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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
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第18話『一期一会の夜 中編』

【星間連合帝国 クリオス星 ヴェイリヨン大陸 カルサック地区 とある道】



 正面の暗闇の中に光る目が6つある。その数からいって目の前にいるのは3人の筈だがカンムが感じ取った気配は8人だった。徐々に近づいてくる眼光をやがてドローン式の街頭が正面を照らしだす。目を光らせていたのは三白眼を持つレオンドラ人3人。そしてその後ろにはカルキノス人とクリオス人、スコルヴィー人、フマーオス人の男が歩いていた。


「手間かけさせやがって!」


「勝手に出歩いてんじゃねぇ!」


怒号をあげる三下連中になど目もくれず、カンムは目を細めて男たちの背後に目を凝らす。すると最後尾からボスと思しき角の生えたアイゴティヤ人が姿を表した。

 カンムは自身が察した通りの数が揃ったことに誰に見せる訳でもなく少し誇らしげな表情を浮かべる。その表情を見せないように彼は俯き気味に小さく微笑んでから顔を上げると、前に躍り出たアイゴティヤ人の男は爪を磨きながらニヤリと微笑みかけてきた。


「今日はウチのボスからお呼びがあっただろう? 無断欠席とは褒められた所業ではないなカンム・シーベル。おっと失礼。君の唯一のプライドであるユリウスを飛ばしたようだ」


イズナールの家紋のタトゥーを入れたアイゴティヤ人の男は挑発のつもりなのか嘲るようにそう告げる。カンムはその挑発にもならない言葉の羅列に嘲笑の笑みを返すと、死んだ目の奥に明確な殺意を盛り込みながら口を開いた。


「……欠席? 何を言っている? 私は貴様等の傘下に入った覚えなどない」


そんなカンムの悪態に後ろで息巻いていた男達が更なる怒号を上げた。


「テメェに選択権はねぇってこと分かってんのかぁ!?」


「裁判所からの通知見ただろうが! テメェはイズナール家への奉公義務があんだよ!」


男達はまるで自分達が正論をかざすかのように声を荒げる。そんな姿を見てカンムは思わず鼻を鳴らした。


「ブランドファミリーも裁判所には尻尾を振るのか。マフィアが聞いて呆れる」


「っのガキッ!!」


カンムの挑発に男達は目を血走らせながらそれぞれの獲物を取り出す。しかし男達の脅しなど意に返さないカンムは鋭い眼光を見せつけながら上体を低くして腰の刀を掴んだ!


「抜くなら相手をしてやらんでもない。だが先に忠告しておく。貴様等如きに後れを取るほど私は落ちぶれてはおらんぞ……」


居合の構えを取るカンムの姿を見て男達は視線を泳がせている。両者の姿を見れば誰しもがその勝負は見えていただろう。隣の者の出方を窺うその様子はカンムの目に滑稽を通り越して憐れにさえ映った。


「不様だな。所詮貴様等の獲物など脅しの道具に過ぎん」


カンムは右手でゆっくりと柄を掴む。その一連の動作を見ていたチンピラ共は息を飲み、今にもその場に崩れ落ちそうになっていた。


「おいおいカンム。お前は勘違いをしてるな。お前は我々ブランドファミリーに大きな借りがあるんだぞ?」


情けないチンピラ連中の中で唯一表情を変えないリーダー格の男は、磨き終えた爪に息を吹きかけると呆れたような表情で一歩前に躍り出る。

 男はニヤニヤしながら片手を差し出すと、我に返った部下の1人がそっと煙草を差し出した。


「お前は()()()()()()()でウチの人間を35人、クリオス星の軍人を18人殺している。そんなお前に極刑じゃなく冷凍刑に処するよう取り計らったのは誰だと思っている? 他でもないウチの親父。ライアン・ブランドなんだよ」


「そうだ。全ては貴様達の首領……そして今や知事の座に居座るあの男の筋書き通りだったわけだ」


カンムは日に焼けたような黒い肌の中で目を血走らせる。その殺意に満ちた眼光で彼は溢れる怒りを滲ませながら声を振り絞った。


「私は貴様等などには従わん。我が太刀は己が義と信にしかなびかんのだ」


「っか! 暑苦しいセリフだなおい。士道って奴か? 今どき流行んねえよ」


まるで嘲る様に肩を竦める男はカンムに背を向ける。そして片手を上げて部下たちに指示を下した。


「親父は生きたまま連れて来いと言っていたから命だけは助けてやる。おい。んなもん仕舞ってチャカを使え」


男の言葉にハッとしたチンピラ達は思い出したようにナイフや短剣などの近接武器を懐に仕舞って代わりにブラスター銃を取り出した。部下達の後ろに下がった男は、安全な場所で見下ろすようほくそ笑んだ。


