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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
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第15話『主君を決めた偉躯堂堂』

【星間連合帝国 クリオス星 カルサック地区 酒場アマンダ】



 帝国最大の軍事惑星クリオス。そこは帝国軍の原点とも呼ばれている。

何故ならば帝国軍に入軍しようとする者は、この星にある士官学校へと入学する事を義務付けられているからだ。中途入軍者さえもまずはこのクリオスで訓練を受け、修了後に各惑星の軍へと配属されるのが帝国軍の仕組みである。


 クリオス星には2つ大陸が存在し大型のニュルム大陸は軍事訓練が行われる教習場で埋め尽くされている。そして小型のヴェイリヨン大陸にはこの星に配属された軍人や士官候補生等の居住区として使用されていた。

積荷に紛れてヴェイリヨン大陸に入ったダンジョウ達が協力者との待ち合わせ場所である酒場アマンダい辿り着いたのは、ちょうど酒場が盛り上がる夕方頃で、その日の非番である様々な人種の軍人たちが酒を煽っていた。

辿り着いたダンジョウはというと、待ち人が来るまで大人しくしている事も出来ないらしく、わずか数時間で彼は軍人等とバカ騒ぎを巻き起こしていた。


「グハハハ! ってことはあれかい!? 兄ちゃん達は自警団ってわけだ!?」


顔は紅潮し鼻を刺すような酒気を帯びた吐息を漏らす軍人が声を上げる。

カウンター席に座っていたダンジョウは勢いよく立ち上がると、堂々と椅子に片足を乗せて拳を天に掲げた。


「自警団だぁ!? んなもんじゃねぇ!! 俺たちゃこの国のクソッタレな部分を正そうっていう義勇軍……いや、革命軍ってやつよ!」


ダンジョウが拳を突き上げると人種を問わない老若男女は呼応するように声を上げた。


「キャハハ! 若いのに良い志を持ってるじゃない! ウチのボンクラ息子にも聞かせてやりたいわ!」


「全くだ! 兄ちゃんたちのチームは何て名前でやってんだい?」


泥酔しながらも気のいい軍人たちはダンジョウを盛り立てる。

ダンジョウはその声援に応えるように次は天井に向かって人差し指を突き上げた。


「戦皇団ってんだ! こっから有名になるぜ! よーく覚えときな! オメェ等はいい奴だから無条件で入団させてやるよ!」


ダンジョウは笑顔で胸を張る。

端から見れば子供の戯言なのだが、大の大人である軍人らは何故か誂うことなく大見得を切るダンジョウに賞賛を送っていた。それはまるで彼から滲み出るカリスマ性を物語っているようだった。


 そんな賑わう店内のカウンター席ではベンジャミンが黙ってダンジョウの姿を見守っていた。

ダンジョウとの距離は彼の間合いギリギリである。もしも騒ぎ立てる軍人の中にダンジョウに無礼を働く人間がいたなら、彼はすぐさま背中の方天戟で振り払うつもりだったのだ。


「ナヤブリ君。少し気を詰めすぎですよ」


隣に座る美女イレイナの言葉をしっかりと聞きとるが、ベンジャミンは一瞬振り返って小さく会釈するだけに留めてすぐさま周囲への警戒に気を払った。


 ベンジャミンは少し彼女に苛立っていた。

先程まで彼はダンジョウの傍らに居たのだが、ダンジョウの指示で今はイレイナの隣に座らされている。それはイレイナの美しさに惹かれてきた悪い虫を追い払う為だった。


「…………ミュリエル殿……」


「イレイナでいいですよ?」


イレイナは誰もが見惚れるような微笑みを向けてくるが、ベンジャミンはムスッとしたまま彼女に告げた。


「……イレイナ殿……目立つ……容姿ならば……自らで……ご対処……いただきたい……」


「ああ……申し訳ありません。ナヤブリ君にまで気を使わせてしまいましたね」


イレイナは困り眉を作りながら小さく頭を下げるが、ベンジャミンは彼女に目もくれずにダンジョウの一挙手一投足を見守りながら続けた。


「……某が……お守りするのは……殿下であり……貴女では……ありませぬ……」


「勿論です。と、いうか、い、今のセリフ。素敵ですね」


ベンジャミンの苦言を他所にイレイナはどこか艶っぽい表情を浮かべる。

すると机から飛び降りたダンジョウが歩み寄ってきた。


「いやーここの連中は気持ちいい奴等ばっかりだな! あ、姉ちゃん! こいつをおかわり! ロックでね!」


気分よさげなダンジョウは空になったグラスをテーブルに置くと、皿を拭いていた壮年の女主人は苦笑した。


「アーリンフルーツのジュースね」


「おうよ!」


ダンジョウは得意気になってベンジャミンの横に腰を下ろす。

ベンジャミンは緊張感を持ちながらダンジョウに問いかけた。


「……殿下」


「ん? どうした?」


「……協力者と……いうのは……どこに……」


「ん、さぁな? 意外とそのへんにもう来てんのかもな」


「……殿下を……お待たせ……するとは……関心……しませぬ……」


「カカカ! オメェ等だって結果的にセルヤマで合流したのギリギリだろうが!」


ダンジョウの言葉にベンジャミンは少し気まずそうな表情状を浮かべる。

 あと数分遅れていれば、ダンジョウ等は船に乗り宇宙の藻屑になっていたのかもしれない。

それはシャインに連れ出されて衛星のベオルフに立ち寄ったせいである。しかし、それも言い訳にしかならず、ベンジャミンは珍しく狼狽しながら目を泳がせながらその場に膝を付いた。


