を揉むアレキサンダー

 グレースの部屋で、アレキサンダーは苛立ち、歩き回りながら、愚痴をこぼしていた。


「あれで、なぜ、ロバートは何をしている。いや、ローズが小さい今、何をしても困るが、いい加減にしろと言いたくなるんだが」


 昼間、勉強部屋からローズを連れ出し、食事をさせるのはロバートの仕事の一つだ。そうでもしないと教師たちの休憩時間が無くなってしまう。食事中でもローズは質問しだしたら止まらないのだ。

 

 庭で二人過ごすのはいいが、今日はあからさまだった。薔薇が咲き始めた庭で、ロバートはローズを長々と抱きしめていたのだ。やましいことをしている様子もなかった。ロバートがやましいことがわかるのか、という失礼な部下もいる。だが、一通りのことを、アレキサンダーはロバートと一緒に学んだから、知っているはずだ。


「孤児院に帰りたいのではないかと、勝手に悩んで、ロバートは馬鹿か。いや、馬鹿だ。あのローズだぞ。孤児院に帰りたいなら、帰りの馬車に乗るわけがない。帰ってきて上機嫌で私達に礼をいうわけがない。その気になれば、あれは夜中でも出ていくぞ。それをまぁ、あれこれと気を回して、おまけに自分がなぜ、気を回しているのか自覚がないなど、どういうことだ」


 口にしてみると、自分が腹を立てていることすら、何やら無意味に思え、アレキサンダーは余計に腹立ちを覚えた。

「かと思えば、庭で、あれはなんだ。かわいがるのはいいが、あそこまで独占しておいて、それでも自覚がないのだぞ。信じられん。他の男が寄り付かないという意味では、あれを上回る方法はないだろうが、あれはなんだ。執務室から丸見えのあの庭で、いや、警備上そのほうがいいのだが、自分が何をしているかくらい、いい加減に自覚しろ」


「あなたはそうおっしゃいますけれど」

グレースが微笑んだ。

「あの近習の鑑と言われるロバートです。一つくらい苦手なことがあったほうが、人間味もあって、よろしいではありませんか」

「グレース、限度があるだろう」


 人は己の後姿を見ることはないというが、ロバートの場合は自覚が無さすぎる。

「小さなローズは、まだ恋も愛も何も知らないでしょう。ロバートにあんな風に言い寄られては、可哀そうにも思えてきます」

「小さいというが、ローズも十三になったはずだ。それに言い寄るというが、ロバートは言い寄ってなぞいない。言い寄りもしないから、私が苛立つ羽目になるんだ」

「まぁ、確かにおっしゃる通りですわね」


 王太子であるアレキサンダーを近習として支えながら、東の館の一切を取りしきるロバートは多忙だ。ロバートをイサカの町へ名代として差し向けた時、ロバートは仕事を各部署の責任者達、近習達に割り振っていった。割り振られた側は、ロバートの抱えていた仕事の量に目を剥いていた。おかげで、仕事を一人で抱え込みがちだったロバートが、仕事の割り振りができるようになったのは喜ばしい副産物だ。


 イサカの町の周辺の国境地帯の問題だけでなく、アルフレッドが次々押し付けてくる仕事に、効率よく対応できている。結果としてロバートの仕事は減っていない。仕事を他に任せられないと言うロバートの不得手が一つ減ったことは喜ばしい。さっさと、もう一つの不得手も克服すべきではないかとアレキサンダーには思えた。


「あのロバートは、私の目の前で、ローズのことは、大事な妹だといったんだぞ」

「まぁ、妹」

グレースが目を丸くした。

「私の兄二人とも、あそこまで私を構ってはくれませんでしたのに」


グレースの言葉にアレキサンダーは頷いた。やはり、ロバートは、ローズの可愛がり方は、妹へのそれではない。

「兄というなら、ローズを嫁にくれと言われたら、兄としてどうするつもりなのでしょう」


 アレキサンダーはしばらく考えた。

「大方、自分に勝る者以外は許さんといって、一人残らず追い返すだろうな」

グレースが噴き出した。

「まぁ、それではローズは一生結婚できないでしょうに」

「大事な妹をどこへもやらずに済むんだ。過保護すぎる兄としては万々歳だろう」


 お前はそれでいいのかとロバートに聞きたいが、本人はここにいない。どう考えても、良いはずがない。

「あの堅物に、自分がローズを妹扱いしていないことを、どう自覚させたものか」

アレキサンダーにもわからない。


「それとも、本人の言う通り本当に妹で、あれが過保護すぎる兄というだけか」

アレキサンダーにとって、乳兄弟のロバートが、唯一の兄弟に近い存在だ。姉も妹もいない。乳母のアリアは優しかった。もし、アリアに娘がいたら、自分達はどんな風に接しただろうか。


「まさか。兄達の妹の私への贈り物なんて、庭で捕まえた元気のよい蛙でしたのに」

子供の頃の話をしたグレースが唇を尖らせた。


「そんなものがなぜ、贈り物になる」

「さぁ、兄達に聞いてくださいな。私、跳ぶのが怖くて泣いてしまいましたもの」

「兄というのは、妹にとっては、なかなか困った相手のようだね」

アレキサンダーはグレースの手をとり、口づけた。



本日10時から幕間で短編を投稿予定です。

フレデリックの余計な一言 https://book1.adouzi.eu.org/n0180gv/


後見人(新米)は、謎の言葉「テレンテ・クダ」を口にする少女に振り回される、面倒見の良い世話係(熟練)に、(一応は)同情する

https://book1.adouzi.eu.org/n7484gv/


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