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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [中編]
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第48話『大罪か、革命か』

【星間連合帝国 セルヤマ星―ラヴァナロス星宙域 皇帝用宇宙戦艦スレイプニル 皇帝用私室】



 宇宙は広い。惑星間移動を行うと果てしなく広がる宇宙空間を見てそう思うことがある。そしてそんな広い宇宙に生きていれば「まるで見ていたのではないか?」と思わせる程にタイミングが良い事が起きる時がある。ランジョウは高級感あふれる天蓋付きベッドの傍らに立ちながらそう思っていた。


「今一度申してみよ」


ランジョウがそう告げると艦橋にいる通信士の音声が通信機を通して室内に響き渡った。


『はっ! ソナーより下方の小惑星帯に未確認の宇宙船を確認しました。小惑星帯からの放射線でジャマーが入り通信は難しいため、調査船の派遣、また現在はこちらに反撃の様子はございませんが、万が一の際は攻撃許可をいただきたくご連絡いたしました』


「周辺の護衛艦は何故気付かなかった?」


皇帝を差し置いて護衛官のベアトリスが口を挟む。ランジョウは対して気にした素振りを見せることなく恐縮した息遣いを見せる通信士に「申してみよ」と告げると彼は少し気まずそうに声を発した。


『……はっ、その、周辺の護衛船団は我が艦より150kmの空間を開けて待機をしております。どうやら不審船はその船団の僅かな隙間を入ったようでして』


「なるほどな。ならば仕方あるまい。護衛艦との距離を定めたのは他ならぬ余なのだからな」


ランジョウは自虐的に小さく笑う。艦橋の通信士は戸惑っているのかそれ以上何も言わなかった。

 皇帝用宇宙戦艦スレイプニルに当然艦長は存在する。それは軍内でも選りすぐりのトップエリートしか務められない栄誉ある役職なのだが、この皇帝用宇宙戦艦にのみ特殊な規則が設けられていた。それは“皇帝乗船時に限り、艦長は権限行使の際は皇帝の承認を得る”というものである。それは有事の際、帝国民は皇帝に命の選択を委ねるという法案に沿ったための規則だった。


 「このスレイプニルに遠く及ばぬ旧式艦一隻か……捨て置け」


ベットに腰を下ろしながらランジョウがそう告げる。その返答に通信兵は少し戸惑いが混じったように『はっ』という返答をするが、ランジョウは彼等を安心させるために条件を付けた。


「無論、警戒は怠るな。妙な動きも見せるようであれば見事滅してみせよ」


『はっ! 仰せのままに!』


その返答に迷いが無いことを確認したランジョウは通信を切る。そしてベット脇の通信機からベアトリス越しに扉の方に振り向くと、そこに立っていたマーガレット・ガンフォールのホログラムは小さく頭を下げた。


『感謝いたしまス、陛下』


「貴様の嘆願後にこのような報告が来るとはな」


ランジョウはそう言って小さく笑いながらベアトリスに頷くと、彼女は最敬礼して後退りしながら扉の前に移動していった。

 ランジョウはベッドに腰を下ろしながら改めてマーガレットを見据える。彼女は一切の笑みを見せぬまま口を開いた。


『これは我が身内の問題ではございまス。ですが陛下への忠誠を示すにはこのような手段しかなく……』


「順を追って今一度説明せよ」


ランジョウはマーガレットの言い訳じみた言葉を遮るとベット脇のグラスに手を伸ばす。するとマーガレットは恐縮した様子で再び小さく頭を下げてから口を開いた。


『先日、我がガンフォールファミリー内での不穏分子の掃討を行った際、傘下のホーンズ海賊団が無用の略奪を行っているとの情報が入り海賊連合を派遣いたしましタ。ホーンズ海賊団は80%以上壊滅させましたガ、首領であるレオナルド=ジャック・アゴストが独自に愚弟の皇子に接触を図っていると聞キ、海賊連合を討伐に向かわせておりまス。故ニ、もしもアイゴティヤ星からカルキノス星への宙路区間で不審な船を発見なさった際ハ、我が海賊連合を派遣します故、どうかお見逃し下さいますようお願い指し上げた次第でありまス』