「足狙えよ。下手に殺っちまったら処理が面倒だ」


男の言葉にカンムは臨戦態勢を保ったままチンピラ連中を見据えた。


 相手は8人。全員ブラスター銃を持っているという事は厄介だが、カンムは負けるとは思っていなかった。


「(……ちょうどいい……この連中の首を足掛かりにするか)」


カンムは僅かに口角を上げると右手でそっと柄を握り締める。

 その瞬間――正面にしかない筈の殺意が彼の背後から近づいてきた。あまりにも剥き出しの闘争心にカンムは振り返ると、そこには先程の店にいた同年代の少年の姿があった!


「にゃろ! テンメェーーーーッ!!!!」


「っ!?」


少年は腰から液体金属の両刃剣を抜き取ると、真上に飛び上がって大きく振りかぶった! 大上段斬りという安直で隙だらけな攻撃にカンムは一瞬戸惑ったが、彼は冷静に刀を引き抜いて振り下ろされる両刃剣を迎え撃った!


「!?」


激しい火花が散ると同時にカンムは目には信じられない光景が映っていた。少年は剣の刃ではなく腹の部分を振り下ろしていたのだ!


「(なっ! くっ! バカな!)」


カンムの戸惑いはさらに続く。文字通り単純すぎる攻撃はカンムの腕であれば捌ききる事が可能な筈だった。しかしカンムの腕は徐々に押し返され、相手の剣の腹が徐々に額に近づいて来るのだ!


「ぐっ!!」


何とか勢いを殺すものの捌ききる事は出来ず、少年の振り下ろした斬撃ならぬ打撃は見事にカンムの額に振り下ろされた!


「……ぶ……不様……な……」


カンムはそう呟きながら前のめりに倒れ込む。地面に飛び散った自身の血飛沫を見届けながら彼はそのまま意識を失った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 無我夢中で振り下ろした剣は見事にカンムの頭上を捉えた。シャインの眼前まで連れていくために敢えて峰打ちを選択したダンジョウは前のめりになって倒れる男を見下ろしながらその長い銀髪を掴んで顔を起こし上げた。


「……このクソ野郎……」


ダンジョウの渾身の一撃だったがカンムは辛うじて攻撃の勢いを殺していたらしい。その証拠に彼の額の傷は浅く、気を失っているのも打撃による脳震盪を引き起こしているからに違いなかった。


「とりあえずババァに土下座だな」


ダンジョウはそう言って小さく笑う。そしてようやく周囲をチンピラ達に囲まれている事に気が付いた。


「ん? 何だオメェ等?」


ダンジョウは眉間に皺を寄せながら尋ねると、角を生やしたアイゴティヤ人の男が拍手しながら前に出てきた。


「……い、いやいや! どこの誰だか知らないが助かったよ!」


「あぁ?」


全く見向きもしていなかった妙に若作りな男をダンジョウは睨みつける。すると、男は完全に作っただけの笑顔で微笑んだ。


「その男はウチの()()でね。連れ戻そうとしたら抵抗して困っていたんだよ。よし連れてけ」


男はそう言って背後の方に振り返ると唖然としていたチンピラ達はハッとして近寄って来る。そしてカンムに手を伸ばそうとしたところでダンジョウは慌てて前に躍り出るとチンピラ達の前に立ちはだかった。


「おい。何すんだテメェ等?」


「あ? 言ったろ? コイツはウチの()()なんだからよ」


ダンジョウはそこまで話して言葉の中に隠れている意味合いの違いに気が付いた。この男はカンムを()ではなく()と呼んでいるのだ。


「そうはいかねぇ。この野郎は俺が預かる」


「あんちゃん。この野郎に恨みでもあんのかい?」


「俺はねぇ。仲間(ツレ)だ」


「そうかい。しかしソイツの命はウチが預かってんだ。黙って引き渡してくれよ。安心してくれ。死ぬよりキツイ目に遭わせるからよ」


男はそう言ってケラケラと笑う。そんな連中の顔を見てダンジョウは虫唾が走った。

 カンムはシャインの両親殺害に加担している。そんな男を助ける義理はない。だがダンジョウの中には間違いなく怒りが沸々と沸き立っていた。人を物のように扱う……それは仲間の片目を抉った軍人の所業に似ているように感じたからだ。


