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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
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第21話『偽詐術策な枢機卿』

【星間連合帝国 ジュラヴァナ星衛星ザルディアン 神聖ザイアン隊第三基地】



 衛星ザルディアンから見えるジュラヴァナ星は今日も淡い緑色に輝いていた。ジュラヴァナ星は基本的に温暖な星である。全惑星の中で海陽に最も近い位置にある聖惑星チャンモイ星に寄り添いながら、ゆったりと公転するその姿はまるで宇宙に漂う双子の惑星のようにも見えた。

 ジュラヴァナ星人の瞳が漆黒に覆われているのは海陽の強い光から目を守るためとも言われているがそれは定かではない。しかし歴代のジュラヴァナ星人はこの海陽惑星系の歴史が動く時に大きく関わってきた事は歴史的見解から証明されていた。女神メーア、そして彼女に従った三賢者の1人パネロ・デセンブルはジュラヴァナ星人として知られていたのだ。

 大らかな性格と言われるジュラヴァナ星人だが彼等は自分たちのアイデンティティでもある先祖が偉大な人物という誇りを貶されると酷く憤慨する傾向があった。それは即ち神栄教への侮辱も彼らにとって許し難い事である。

 そんな彼らの誇りの象徴とも言える神栄教において、外惑星人であるコウサ=タレーケンシ・ルネモルンが枢機卿の地位に就く事は異例であるというのは言うまでもない。それは自らのアイデンティティを他者に譲るように見受けられなくもないからである。だからこそ神栄教内には未だコウサを認めない者は多いという事実があった。


「そう固くならんといてぇや。世間の目がどうか知らへんけど、こう見えてボクは気さくな男なんやで?」


コウサは自虐という名のユーモアを交えて微笑む。しかしそれは端から見れば皮肉に聞こえなくもなかったかもしれない。異例の存在である彼の眼前には生粋のジュラヴァナ人であるザイアン隊隊長スコットと副隊長ソレントが硬直したように跪いていたからである。


「せやから、もう頭上げてぇや」


コウサは自らの自虐が不発に終わったことにによる不満を少し滲ませながら微笑み続ける。すると隊長であるスコットはその表情を見せることなく頭を下げながらようやく口を開いた。


「枢機卿が御作りになったこのザイアン隊の初陣があないなことになって……自分の不甲斐なさにうんざりしとります……」


「それを言うたら隊長に前線を任せて敵に背中を見せた自分も同罪です」


同じような言葉を繰り出す2人を見て、コウサは溜息混じりに眉間に皺を寄せる。そして後頭部をペチペチと叩くという特有の癖を見せながら口を開いた。


「あんな? 何事も経験やないか。初陣から大勝利っちゅうのは空想世界のもんで現実はこんなもんやで? 何より海賊連中を追っ払うことが出来たんやから結果的にはボク等の勝ちやないか?」


コウサはそう言って立ち上がる。そして未だ首を垂れる2人の前に歩み寄ってそれぞれの肩に手を置くと、ようやく2人は顔を上げた。


「何より。あの海賊はごっつ強かったわ。死んでしもうた者もおるのにこんなこと言うんは罰当たりやけど被害は最小限で収められたんやで? それは君等が前でアイツを食い止めてくれたからや」


交互に2人は顔を見つめながらコウサは微笑む。すると彼等は自らの肩に乗せられたコウサの手を両手で掴み再び頭を下げた。


「次こそは……枢機卿様のお力になれるように!」


そう呟くスコット隊長と同じ気持ちであろうソレントを見てコウサは微笑みの奥底に小さな黒い感情を見せた。

 ジュラヴァナ星に自衛権を齎した事はコウサの評価を二分している。宗教が武装することを好まない者もいれば、自らのアイデンティティは自らで守るべきだと主張する者もいる。しかし今回の自衛権の獲得と自らが先陣に立って海賊を退けたという事実は、後者のジュラヴァナ人の支持を得るに違いなかった。少なくとも彼の眼前にいるザイアン隊の2人はこれから喜んでコウサの手足になるであろうことが伺い知れた。


「さて戦いが終わってすぐで悪いんやけど、2人共ちょっと頼まれてくれへん?」


コウサは薄い笑みを浮かべたまま再び立ち上がると、2人は名残惜しそうに彼の手をそっと放す。まるで忠実な下僕のような視線で見上げてくる2人に交互に目をやりながらコウサは先程まで座っていた椅子に腰を下ろした。


「準惑星のセルヤマで宇宙船の爆発事故が起きたんは知っとるやろ? 実はなぁ……ホンマはセイマグル法王が追悼に行かれるはずやったんやけど、ここ最近宇宙海賊が活性化しとるからそうもいかへん。で、この前の議会で決まったんやけど、法王様がご出立される前にセルヤマの状態をしっかりと確かめておきたいんや。君等2人にそれをお願いしたいんやけどええやろか?」