「うむ、して? 何故我らが貴様等にそこまでの配慮をせねばならぬ?」


ランジョウは薄い笑みを浮かべてマーガレットを睨みつける。しかし彼女はその眼光を意に返すことなく淡々と答えた。


『私は陛下に愚弟を御身の前にお連れするようご拝命いただきましタ。故に自らの手で愚弟を陛下の眼前にひれ伏せたく思っておりまス。また此度の件は我が身内の問題にございまス。陛下のお手を煩わせるのは心苦しく思いこのような判断に至りましタ』


「なるほど。確かに貴様の家庭内の問題に口をだすほど余も暇ではない。ではもう一つ聞いておこう。貴様の傘下のならず者が我が愚弟に接触を図ったと言ったが……それは誰の差し金だ?」


『はっ。我が妹……シャルロット・ガンフォールと思われまス』


マーガレットは真っ直ぐな目でそう告げる。ホログラム越しからもそれは嘘偽りのない言葉と信じさせるほどの言霊が籠もっていたが、ランジョウは彼女の言葉の中には別の真意があるとあっさり見抜いた。


「ほう……あの器量の良い娘がな……まだ幼いと思っていたが中々食えぬようだ」


ランジョウは敢えて気付かないふりをして薄く笑う。この時、初めてマーガレットの表情が僅かに反応したのを彼は見逃さなかった。そしてその反応は彼女の言葉には裏があることを証明するには充分だった。


「(……妹が裏切ったというのに……そう平然としていられる筈があるまい……)」


冷静な表情を浮かべるマーガレットの心の内を見透かしながら、ランジョウはかつてベルフォレスト・ナヤブリという男の本質を見抜けたかったことを思い出した。あの程度の人物の本質を見抜けなかったのは彼自身が他に頼るすべを知らなかったという理由があったことは否めない。しかし、単純に考えればベルフォレストごときの心情など察することができたはずなのだ。彼に裏切られた一件以来、ランジョウは人間の本性を見抜くことだけに神経を絞るようになっていた。それほど彼にとっては裏切りがトラウマとなっているのかもしれない。

 ランジョウはそっと目を閉じると、普段通りの笑みを浮かべてマーガレットに告げた。


「では、この件はそちに預けよう。せいぜいならず者を指揮して我が愚弟を連行できるよう励むといい」


ランジョウがそう告げると、マーガレットは僅かながらに安堵した表情を浮かべた。そして『はっ。どうぞお任せ下さイ』という言葉とお辞儀する姿を残してホログラムは消えていった。ランジョウは扉側に立っていたベアトリスに再び小さく頷くと、彼女は傍らにある機器を操作して新たなホログラムを浮かび上がらせた。