「うお!? な、何だよ? どーした?」


戸惑うダンジョウを他所にベンジャミンは懐から短刀を取り出してダンジョウに差し出した。


「……殿下……言い訳の……しようが……ございませぬ……つきましては……わが命をもって……」


ベンジャミンはそう言って短刀を引き抜こうとすると、ダンジョウは慌てて腕を掴んできた。


「バ、バカ! 何考えてんだ!」


「しかし……某のせいで……御身を危険に……」


ベンジャミンがそこまで告げるとダンジョウは呆れながら彼のスキンヘッドに拳骨を振り下ろした。


「ぐっ……痛ぇー……」


ダンジョウは宇宙船内同様に拳を摩ると、少し涙目になりながらベンジャミンを睨みつけてきた。


「オメェな? 死んで何の解決になんだよ?」


「……某の……ケジメに」


「んじゃオメェの気しか晴れねぇじゃねぇか」


ダンジョウはそう言って拳に息を吹きかけると、ベンジャミンの腕を掴んで重そうに起こし上げてきた。


「いいか? 人間の命ってもんはそんな軽いもんじゃねぇんだよ」


「……某の……代わりなれば……いくらでも……」


「話を聞けこのドアホ!」


ダンジョウは再び彼の頭上に拳を振り下ろす! が、またしても「痛っ!」と呟きながら振り下ろした手を擦った。


「と、とにかくな? オメェもせっかく生きてんなら命の使いどころをちゃんと考えろ」


「……我が生命の……使い所は……主君たる殿下が……」


「俺じゃねぇ。オメェが決めんだよ」


「某が……」


「そうだ。そんな人に決めてもらう楽な生き方してっと苦労すんぞ? 大体、オメェの人生の主人公はオメェだろうが。俺の意見なんか関係ねぇ。オメェがどう思ってどうしてぇかが大事だろ?」


ベンジャミンは今までかけられたことのない言葉に困惑した。

彼は今の今まで自らに選択権を持って生きたことがなかったからである。


 由緒あるナヤブリ家に生まれながらも、ベンジャミンは生まれてすぐ名家の汚点と呼ばれることになる。赤い肌をしていたからだ。スコルヴィー星人だった母方の曾祖母の血を色濃く受け継いだ彼はナヤブリ家の中で異端児として扱われていた。

まともな教育はほとんど受けることなく、唯一指導されたのはその恵まれた体格を用いた戦闘訓練だけである。それも全てはナヤブリ家の家名を守るための手段であり、彼の命はナヤブリ家の所有物として生きてきたのだ。


 ダンジョウはそんなベンジャミンの肩に手を回してくると、まるで友愛の心があるような屈託のない笑顔を向けてきた。


「分かったか? 頼むぞ~? オメェと俺はもうツレなんだからよ! あ、あともうちょっと喋れ! それとビスとオメェは似たモン同士なんだからもうちょい仲良くしろ!」


ベンジャミンは困惑する。

しかし不思議な気分に包まれていた。初めて存在意義など関係なしに肯定してくれる彼の姿にベンジャミンは感涙しそうになるのを堪えるほどだった。


 感激と感謝、そして自らの主君を見定めたベンジャミンは忠誠の言葉を紡ぎ出そうとしたところで、ダンジョウは急に驚愕の表情を浮かべだした。


「お、おい! イレイナ! お前また!!」


ダンジョウの言葉にベンジャミンはイレイナの方に振り返る。

すると彼女は鼻孔から溢れる血を両手で必死に抑え込んでいた!


「だ、大丈夫です。驚きました。こんな段階で発症するとは思わなかったもので」


イレイナは戸惑いながら顔を背けるが、ダンジョウは気が気ではない様に彼女に詰め寄った。


「発症!? 何だ!? や、やっぱオメェどっか悪いのか!?」


「い、いえ決して命にかかわるようなものでも伝染するものでもありません。どうかご安心を」


イレイナの謎の持病にアタフタする中、その空気を切り裂くように快活な声が店内に響き渡った。


「兄貴ィ! 待たせたのぉ!」


外に出ていたビスマルクが戻ってくると、相変わらずの無駄に大きな声でズカズカと店内に足を踏み入れる。そんな彼の姿を確認してイレイナは話をすり替えるかのようにビスマルクに話しかけだした。