コウサの頼みに2人は身体を震わせる。コウサだけでなく誰もが最も敬愛するセイマグルの為となると、この上ない名誉を感じるに違いなかったからだろう。


「ほ、法王様の為に……」


「そ、そんな大役を自分らに?」


大きな漆黒の目をまるで少年のような目の輝きを見せる2人を見てコウサは頷く。


「そうや。ザイアン隊はジュラヴァナ星を守るんが使命やけど、それは法王様をお守りするんと同義でもあるやろ? そんでなぁ。ここからはボクの頼みなんやけど……法王様が行かれる前に君等は神栄教の使徒として先に祈りを捧げてきてあげて欲しいんや。多分衛星のジキルに亡くなりはった人達の御遺体が安置されとる筈や。その御遺体1人1人にちゃんと祈りを捧げたって欲しい。そんで……」


コウサは言葉を止める。そして小さく深呼吸するとまるで嘆き悲しむかのような表情で僅かに俯いた。


「そん中にクロウ・ホーゲンっちゅう男の子の御遺体があるか確かめてきて欲しいんや。実はボクの古い友人の弟でなぁ……心配しとる彼の不安を少し取り除いてあげたいんや」


コウサの言葉と()()()()()に2人もまた神妙な面持ちで小さく俯く。彼等の様子を確認したコウサは悲しげな笑顔を作って再び交互に彼等の目を見つめるとスコットはスッと顔を上げて頷いた。


「分かりました。自分に行かせてください」


「自分もです。これはザイアン隊としてやない。枢機卿様のために行かせてもらいます」


2人の決意の秘めた表情を確認したコウサはまたしても小さく微笑みながら頷いた。


「頼むわ。君等のセルヤマでの仕事に女神メーアの加護があらんことを……」


コウサが目を瞑りながら祈りを捧げると2人はまたしても片膝を付き祈りを捧げる。

 祈りを捧げる為の僅かな沈黙の時が流れる中、静寂を切り裂くように通信機が点灯して着信音を響かせた。コウサはゆっくりと目を開けて手をのばすと、外で待機するコンクラーヴェ(枢機卿の秘書官)の声が耳に届いた。


『枢機卿様。ネメシス・ラフレイン様よりご連絡が入っとります』


「分かった。ちょっと待ってや」


コウサはそう告げて立ち上がるとスコットとソレントに今一度視線を送る。すると2人も察したようにスッと立ち上がった。


「ほな頼むで」


「お任せください」


「次こそは必ず!」


2人は意を決したように奮起して頭を下げる。そして後ずさりしながら退出していった。

 扉が閉まったことを確認したコウサは通信許可の指示を出すと親友でもあるネメシスの姿がホログラムとなって現れた。


『やあコウサ。首尾はどうだい?』


「道化師になった気分や。それより見てぇやこの肘。宇宙海賊にエライ奴がおってそいつにやられたんやで?」


コウサはそう言って痣になった肘を見せつけるとネメシスはクスクスと笑った。


『自業自得だね』


「何や? 枢機卿のクセに戦場に出たことがか?」


『何を言っている? 元々は()()()()()()()宇宙海賊じゃないか』


ネメシスの言葉を聞いてコウサはジロリと彼を睨みつける。

するとネメシスは口が滑ったと言わんばかりにとぼけながら話をすり替えた。


『ああそれと。その時の宇宙海賊との戦闘データを帝国軍側に提出しておいたよ。君等の部隊の有用性はこれで証明されたと言っていいだろうね』


「……ならまぁええわ。これからはもうちょい気ィ付けや」


コウサは背もたれに体を預けながらそう告げるとネメシスは肩を竦めた。


『それで? セルヤマへの派遣は済んだのかい?』


「ああ。あの隊長格の2人はもう大丈夫やろ」


『しかし……いや、これは言っても大丈夫かな?』


「何や言ってみいや」


慎重になるネメシスを揶揄うようにコウサは笑みを浮かべると、彼は小さく笑いながら言葉を連ねた。


『愚弟の生死がそんなに気になるのかい? 仮に生きていても君ならば如何様にでも出来ると思うが?』


「そうでもないで。なーんか気になるんや。何より……」


コウサは少し神妙な面持ちに切り替えてそこまで告げると、どこか言葉を選ぶように考え込む。そしてまるで好奇心旺盛な少年のように目を輝かせながら誤魔化すように微笑んだ。


「ボクの愛しのシャインちゃんが命を懸けるほどの男やで?」


コウサは笑みの中に小さな不安を隠していた。この愚弟の存在がこうまで気になるのは何故か? もしかすると彼はこれからのコウサの計画に大きく関わってくるのかもしれない。そんな直感が彼の中にあったのだ。

 コウサは自分の妙な直感に違和感を感じながら後頭部をペチペチと叩いた。

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