 新たなホログラムが徐々に形を成していく。そこに現れたのはランジョウの筆頭秘書官であるトーマス・ティリオンだった。


『お久し振りです陛下』


「少しやつれたな。何かあったか?」


頭を下げるトーマスはホログラム越しにも分かる程に疲弊の色があった。ランジョウはねぎらいの意味も込めてそう尋ねると彼は苦笑交じりに頷いた。


『今し方、ヴェーエス星から戻ったところでして……』


「ほう? して? シャイン=エレナ・ホーゲンは?」


ランジョウが尋ねると彼はゆっくりと首を左右に振った。


『駄目です。こちらに付く気は無いようです』


「ふむ。それで貴様はオメオメと見逃して戻ってきたという訳か」


ランジョウは冷たい表情でそう言い放つが、トーマスは疲弊した表情の中に微笑を織り交ぜながら頷いた。


『はっ。シャイン=エレナ・ホーゲンは1人でしたが……彼女を捕縛しようにもこちらの手数が少な過ぎました』


「貴様には戦艦一隻を預けたと思うが?」


『陛下、彼女を捕えるおつもりでしたら連合艦隊を複数用いる事をオススメいたします。最も彼女はその状況を利用して上手く逃げおおせるかとも思いますが……』


トーマスは苦笑交じりにそう告げる。彼の冗談めかした物言いや主君だけでなく友人に近い雰囲気に嘘偽りはない。ランジョウはそう判断すると「フン」と鼻を鳴らした。


「左様か。そなたがそう申すのであれば仕方あるまい」


『恐れ入ります』


「それで? ヴェーエスに赴いていたと言ったな?」


ランジョウは話を戻すとトーマスは『はっ』と一言置いてから話し始めた。


『接触したシャイン=エレナ・ホーゲンの反応から彼女がヴェーエスに向かっていたのは間違いありません。恐らく強力な新型CSを開発しているかと思われます』


「ほう。まぁ良い。戦力の拡充は総じて我が方にも利益をもたらす事に相違ないのだからな。だが、貴様が赴いた理由はそれだけではあるまい?」


ランジョウが尋ねるとトーマスは少し口籠る。そして口に出すこともはばかられるような恥じらいに近い表情を浮かべながら口を開いた。


『……はっ。同じく宰相派がヴェーエス星のデセンブル研究所に連絡をとっているとの情報が入り、そちらを本命として調査いたしましたところ……』


トーマスはそこまで告げて再び少し口籠る。彼の言い辛そうな雰囲気を察してランジョウは手助けする意味で言葉を添えた。


「構わぬ。申してみよ」


『はっ……宰相派は……女神の再生を計画しているようでして』


「……何?」


ランジョウは思わず険しい表情を浮かべた。

 女神の再生……それは抽象的な言葉だが、それがお伽噺のような絵空事の計画であることはすぐに分かった。真面目な話の最中、急に冗談を言われたようなむず痒い感情に囚われたランジョウは苦笑にも似た笑みを浮かべて誂うようにトーマスを詰った。


「女神、か、と言うと? 神栄教の神か? それとも我が皇族の始祖である女帝か?」


『入手した情報からは前者と考えられます』


「ほう……確かに女神の再生だな。それで? 女神とやらを再生する真意は?」


ランジョウは少し小馬鹿にしたつもりでそう尋ねるが、トーマスは至って真面目な表情のままだった。彼は諫めるような口調でランジョウの問いに答えた。


『陛下、ご納得いただけないのは重々承知しております。ですが、宰相派は本気で女神を再生する計画を進めているのです』


「何のためだ? この社会に神を生む事に何の意味がある?」


ランジョウは戸惑いを隠しきれずそう尋ねると、トーマスは神妙な面持ちで口を開いた。


『陛下、ここからお話するのはあくまでも私めの推論にございます。……まず、この海陽系で最も民衆から支持を得るは陛下、即ち皇族であることは明確です。そしてその根底にあるのは三千年以上続くガウネリン家の血統と文化にあります』


「知れたことだ。それがどうした?」


ランジョウが頷くとトーマスは言葉を続けた。


『そして皇族に……ひいては陛下に比肩する支持を得るのが神栄教……つまり女神メーアに他なりませぬ』


「心得ている。我が帝国だけでなく隣国に至るまで神栄教の信者はいるのであろう?」


『仰る通りです。そして帝国と神栄教を天秤にかけられた時、果たして民衆はどちらに付くかという懸念点がございます』


ここまでの説明を受けてランジョウはトーマスが何を言いたいのかを察した。

 ランジョウは真剣な面持ちでグラスを傾けると、琥珀色の酒を一口含んでゆっくりと喉に通した。


「……なるほど。宰相派は神栄教の信者共の支持を得ようとしているという事か」


『恐れながら、今や宰相派勢力は陛下を皇位から引き下ろすほどの力を持っております。ですがそれではただの皇位簒奪となり、民衆からの支持を得ることはありませぬ』


「つまり……新栄教の教徒という支持を得てから我が皇位を奪おうという訳か……だが模造の神など教徒が信望するものか? 何より、それほど熱心ではない教徒までもがそちらになびくとは思えぬ」


