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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [中編]
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第45話『虎穴からの脱出』

【星間連合帝国 アイゴティヤ星 恒星間運送業社】



 「(やっぱ悪趣味だよなぁ……)」


ダンジョウはこの恒星間運送業社に連れられてからずっと思っていたことを心の中で呟く。そんな成金趣味の豪華な装飾が施された廊下をチンピラ連中に囲まれながら歩くのは、ありがちなマフィア映画のようでダンジョウは思わず小さく鼻を鳴らした。

 血闘後の手続きのために迎えに来たチンピラ連中に連れられて会長室へと向かっていたダンジョウだったが、彼は心の片隅で違和感を感じていた。それは応接室に自らを迎えに来た時点でチンピラたちの顔が一様に緊張感に包まれていた時から端を発している。

 悪趣味な廊下を歩き続け、やがてエレベータの前に着く。到着したエレベーターに乗り込んだ瞬間にダンジョウが抱いていた違和感は確信に変わった。


「……オメェ等の会長さんの部屋に行くんだよな?」


「ええ、血闘の結果に基づきカンム・ユリウス・シーベルの受取人としてサインが欲しいそうです」


隣に立っていた唯一チンピラとは思えない精悍な顔つきの男が丁寧な言葉遣いでそう告げる。彼だけは他の面々と違い、にこやかな表情を保っている。しかし彼の返答はダンジョウにより一層の不信感を抱かせた。

 このビルに連れ込まれ、真っ先に通されたのは会長室である。その場所は当然というべきかビルの最上階にあった。しかしダンジョウ達が乗るエレベーターは明らかに下降していた。


「(……やっぱりみんなが言ったとおりだったか……ん? でも待てよ? アイツ等の言い分聞いて血闘出んの我慢してやったんだから、今回は俺の言い分を通すのはおあいこじゃねぇか?)」


一人で会長室に行くことを頑なに反対していた仲間達の顔を思い浮かべながら、ダンジョウは自分を正当化する。当然だが仲間の言い分に従ったほうが物事が上手く進むという結果論は頭から消え去っていた。


 沈黙のエレベーター内でダンジョウは目線だけを動かし周囲を確認する。隣の男のこめかみからは汗が一筋流れ落ち、前方の男は明らかに緊張をほぐすための深呼吸をしている。


「(……いざとなりゃやるしかねぇか)」


ダンジョウは総決意して最後に右腰に携えている液体金属の剣の柄を確かめる。エレベーターが止まり、ゆっくりと扉が開いていくと、前方に立っていたチンピラたちが順に外に出ていった。

 ダンジョウはそっと右腰の柄を握りしめる。そして意を決したようにエレベーターから降りたった! ……が、彼が剣を抜くことはなかった。


「何じゃお前は!」


「んな話聞いとらんわい!」


降り立った薄暗い空間に怒号が響き渡る。明らかにおかしな様子にダンジョウは柄を握りしめたまま怒号の先を見据えると、先程までダンジョウを囲っていたチンピラの数人がカルキノス星人の少女を取り囲んでいた。


 長身の少女は青い肌に際立つ黒い髪をコーンロウスタイルに束ねていた。目を凝らすと側頭部は星を模って編み込まれているのが確認できる。そんな彼女はお世辞にも礼儀正しいとは言えなかった。額にはアイマスクとゴーグルを乗せ、クチャクチャとガムを噛み、両手はポケットに突っ込んでいる。そんな態度で何か言われれば見栄を大切にするマフィアが怒号を上げるのも仕方がないのかもしれない。


「だからッスね。戦皇団の親分さんを連れてこいって言われただけなんスよ私は」


少女はそう告げるとフーセンガムを膨らませる。その行動が益々チンピラたちの神経を逆撫でし、明らかに彼等の鼻息を荒らげさせていた。

 そんなチンピラたちを宥めるように先程ダンジョウに丁寧な言葉で回答した男が前に躍り出た。


「まぁまぁみんな落ち着いて。えぇと、君はどこの所属に当たるのかな?」


「保安部ッス」


少女は面倒くさそうに首から下げたIDを見せると、彼女の社員証と思しきホログラムが浮かび上がった。男はそれを確認すると白々しくも見えるような驚き方で声を上げた。


「何と! 保安部ということは親父さんのご息女マリアン・ブランド部長の部下じゃないかー」


男の言葉にチンピラたちは揃って顔を見合わせる。マフィア内の事をダンジョウは知らないが、自分たちのボスの娘がバックに付いていると分かれば動揺するのは理解できた。


「で、でもゲインの兄貴! 俺たちは会長から直々に……」


「んーでも保安部の話を突っぱねるわけにもいかないよね」


「いや、まずは会長にご連絡して確認をとりましょうや」


チンピラたちは顔を見合わせながらざわつき始める。しかしそのざわめきを一蹴するかのように若い少年の声が響き渡った。


「あーもう見てられない! もういいって!」


「ぼぼ、坊っちゃん!」


そこに現れた年端も行かない少年を見てチンピラ達は目を見開いて背筋を正す。小さいながらも歴とした角を持つ少年は事も無げにチンピラたちに向かって口を開いた。


「お客人はこちらでお預かりするから。君たちはもういいよ」


「し、しかし」


「……君名前は?」


言い寄ろうとしたチンピラに少年はため息交じりにそう尋ねる。「クラダっていいやす」と答えたチンピラに少年は右側の角を撫でて微笑んだ。


「ふーん。祖父や父に教えてあげた方がいいかい? 仕事の邪魔をされたってね」


ヴァインと呼ばれる少年の言葉にチンピラたちはギクッとした表情を浮かべて後退りする。どうやらどこの組織でも上に睨まれるのは怖いらしい。

 チンピラたちが息を呑む中、唯一表情を崩さない男がいた。先程までダンジョウに丁寧な説明をしていたゲインと呼ばれる男である。彼は仕切り直すようにポンと軽く手を叩いて微笑んでヴァインの前に躍り出た。


