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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [中編]
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第33話『別れの予告』

【星間連合帝国 ジュラヴァナ星-セルヤマ星宙路 神栄教御用船】



 神栄教御用船の宇宙船に備わっているのは操縦席と法王用の居室、その他用の私室がいくつかあるだけで非常に質素な造りをしている。現法王であるセイマグル・ヴァレンタインは一般人同様の宇宙船を好んでいたが、信者等の多くの声によってこの御用船が建造されたのだ。

 セルヤマ星へと向かう御用船内にある法王用の居室でコウサ=タレーケンシ・ルネモルンはジッとしながら目を閉じていた。彼がゆっくり目を開くと、セイマグルがコウサの額に指を当てて黙考している。やがてセイマグルは小さく息をついて目を開くと、どこか悲しげにも見える笑顔でコウサを見つめた。


「……相変わらずやな」


セイマグルはそう言って人差し指をコウサの額からそっと離すと背もたれに体を預ける。そして少しいじけたように口を尖らせながらボヤいた。


「もう勘弁してぇな。ワイもええ年なんやで? 老体で神通力使うんは意外とキツイんや」


まるで子供のような表情を浮かべるセイマグルにコウサは微笑を返しながら頭を下げる。


「すんまへん。でも気になってしゃあないんですわ。果たして僕の宿命は変わらずか。それとも女神メーアの導きで何かが変わるんか……」


「未来がそう簡単に変わったら……そらメーア様の職権乱用やないか」


セイマグルはそう言ってケラケラと笑う。崇拝対象を誂うような言葉……それこそが彼の人間性を物語っていた。 セイマグルは決して何事も特別視することはない。それは自らが最高指導者を務める神栄教でさえも例外ではなかった。

 全てをフェアに捉え流れに逆らわない生き方。そんな法王がいるからこそ、スコルヴィー人やフマーオス人といった差別対象の星の人々も神栄教に入信したのだ。その大半は神栄教というよりもセイマグルの人柄に惹かれた側面が強いのかも知れない。

 コウサもそんなセイマグルの人柄に心酔した1人である。

彼は皺と髭をクシャクシャにするセイマグルの笑顔を見つめながら不安気な表情を浮かべた。


「そんなら法王様。ボクはどうやって世界を変えていくんでっしゃろか? 最近、不安なんですわ。いくら女神メーアの教えを説いても世界は変わらへん。それはボクのやり方が間違っとるからなのかも知れへんと……」


コウサまるで懺悔にも近い形で問いかける。しかしセイマグルは変わらない慈愛に満ちた表情でコウサの肩にそっと手を置いた。


「考え過ぎんと思うままにやればいいんや。お前の行動が世界にどんな影響を及ぼすか。それをじっくり考えてな」


「思うがまま……でっか……」


コウサは目を閉じて心を落ち着かせる。セイマグルの声にはコウサが抱えるトラウマを解してくれるような穏やかさがあったのだ。

 本家で厄介者扱いを受けていたコウサにとって自分の存在価値を見出すのは死活問題に近かった。この世界において自身の存在が無用となれば、彼の精神は崩壊してしまうかもしれない。だからこそ師であるセイマグルの未来を見通す力、そしてそこから導き出される自分の存在価値の確認は彼にとって精神安定剤のようなものだったのだ。

 不安が徐々に薄れていきコウサはようやくいつもの余裕を取り戻す。そして彼はスッと立ち上がるとセイマグルに向かって改めて一礼をした。


「ありがとうございます。これでまた頑張れそうですわ」


「ん。せやったらえんやけど。あんまり気張りすぎひんことや」


「その言葉そっくりお返しします。法王様自らセルヤマに行かれることありまへんやないですか」


コウサは小さく笑うとセイマグルは自嘲気味に微笑みながら窓を覗き込んだ。


「ゼンジョウ君はもっとやりたい事が仰山あった筈や。やのに意識も戻らんとメーア様のもとに旅立ってしもうた。同じ時代を生きた友達として彼が出来へんかった事をやってあげたいやないか……ワイもそこまで時間は残っとらんやろうしな……」