ランジョウは最もなことを告げたつもりだが、トーマスは小さく頭を振った。


『陛下、この女神の再生という計画は根深くございます。こちらの文献を御覧ください』


トーマスはそう言って二次元の書面を浮かび上がらせる。それは建国史と呼ばれる三千年以上前に記されたという皇族の歴史を語るものだった。トーマスが映し出された書面の一部を最大化するとランジョウは顔を顰めながらその文章を読み上げた。


「……“女神メーア再誕こそがガウネリン家の本望にして帝国の悲願である オドレー=マルティウス・ガウネリン”……つまり、女神の再生は我が先祖の大願……帝国の悲願という大義名分があるわけか」


『はっ……初代女帝の言葉とあれば血統と文化を重んじるガウネリン家の支持者は一気に離れていく可能性があります。そしてその女神を宰相派が利用すれば……』


トーマスはそこで言葉を紡ぐ。その言葉の先を考えたランジョウは珍しく額を濡らして息を呑んだ。

 皇位簒奪……それは時として大罪となるが成功すれば革命となる。宰相派が動いていることには気がついていたが、ここまで用意周到に動いているのは流石に想定外だった。


「……このような御伽噺を実現しようとは……流石はハーレイ=ケンノルガ・ルネモルンか」


ランジョウは空になったグラスをベッド脇に置こうとして、自らの手が僅かに震えているのに気がついた。そんなランジョウにトーマスは推測とも言える言葉を告げてきた。


『あの男が傑物であることは否定しません。ですが、このような事を計画できるほどの人物とは思えません。他に協力者がいると考えるべきでしょう』


「……」


恐らくトーマスはその存在がコウサではないかと推測しているのだろう。ランジョウはそう思いながら、その推測を心の中で否定した。セルヤマ星から発つ直前に話したあの男の言葉には嘘があった。しかしその嘘は決して父である宰相に対してのものではないと思えたのだ。

 ランジョウは大きく深呼吸すると空になったグラスに琥珀色の液体を注ぎながら口を開いた。


「……しばし泳がせてみるのも良かろう。トーマス、引き続きヴェーエス星の()()に注意を払っておけ」


『それは承知しておりますが……よろしいのですか?』


「宰相派の鍵がヴェーエス星にあるならば我らの勝利は揺るがん。分かっておろう?」


『汚染時における緊急対応処置……“INDRA”ですか』


トーマスの言葉にランジョウは薄い笑みを浮かべる。

 人の住むことが出来ないヴェーエス星は研究惑星として用いられているが、そこには人体に影響を及ぼす可能性のある実験も行われている。もしもそれらが暴発した際に備え、ヴェーエス星の上空にはINDRAと呼ばれる砲撃用人工衛星が存在した。そこから放たれる光弾は着弾地点から数キロに渡り灰にすると言われている。そしてその発射権限には皇帝の生態認証が不可欠だった。


「最後の手札はこちらにある。INDRAの警備だけは重点的に行っておけ」


『……はっ。仰せのままに』


そう告げて頭を下げるトーマス越しにランジョウは広い宇宙空間を眺めた。

 眺める星の海の先にあるであろうヴェーエス星……政治的にはそれほど重要な惑星と思っていなかったその星でこれから多くの悲劇が生まれる。そんな未来をこの時のランジョウは知る由もなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【星間連合帝国 ヴェーエス星 デセンブル研究所】



 雪原に覆われたヴェーエス星で唯一人間が住むことが出来る場所……それは各地に点在している研究所に他ならない。それは即ち、科学の力なくして人間はこの星で暮らすことは出来ないという事を証明していた。時折見せる晴天時も氷点下を遥かに下回る気温であり、とても生身の人間が生活できる場所ではなかったのだ。事実、この星で暮らすヴェーエス星人と呼ばれる人々は、元はクリオス星人であり、海陽光の当たらない影響で黒い肌が白くなっていったと言われているのだ。今ではヴェーエス星人は銀色の髪と白い肌を持つことから無色人という蔑称が付けられていた。

