表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [中編]
77/110

第28話『マフィアと経営者の処世術』

【星間連合帝国 アイゴティヤ星 恒星間運送業社 会長室】



 恒星間運送業社……その会社は社名が表す通り恒星間の運送を取り仕切る帝国屈指の企業である。今や帝国内の物流シェア7割近くを占めているこの恒星間運送業社が帝国に及ぼす影響力は凄まじく、経営を取り仕切ってるのが帝国内二大マフィアの一角であるブランドファミリーであることは周知の事実でありながらも黙認されるほどだった。

 恒星間運送業社は元ガンフォールファミリー傘下の宇宙海賊を発端としている経緯もあって、現会長にしてブランドファミリーの首領であるライアン・ブランドは帝国きっての武闘派にして血の気の多い男と認識されている。それは誰であろうと媚びない姿勢からもよく見て取れた。


「宰相っちゅうんは随分暇なんやな」


ライアンはそう言って着流しの懐に手を入れて胸元を掻きむしりながらホログラムとして浮かぶハーレイ=ケンノルガ・ルネモルン宰相を見つめる。そんな義父の姿を横目に見ていた恒星間運送業社社長ダルトン・ブランドは義父を差し置いて宰相に問いかけた。


「宰相閣下。本日は契約合意の確認ということでよろしかったでしょうか?」


ハーレイのホログラムが陽炎のように揺れる。少し通信状況が芳しくないようだが、ティーカップを片手にしたハーレイの表情が笑顔である事は伺い知れた。


『左様だ。今回は諸君らの協力に感謝する。そう言っておこうと思ってな」


「お気遣い感謝します」


『礼の一つくらい言っておくのが筋であろう? 特に会長殿はそういった面を気にする方であったと記憶していたのでな』


嫌味にも冗談にも聞こえるその言い草に隣に座るライアンは鼻を鳴らす余裕で答えた。


「オメェにも義っちゅうもんが多少なりは理解できたみたいじゃのぉ。少しは利口になったやないか」


『お褒めに預かり光栄だ。しかしこれも上に立つ者の役目と認識している』


「会長も宰相もその辺にしておきませんか」


まるで子供のような言い合いをする2人の間にダルトンは割って入ると、両手を組みながらハーレイの方に非難に近い視線を投げかけた。


「宰相閣下。お心遣いはありがたいが政府のトップが民間企業と大ぴらに会談を行うのは好ましく思えません。我々としても余計な疑惑をかけられるのは望ましくありませんので」


ただでさえマフィアと運送業の二面性を持つ事で世間から色眼鏡で見られる彼等からすれば、これ以上面倒事を背負う気にはなれなかった。ましてやそれが政府との癒着問題であれば尚更である。

 そんなダルトンの心理など小事と言わんばかりにハーレイはニヤリと微笑みながらティーカップをそっとテーブルに降ろして口を開いた。


『そのような心配は無用だ。こちらにもそれなりに優秀なロビイストはいる。世論の操作というのは結局は上の人間が行っているのだよ』


「その言葉を聞いて少し安心しました。ですが世論の問題だけではないのですよ。閣下におかれましては我々だけでなくエルフィント航宙社……ガンフォールともよくお会いになっているようですので」


ダルトンはそう言って小さく笑う。

 ブランドファミリーと双璧を成すガンフォールファミリー……しかし前述の通り元はブランドファミリーもこのガンフォールの傘下であったことは有名な話である。半ば喧嘩別れに近い形で分裂したこの二組の因縁は未だに続いており、彼等が仕切る裏社会では数え切れない程の駆け引きや血生臭い抗争が繰り広げられていたのだ。


「お互いに無駄ないざこざは避けたいでしょう?」


ダルトンはそう言って薄い笑みを浮かべる。

 ダルトンはブランドファミリーの婿養子であり、ライアンの娘と結婚することによって今の地位を手に入れたと言われている。無論、その関係性が皆無かと言われれば嘘になるが、彼自身が多くの駆け引きや血生臭い抗争に身を投じていたのも事実である。そんな経験則がある彼だからこそ無駄な流血を避けるために円滑に事を進めるつもりだったのだ。