「お、おかえりなさいオコナーさん。どうですか? 連絡の方は?」


鼻に詰物をしたイレイナがそう尋ねるとビスマルクは鼻の下を伸ばしながら頷いた。


「ええ! オラの実家は爆発事件の影響はそこまでねぇみてぇです。ハイ」


「オメェ親父さんとはちゃんと話したのか?」


ダンジョウのイレイナを気遣いながらもそう尋ねると、ビスマルクはゲラゲラと笑いながら身体を反らせた。


「がっはっは! 兄貴! 喧嘩した親父がそう簡単に折れる訳ないじゃろ! でもお袋と妹にはちゃんと無事ってことを話といたわい。安心しとったぞ」


「……貴様は……セルヤマに……戻るべきだ……」


感動のシーンに水をさされたベンジャミンはぶっきらぼうにそう告げると、ダンジョウとイレイナは驚いたような表情を浮かべる。

そしてその驚きはベンジャミンも同様だった。


 先程ダンジョウに言われたからか、彼はほとんど生まれて初めて自ら言葉を発した。

今まで人に聞かれた時のみの最低限にしか話さなかった自分がこうまであっさりと変化したことに、彼は今まで知らなかった自分の一面を見たような気がしていた。

しかし、驚愕の表情を浮かべるのは3人だけで、ビスマルクは眉間に皺を寄せてベンジャミンの方ににじり寄ってきた。


「あぁん!? 何でキサンにそんなこと言われにゃならんのじゃ?」


気持ちの整理が付く前に詰め寄ってきたビスマルクにベンジャミンは戸惑うが、すぐさま臨戦態勢に入って彼を睨みつけた。


「……貴様の……両親や……妹は……心配していると……判断できるからだ……」


「じゃかましい! いい加減にキサンとはケリ付けんといかんみたいやのぉ!」


ビルマルクが詰め寄ってくるのでベンジャミンは迎え撃つようにメンチを切る。そして本日何度目かも分からない額をぶつけながらメンチのキリ合った。

そんな2人の間にダンジョウは割って入ると、今日一日で学習したのか2人の頭に拳ではなく平手を振り下ろした。

ペチンという間抜けな音がこだまして、ダンジョウは拳骨時ほど痛まない手に安心したのか、少し得意気な表情を浮かべた。


「やめろっ! 身内同士で喧嘩すんのは無しだ!」


ダンジョウの言葉とあってはベンジャミンは引き下がるしかない。

それはビスマルクも同様らしく、2人は睨み合いながらダンジョウとイレイナを挟んでカウンターテーブルに腰を下ろした。


「若いのに良いリーダーっぷりだね」


話を聞いていたらしい女主人はダンジョウの前に真っ赤なアーリンのジュースを差し出してくる。するとダンジョウはケラケラ笑いながら親指を立てた。


「騒いで悪かったな。でもいいチームだろ?」


「今日はまだマシだけど、たまに来る荒っぽい軍の連中よりよっぽどいいよ。そこのでっかい兄ちゃん。何飲むんだい?」


「ブルーノミルクッ!」


イライラしながらその風貌に見合わない子供の飲み物を告げるビスマルクにベンジャミンは吹き出しそうになりながら堪えた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夜はさらに更けていく。

先程まで店内で一緒に騒いでいた軍人も徐々に帰路に付き始めるが、待ち人の姿は未だ現れず店内に落ち着きが戻ったかに見えた。


「オラは元々キサンが気に入らん! 兄貴とイレイナはんとオラで充分じゃ! キサンこそ家に帰ったらどうじゃ!」


「……貴様に……言われる……筋合いは……ない……何より……某は……殿下を……生涯の……主君と……決めた」


「カッ! それなら言わしてもらうがオラは兄貴の1番の弟分じゃっ! キサンなんぞ認めんわい!」


「……これは……某が……自分で……決めたことだ……」


最早2人の言い合いを止める気もなくしてダンジョウは呆れながらジュースを煽る。

ベンジャミンはビスマルクと言い合いを繰り広げながらもダンジョウから目を離していなかった。

どうやら殴り合いだけは避けようとしている事を感じながら、ダンジョウは妙な気配を感じとった。


「大体キサンは! ……兄貴? どうしたんじゃ?」


ダンジョウの異変に気付いたのか、喧嘩中のビスマルクが視線の先に向けてくる。

ダンジョウは店のスウィングドアを……いや、その先にある漆黒の闇夜をジッと見つめていた。


 明らかに雰囲気が変わったダンジョウを見て、ビスマルクだけでなくベンジャミンとイレイナも彼に視線を向けてくる。

そんな3人を差し置いてダンジョウはただ一点に闇の中を見つめていた。


「……ババァ? ……いや違う。誰だ?」


ダンジョウは小さく呟く。


 やがて地面を擦るような足音が耳に届きスウィングドアに手が掛かる。

きしむ音を響かせながら入ってきたのは、ダンジョウとそれほど年の差のなさそうな青年だった。

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