遠くに煌く星を見つめながらセイマグルはボソリと呟く。その小声を聞き逃すはずもなく、コウサは無遠慮に不愉快そうな表情を浮かべて小さく頭を振った。


「法王様。冗談でもそういう発言はよくありまへん。信者が不安になりまっせ。そいでボクも熱心な神栄教徒やいうのをお忘れなく」


要は自分を不安にさせないでくれとコウサは言いたかった。親との関係性が皆無の彼にとってセイマグルは数少ない家族だったのだ。

 セイマグルはニコリと微笑みながらコウサの方に振り返る。しかしその言葉に弁解するでもなく小さく息をついてから首を回した。


「ちょっと疲れたわ。しばらくゆっくりさせてくれへんか」


「失礼しました。セルヤマ到着まであと2時間位でんな。向こうでも信者が仰山待ってくれとります。ゆっくり休んでください」


コウサはそう告げて再び小さく頭を下げると、背もたれに身体を預けるセイマグルを残して部屋を後にした。

 法王用の居室を出るとコウサは扉の前で立っていたラヴァナロス人少女に視線を落とした。そして少女の頭にそっと手を置くと優しい笑みで問いかけてあげる。


「ありがとなメルティ。誰も来ぉへんかったか?」


コウサの微笑みにメルティと呼ばれた少女は頬を染めながら頷いた。


「……へぇ。ずぅっとここで見とりました。枢機卿様が御入室ならさってからウチの視野に入った方はおまりまへん」


メルティの口調はジュラヴァナ星でも少し格式が高そうな地区の訛りがある。そしてその態度と仕草からメルティがまだ10歳ながらコウサに対して好意を抱いていることが明白だった。だからこそコウサは彼女にこの扉の前に立たせるという重要や役目を与えたのだ。

 セイマグルの持つ神通力は女神メーアを滅ぼした力と伝わっており、その不可解過ぎる力を持つ者は異端者として帝国内では特殊な目を向けられている。そんな神通力を神栄教の法王が持っているとなれば、大きなスキャンダルとなり、神栄教の権威は失墜しかねないのだ。その為、コウサはセイマグルに未来を見てもらう際に必ず見張りを立てていた。そしてその役目は自分に心酔する人間……要は裏切る可能性が少ない人間を置くのが必然だったのである。


 「ほなお父ちゃんから連絡はあったか?」


コウサは再び優しく微笑みながらそう尋ねるとメルティは両手で装着型のインカムを差し出してきた。


「へぇ。音声を残す言うとりました」


そう告げるメルティの手からコウサは「ありがとさん」と言ってインカムを受け取ると、耳元に装着して残された音声を再生した。


『朗報だ。愚弟の皇子だが見事に生き延びていたぞ。現在はアイゴティヤ星のブランドファミリーに囚われている。これからライアン・ブランドと会談に入るそうだ。あとファミリー内に潜入中、皇族派か宰相派どちらかの潜入者を見つけた。これは推測だが動きから察するに宇宙海賊と思われる。となれば皇族派の可能性が高いだろう。恩を売る為にもこの情報をシャイン=エレナ・ホーゲンに知らせる事だ。以上。通信終了』


相変わらず的確な情報だけを残すネメシス・ラフロレインにコウサは小さく笑う。そしてお世辞抜きに彼の評価を上げる為にもその娘に微笑んだ。


「お父ちゃんはエエ仕事してくれるわ。ボクも親友として鼻が高いで」


コウサの微笑みにメルティは益々頬を染める。そして無邪気な笑顔で顔を上げると嬉しそうに告げた。


「……おおきに。枢機卿様のお役にたててお父はんも喜んどるに違いおまへん」


メルティの誇らしげで嬉しそうな表情にコウサは小さく頷くと彼女の頬をそっと撫でた。


「ほな後の見張りはザイアン隊に任せよか。小隊長はんを呼んできてくれへんか?」


「へぇ。お任しください」


メルティはウットリした表情を浮かべるとそのままザイアン隊の控室に向かって歩いていった。

 メルティの後姿を見送るコウサはにこやかな表情から大人の笑みに切り替える。そして懐から取り出した端末を手にすると、どこかへ連絡を入れ始めた。

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