「気に入らねぇ」


「ん? 何だって?」


男が聞き返すとダンジョウは再び剣を向けて言い放った。


「面だけじゃなくて耳もワリィのか? 気に入らねぇって言ってんだよ」


男を含めたチンピラ達が表情を変える。自分が攻撃した相手を次は守るというのは明らかに矛盾した行動である。しかし、ダンジョウの思考回路は至極単純だった。


「この野郎を守る義理はねぇ。でも俺はどうもテメェ等が嫌いみてぇだ」


ダンジョウの言葉に男は呆れたように微笑む。そしてダンジョウに背を向けるとチンピラ連中に指示を出した。


「適当に済ませろ」


その指示を合図にチンピラ達の表情は一転する。それは明らかに弱者をいたぶることに快楽を覚えた屑の表情に違いなかった。


「おいボウヤ。大人しく渡しときな?」


「そうだ。そうすりゃ指2、3本で勘弁してやるぞ?」


下衆い表情を浮かべるチンピラ達を睨みつけながらダンジョウは僅かに聞こえる足音に気が付いた。そしてまるで勝利を確信したように笑みを浮かべた。


「オメェ等も逃げんなら今のうちだぞ」


ダンジョウの安い挑発にチンピラ達は歓喜する。どうやらこれから合法的に犯罪を犯せることに喜びを感じている様だった。


「死んでも恨むなよぉッ!!」


チンピラ連中は各々怒号を上げてが突っ込んでくる。

しかしダンジョウは液体金属の形状記憶を解除して柄だけになった剣を腰に収めた。彼のその行動に戸惑う者はいない。恐らくダンジョウが諦めたとでも思ったのだろう。

 俊足のチンピラがナイフを振りかざす。その刃先がダンジョウの肩を捉えようとした瞬間だった。


「ギゃげッ!」


聞いたことのない呻き声が響き渡る。ダンジョウは再び呆然となったチンピラ連中を見てほくそ笑んだ。


「お、おい! ひっ!」


吹っ飛んだチンピラを見て他の連中は小さく悲鳴を上げる。

 倒れたチンピラは息をしてはいたが顔面が()()()陥没した状態で気を失っていたのだ。そして何より急にダンジョウの目の前に現れた人間にチンピラ達は恐れ慄いているようだった。


「あーあ。だから逃げろって言ったのによ」


ダンジョウはそう言って微笑むと、彼を挟んで風神雷神の如く並び立つ2人の巨漢はチンピラ連中を睨みつけた。


「兄貴。何じゃこのドサンピン共は?」


「……殿下……御一人での……行動は……お控え……下さい……」


急に現れた大柄な男2人を前にしてチンピラ連中は息を飲む。そして反射的な自己防衛か持っていたナイフや短剣を捨ててブラスター銃を引き抜いていた。


「あぁん? 何じゃ(チャカ)持っとるんか。そんならこっちも手ぇ抜くわけにはいかんのぉ?」


ビスマルクは拳の関節を鳴らして目を見開きながらニヤリと笑う。そんなどちらがチンピラか分からないような口振りで威嚇するビスマルクに遅れることなくベンジャミンも前に躍り出た。


「……残りは……某が……始末する……貴様は……殿下を……お守りしろ……」


「カッ! 笑かすな! 5秒もあれば終わるんじゃ! キサンはそこで指でも咥えとれ!」


2人は背を向けているがダンジョウには2人の表情が手に取るように分かる。ようやくチームらしくなってきた事にダンジョウは思わず笑みを浮かべた。


「さぁて? 覚悟はええかのぉ!?」


「……殿下に……仇名す者は……某が……滅する……」


2人の巨漢が一斉にチンピラ連中に襲い掛かる。

 その夜以降――カルサック地区ヴェスラーの街には夜中に赤鬼と青鬼が出るという噂がまことしやかに囁かれるようになった。

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