「さ、次期三代目候補の方がそう仰るならいいじゃないか」


「ゲ、ゲインの兄貴」


「それとも親父さんの孫に反発するかい? そんな不義理な奴はいないと思うけど?」


ゲインの言葉にチンピラたちはぐうの音も出ずに頷く。そしてゲインはにこやかな笑みをダンジョウに向けてきた。


「では、我々はここで失礼します。あぁ、それと右手はもう離しても良いと思いますよ?」


ゲインの言葉にダンジョウは自身が未だに柄を握りしめていたことに気がついた。そして彼がその事に気付きながらも野放しにしていたという状況にハッとした。


「あ、ああ」


ダンジョウはゆっくりと柄から手を離す。するとゲインはにこやかに微笑みながらヴァインと呼ばれた少年の方に振り返った。


「では、僕らはここで。坊っちゃん、よろしくお願い致します。さぁみんな行こうか」


チンピラたちはどことなく不本意そうな表情を浮かべているが、ゲインの指示に従って今しがた降りたエレベーターに戻っていく。

 エレベータ内に全員が収まったのを確認したゲインは「うん」と頷くとダンジョウの前を通り過ぎる際に小さく口を開いた。


「……応援してますよ」


その言葉にダンジョウは思わず振り返る。ゲインはエレベーターの中に足を踏み入れると冷たい笑みを残して扉はピシャリと閉じていった。

 不気味な存在にダンジョウは目の間に縦皺を入れながら正面に向き直る。ゲインという男の正体は気になるが、今はそれ以上に解決させるべき問題があった。ダンジョウは目の前に立つ未だ敵か味方かも分からない二人を見つめていると、ヴァインはまるでセールスマンのような腰の低さでお辞儀してきた。


「改めてはじめまして。僕はヴァイン・ブランドといいます。お察しの通りここの親玉の孫ですよ。因みに僕に指示を出したのは父のダルトンです。どうやら父は祖父に反旗を翻すつもりのようで」


「反旗だぁ? テメェの親父を裏切るってわけか?」


「まぁ父は婿養子ですし」


よく分からないお家事情にダンジョウは頭をボリボリと掻いた。そして再び小さく息をつくとヴァインの後ろでフーセンガムを膨らませるカルキノス星人の少女に目をやった。


「んじゃオメェは?」


カルキノス星人の少女は割れて顔にまとわりついたフーセンガムに苦悶の表情を浮かべている。しかし長い舌で見事に絡め取ると再び咀嚼を再開して答えた。


「ジャネット・アクチアブリッス。何か船があるんでカルキノス星まで行けって言われました」


やる気を微塵も感じられない口調にダンジョウはため息をつく。ダルトン・ブランドは反旗を翻すならばダンジョウの存在はそれなりに大きいはずだ。そんな重要人物に同世代の気怠げな少女を寄越すということは彼の人望の薄さが垣間見えるようだった


「おいヴァイン、オメェのオヤジのチームってあんま人居ねぇのか?」


「さぁ? 僕はマフィア内のことは知らないんで。でもダンジョウさん達もあんまり変わらないのでは?」


「……確かにそうかもな」


痛いところを付かれたと思いながらもダンジョウは自分たちの境遇が似ていることに思わず笑った。そしてそれと同時に腹も括った。これまで同様綱渡りだが、今は二人の協力を仰ぐほかないのだ。

 ダンジョウはニカッと微笑むとヴァインに手を差し出した。


「よろしくな。で? オメェは親父について自分の爺さんを蹴落とそうって魂胆か?」


ダンジョウは渋々といった様子でヴァインの手を握ると、お家騒動はどこにでもあるのだと思いながら尋ねる。しかし彼の予想に反してヴァインはまるで夕食に嫌いな料理が出された子供のように顔を顰めて首を振った。


「いやいやいや、僕はこの家の事なんてどうでもいいんです。まず第一に暴力沙汰は嫌いなんで」


「んじゃオメェの目的は何だよ?」


ダンジョウはそっと手を離すと、ヴァインはニコリと微笑んだ。


「僕の夢は官吏になって人に後ろ指さされることなく真っ当に生きることなんです。そこで父に言われまして……ダンジョウさんに協力すればその道も見えると。ダンジョウさんは帝国政府の高官とお知り合いなんでしょ?」


疑うことの知らない屈託のない笑みでそう告げるヴァインを見てダンジョウは目を丸くした。彼はマフィアとは関わりのないキレイな世界しか知らないような無垢さがあったからだ。

 ダンジョウは頭をポリポリと掻くと納得したように頷いた。一先ず、彼等の協力を仰ぐしか無いと思ったからだ。


「……分かった。んじゃ、応接室に戻ってツレと合流だな。それからどうやってこっから出んだ?」


「お仲間さんは大丈夫です。おそらく父がもう既に手を回しているでしょう。脱出方法ですがこの地下フロアに船を用意したのでそれでお願いします。操縦は彼女が行いますので」


「うーす」


ヴァインの説明に相槌を打つようにジャネットが軽く手を挙げる。この二人が頼りになるかは分からない。しかしダンジョウは既に腹を括っているかのように「んじゃ行くか」と告げてヴァインの案内する道を走り出した。

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