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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3357年 復古宣言 [前編]
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第4話『前途多難な旅立ち 前編』

【星間連合帝国 準惑星セルヤマ衛星ジキル 港宙ステーション 8番搭乗口方面】



 ビスマルク・オコナー。彼は自らの無知を理解する利口な男でもある。B.I.S値は主に体力面、知能面、精神面を数値化したトライアングルなのだが、ビスマルクの場合、全て体力値に割り振ったような形になっている。

 精神面と知能面で幼さを残すビスマルクだが、振り切った体力値は伊達ではない。ダンジョウとともに彼を指導したシャインに、もしビスマルクが現在の帝国軍に入ればトップの部隊で通用するとさえ言わしめるほどだ。そんな彼女に教わった言葉を彼は常に忘れないように心がけていた。


「未熟な知能面と精神面を利用されたら、アンタは一気に危険な存在になんの」


大きな力は使いどころを間違えればただの暴力に成り代わる。それは少年時代に自分の思うがまま生きていた彼にとって、少し耳が痛い言葉でもあった。

 シャインの助言にあるようにビスマルクは自身の力をより良き手段に使う必要があった。だからこそ彼は自らの力を行使する時は、心から信用出来る正しさを持った人間にしか従わない。彼にとってのそれがダンジョウなのである。


「(さぁて……セルヤマから出るんは初めてじゃのぉ)」


大荷物を背負うビスマルクは周囲に警戒心を振りまきながらもどこかワクワクしていた。セルヤマ星を出るどころか、彼は宇宙に上がる事さえ初めてだったのだ。

 期待と緊張という興奮状態の中、ビスマルクはチケットを握り締めて搭乗ロビーへと繋がる円形のゲートをくぐり抜ける。するといかにも事務的な機械音が彼の耳に届いた。


『確認シマシタ。良イ宇宙の旅ヲ』


「そうなる事を祈るわい」


ビスマルクはそう呟きながら無事ダンジョウの名前でゲートを通過できたことに安堵する。そして漆黒の宇宙空間を見渡せる搭乗ロビーへと躍り出ると8番搭乗口に向かって歩き始めた。

 搭乗ロビーは受付外に比べて人の数はまばらだった。その長い通路をビスマルクは1人歩いていくと、先程の事務的な機械音と打って変わった艶っぽい女性の声が場内に響き渡った。


『本日は当港宙ステーションをご利用いただき、ありがとうございます。間もなく、場外におきまして宇宙花火のお時間となります。どうぞごゆるりとご覧ください』


鳴り響いた場内アナウンスにロビーにいた人々は色めき立つと揃って窓の方に視線を送る。ビスマルクは気にすること無く搭乗ゲートに向かって進むが、やがて漆黒の宇宙空間にまばゆい光が彼の横顔を照らした。

 漆黒の宇宙に美しい光が花開く。宇宙空間には空気が無いせいで花火の破裂音が鳴り響くことはない。その代わりにロビー内には人々の歓声が響き渡っていた。


「……」


ビスマルクは思わず立ち止まって花火を見つめた。

 彼の実家は長きに渡ってこの観光準惑星のイベントに色を添えてきた花火師の一族である。幼い頃からいずれは父の跡を継がされるのだと彼は思っていた。足りない頭を使って真空状態でも着火する素材や、花火を起爆させる電子回路の制作方法などを義務的に学んだビスマルクだったが、彼がかろうじて覚えることが出来たのは起爆方法くらいで、高度で美しい宇宙の花火を作り出すことは出来なかった。


「最後に見るのが花火とは……因果じゃのぉ」


ビスマルクは少し自嘲気味にそう呟くと、背後から声がかかった。


「そこのお方」


急な声にビスマルクはハッとしながら振り返る。そこには背が低く禿げ上がった男性が立っていた。


「何かのぉ?」


「いやなに、見事な花火でしたので、ぜひ写真を一枚撮っていただけないかと」


男性はそう言って撮影機能の付いた端末を差し出してくる。

 ビスマルクは「おぉ! 構わんわい!」と意気揚々と男性から端末を受け取ると、美しい花火を背景に男性が微笑む姿をその中に納めた。


「ありがとうございます。家内にいい土産が出来ました。お兄さんはどちらへ?」


男性は初対面とは思えない程の馴れ馴れしい笑顔を向けてくるが不思議と不快感は無かった。ビスマルクはその表情に微笑み返すと、ポケットからチケットを取り出した。


「カルキノス星ですわい」


「おお、8番搭乗口ですか。同じですな」


男性はそう言って自らもチケットを差し出すと、ビスマルクのチケットと同じ船のナンバーとハイネル・ペッツァという名前が浮かび上がった。


「ではご一緒いたしますか」


男性の笑顔に引き寄せられるようにビスマルクは頷く。そして2人は並んで搭乗口へと向かった。

 誰しもが花火に夢中になる中、ビスマルクとハイネルなる壮年男性は外に見向きもせず歩き続ける。やがて搭乗口へと繋がる最終通路に入ると、ビスマルクは「おぉ」と小さく声を上げた。通路の天井はガラス張りになっており、そこからは無限に広がる星の海とこれから搭乗する宇宙船がハッキリと確認できたからだ。

 