 デセンブル研究所で暮らす少女……ミヤビ・ホワイトは研究所の外に出た事が無かった。まだ6歳の彼女は父でありこの研究所の所長であるノヴァ・ホワイトから半ば隔離されたような状態で研究所の地下深くで暮らしていた。しかし、彼女はそれを不幸と思ったことなどない。いや、他に比較対象がいなかったので不幸とも思っていなかったのかもしれない。それでも彼女には少し年上の兄や姉のような存在がいたので、寂しさを感じることが少なかったのは事実である。


「何をしてるの?」


キーボードをたたいていたミヤビは背後の声に振り返る。そこには性別の判断……いや、人種の判断の突かない子供が立っていた。

その子供は顔立ちはフマーオス星人のように端正で、ジュラヴァナ星人のように右の瞳は大きく、その色はローズマリー共和国の翠色をしていた。さらに左目はラヴァナロス星人のように赤く、こめかみからはアイゴティヤ星人の角が伸び、頭頂部にはレオンドラ星人の耳が生え、スコルヴィー星人とカルキノス星人が混ざったような紫色の肌をしている。つまり全ての星の人間の特色を持っていたのだ。

 そんな少女とも少年とも見分けがつかない子を見てミヤビは微笑んだ。


「BEの新しいパーツを考えてるの。ほら、クジャもこのBEはフレームが完成されているから、これ以上進化のしようが無って言ってたでしょう?」


人種が定かではないクジャと呼ばれた子は驚いた様子でミヤビに歩み寄る。するとミヤビはディスプレイにイメージ図と設計図を映し出した。


「パーツ……これは羽?」


「うん。飛行形態に出来たらなって思って」


「フェッフェッフェ! なるほどなぁコイツは面白ろい!」


先程まで穏やかだったクジャは豹変したようにノヴァと同じような笑い声を上げる。ミヤビは慣れたように同じく笑いながら再びディスプレイを操作した。


「ここには3着もBEが残っているからね。このパーツが完成したら試作テストできないか試したいんだ」


「試作だぁ? 動かせる奴がいねぇじゃんかよ? ……大丈夫よ! 私はイービル……じゃなくて神通力持ちだから操作できるわ」


クジャは二つの人格が入れ替わるように話し続ける。2人しかいない室内でミヤビは3人で会話するように話を続けた。


「じゃあ試作時はクジャのお姉ちゃんの方ね。お兄ちゃんの方はその時大人しくしててよ」


「いいわね。楽しみにしておくわ。……フェッフェッフェ! せいぜい楽しみにしておくぜ。それよりよ。今日は面白れぇモン見つけたぜ」


クジャはそう言うとミヤビのキーボードに手を伸ばし、新たなディスプレイを空中に出現させた。

 ディスプレイに映し出されたのは研究所の見取り図だった。クジャはその一角を拡大すると得意気な表情で笑った。


「フェッフェッフェ! あの変態野郎の秘密がこれだ!」


「変態ってパパの事でしょ? ここに何があるの?」


ミヤビはディスプレイを覗き込む。そこに移されたのは彼女達が立ち入りを禁止されている地下室であり、父ノヴァや彼に心酔する狂科学者達が出入りしている区画だった。


「博士が女神の再生をしているのは知っているでしょ? それは多分この部屋でやってるのよ。でも博士がやってるのはそれだけじゃない」


「何? 何か作ってるの?」


ミヤビはワクワクしたように笑みを浮かべる。するとクジャはニッコリと笑いながらディスプレイに視線を送った。


「ヤシマタイトの粒子分解性質を利用した兵器実験だな。フェッフェッフェ! スゲェ殺傷力だろうぜ?」


「なーんだ爆弾か。全然興味ないや」


ミヤビは拍子抜けしたように肩を竦めると再び自らが考案するBE用パーツの作成に着手した。しかし、クジャは少し呆れたように、そしてまるで悪戯をする子供のような笑みでミヤビの肩を抱いた。


「コイツを利用すりゃよ? ここから出られるかもしれねぇぜ? まぁ完成しなきゃそれも出来ないでしょうけどね」


クジャの言葉にミヤビは「え?」と再び好奇心に満ちた表情を浮かべて顔を上げる。

 三人の子供たちの脱走計画はこうして始まった。

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