 ダルトンの雰囲気をホログラム越しに感じ取ったのかハーレイは再び微笑むとライアンの方にチラリと視線を戻した。


『素晴らしい。会長も義理とは言え見事な跡継ぎを得られましたな。ガンフォールの跡継ぎとは器が違う』


「閣下にお褒めに預かったとなれば、会長のご息女……我が妻も喜びましょう」


ダルトンがそう告げるとライアンは不愉快そうに煙管に火を点けた。


「……身内話なんぞするためにわぁの時間を使うつもりかのぉ? ……ルネモルン。キサンはわぁの言質を聞くのが今回の本当の目的じゃろうが」


ライアンはそう言って煙を吐き出すと不敵に微笑みながらハーレイを見つめる。その視線にハーレイは小さく頷くことで返答した。


『左様。今ようやく落ち着きを取り戻した皇族の平穏に暗雲を齎す可能性がある。見つけたら報告を。対象への処理は帝国軍が行う』


「分かったわい。ウチの航路内で人間を乗せた妙な移動があったらすぐに教えちゃる」


『助かる。こちらも超速移動宙路の優先権と宇宙海賊から安全保障をガンフォールに約束させよう』


互いの利益を確認し合った両者の視線が交差する中、ダルトンの胸元に振動が走った。


「失礼」


ダルトンはそう言ってゆっくりと立ち上がると、懐から端末を取り出して浮かび上がる情報を確認した。


「……」


彼は僅かに眉間に皺を寄せると視線をライアンに移す。ライアンは視線をハーレイに向けながらもダルトンの心情を察したのか煙管を吸いながら普段どおりに口を開いた。


「……したらばもうええか? こっちもキサンの相手だけしちょる訳にいかんのでのぉ」


『ああ。では朗報を待たせてもらう』


ハーレイがそう言い残すとホログラムはゆっくりと消え去った。

 通信が切れた事を確認したダルトンは端末を正面モニターに送信してライアンに歩み寄った。


「親父さん」


「良かったのぉルネモルンに背を向けておいて。キサンは顔に出すぎじゃ」


ライアンはこめかみの角を摩りながら映し出された映像を見て目を細めている。そして再び煙管に口を点けると大きく煙を吸い込んだ。


「タイミングがええな。護衛はおらんかったんか?」


その言葉にダルトンは首を横に振る。そして険しい表情を浮かべながら少し厄介そうに普段どおりの口調に戻した。


「下のモンの話じゃが、凄腕の奴が3人と別嬪な女子が1人。こっちにもかなりの犠牲者が出たみたいですわ。そいで親父さん。その3人のうち1人じゃがカンムっちゅう話でっせ」


ダルトンの言葉にライアンは驚く様子は見せない。ただ彼は「ほぉー」と感心したような声を上げてモニターだけを一心に見つめていた。


「どないしましょ? ルネモルンに連絡でも入れますか?」


ダルトンは未だモニターから視線を外さないライアンに尋ねると、彼はようやく身体をダルトンの方に向けて悪どい笑みを浮かべた。


「それはまだじゃ。カンムのガキも捕まえたんなら一石二鳥じゃ。上でふんぞり返っとるハーレイのボケを潰す鍵になるかもしれんからのぉ」


「ルネモルンが本当にカンムに食いつくと思っちょるんですか?」


「食いつくかは分からん。じゃがあの事件に関わっとる人間を簡単に手放すとも思えん。じゃから冷凍刑後に表じゃのうて裏のワシ等の中に隠してんじゃからのぉ」


「そんならこの積み荷の連中はどうするつもりじゃ?」


ダルトンは顔を歪ませてライアンを睨みつけると彼は再びモニターに視線を送りながら煙管を吸った。


「使いどころを考えてからじゃ。お前は何も引っかからんかったんか? ハーレイが最初に言ったんは、ある皇族を探しとるちゅう話じゃった。ほんで今日は皇族の平穏を揺るがすと言いおった。皇族の平穏を揺るがすっちゅうたら一つ。跡継ぎ問題じゃろ」


「っちゅうことは……積み荷は先帝の隠し子?」


「いや、モニターの面よぉ見てみぃ」


ライアンに促されてダルトンは身を乗り出す。そしてその姿を見て思わず彼は目を見張った。


「……皇帝……」


「そうじゃ。違うんは髪型くらいで今の皇帝にそっくりじゃ。現皇帝とここまで似とるっちゅうことは……」


「まさか……死んだっちゅう賢兄の皇子?」


ダルトンは思わず息を呑むとライアンはニヤリと笑った。


「ハーレイが皇族を失墜させようとしちょるんは間違いない。アイツにとって賢兄が死んで愚弟が生き残ったんは幸いじゃった。じゃが本当は賢兄が生きとったとしたら……アイツにとって最大の弊害になるっちゅうことじゃ。となれば……こんガキは使い道があるっちゅう事じゃろ?」


「親父さん。アンタまさか宰相をどうこうしようと思っちょるんか?」


ダルトンの問にライアンは禍々しい笑みでモニターを見つめ続けていた。


「宰相なんぞどうでもええ。もしもワシ等が協力したこんガキが新しい皇帝にでもなってみぃ?」


ライアンの笑みにダルトンは不快は表情を浮かべる。

 マフィアの首領と一企業の経営者……2つの顔を持つ男は常に先を見据え、利用できるものは全てを利用する狡猾さに満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