 「ペッツァはんは何しにセルヤマへ?」


ビスマルクは何の気なしに尋ねると、男性はにこやかに微笑みながら答えた。


「バカンスと言いたいところですが仕事です。数カ月前に起きたトラブルの事後処理ですな」


「観光惑星に出張とは酷じゃのぉ」


「全くです。次は家内と一緒に遊びに来たいと思いますよ」


小柄で禿げ上がった紳士にビスマルクはニヤリと笑う。

 カルキノス行の船に乗る人間は少ないのか周囲には人影もない。2人だけの通路を進むうちに、やがて“8”の文字がホログラムとなって浮かび上がる8番搭乗口が目に入ってきた。


「お、ここじゃな」


「8番搭乗口はいささか遠かったですな。ああ、お先にどうぞ」


ペッツァは禿げ上がった頭をハンカチで拭うと、レディファーストのように片手を差し出してビスマルクに搭乗を勧めてきた。


「すまんのぉ。お先にじゃ」


ビスマルクはお辞儀してペッツァの前を横切り、彼に背を向けた瞬間に表情を切り替える。そして勢いよく振り返ると、目を見開きながら右腕を突き出した!


「ぐぬッ!」


ビスマルクは冷静に、そして正確にレーザーナイフを持つペッツァの腕を握りしめる。ナイフの先端はビスマルクの腹の寸前で止まり、先程まで紳士の表情を浮かべていたペッツァは掴まれた右手に掛かるビスマルクの握力に苦悶の表情を浮かべていた。


「キサン何モンじゃ?」


ビスマルクはペッツァの腕をひねり上げながらそう告げると、ペッツァは表情を歪ませながら尋ね返してきた。


「い、いつから気付いていた」


「オラみてぇなガラのワリィモンに話しかける時点で怪しいに決まっとるじゃろ。答えんかい。キサン何モンじゃッ!」


ビスマルクは怒鳴り声を上げると、ペッツァはまるで軟体動物のように腕を撓らせてビスマルクの剛腕から逃げ延びた!


「……子供と思って甘く見過ぎたようだな」


先程とは一転して残虐な声色になったペッツァを前にして、ビスマルクは背負っていた荷物を降ろす。そして拳を握り締めて関節をボキボキと鳴らした。


「売られた喧嘩は買う主義じゃ。覚悟は出来とるんじゃろうな?」


ペッツァは懐から再びレーザーナイフを取り出すと、まるで曲芸のように投げ回し始めた。互いの間合いを測る中、ペッツァやがてフェイント混じりに凄まじいスピードで襲い掛かってきた!

 ビスマルクはナイフの位置を確認しながらその攻撃を躱すが、ペッツァのナイフさばきは靭やかで複雑だった。持っていたはずの右手からナイフが消え、左手に視線を投げた瞬間に右手からナイフが現れる。読みきれない小さな斬撃にビスマルクは眉間にシワを寄せながら苦悶の表情を浮かべた。


「ちぃ!」


どこからともなく現れるナイフの斬撃がビスマルクの腕を掠める。レーザーナイフに触れる度、焦げた匂いがビスマルクの漂う。自らの肉が焼ける匂いは想像以上に不快であり、ビスマルクは痛みよりも匂いに顔を顰めた。


「みみっちいやり方しおって!」


一旦距離を取ったビスマルクは首を鳴らしながらニヤリと笑う。ペッツァは距離を保った状態でもビスマルクに落ち着きを与えないかのようにナイフを動かし続けていた。

 ビスマルクはペッツァのような巧みな技術を持ち合わせてはいない。ただ彼は自分が負けるとは全く思っていなかった。


「さっさとキサンをブチのめして兄貴と合流せにゃのぉ!」


ビスマルクはそう告げると拳を振りかぶりながら突進する。

その動きを読んでいたかのようにペッツァはナイフを持ち変えると、暗殺者らしい見事な一突きがビスマルクの眼前に迫った!

 ――次の瞬間、有機物が引き裂かれる嫌な音がビスマルクの体を通して耳に伝わり、壁に血飛沫がが飛び散った。ビスマルクの放った掌底は見事に顔面を撃ち抜きペッツァは搭乗口を突き抜けて壁にめり込んでいた。

ビスマルクは右手を見てニヤリと微笑む。そこにはレーザーナイフが貫通した右手があったが、熱線だったせいで傷口は焼かれて出血はすぐに止まっていた。当然あまり気持ちのいい光景とは言えないが、そんなことはビスマルクにとって小事だった。


「セルヤマでこれじゃ先が思いやられるわい」


ビスマルクはそう言ってレーザーナイフを引き抜いて投げ捨てると、大荷物をひょいと担ぎなおす。そして転がるナイフの先で顔面を潰されながら壁にめり込むペッツァに歩み寄った。

 ペッツァの顔面と右手は既に機能しないような損壊を受けている。ビスマルクは懐から布切れを取り出して右手に巻き付けた。


「(姐さんの指示は……どっちかが襲われたらすぐに合流じゃったな)」


右腕に粗治療をしながら彼は今来た道を戻りはじめる。

 左手と口を使って右手を包んだビスマルクは背後に感じた気配に動きをピタリと止めた。


「非常に無粋ですがお見事です」


背後から届いたのは想像以上に透き通った声にビスマルクは意を決して振り返る。

 そこに立っていたのは女神のような美女だった。

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