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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3356年 皇帝崩御
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皇帝崩御 最終話『ぼくの長い戦いが始まる』

【星間連合帝国 準惑星セルヤマ 高原】



 国葬と戴冠式から2ヶ月――セルヤマ星の長い冬は中盤に差し掛かっていた。

 冬になってもこの観光準惑星に訪れる人は途絶えない。セルヤマ星には夏のバカンスだけでなく、冬には冬の良さがあったからだ。その証拠にダンジョウが幼い頃から走り回っている草原も今ではちょっとした観光スポットになっている。

 一面を覆い尽くすように積もった細かい雪たちは、風によって波打つように形成されてどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。その雪の波紋は自然が生んだ芸術と称され、その美しい波を一目見ようと多くの人々が連日訪れていたのだ。


「……わっかんねぇなー……何がありがてぇんだ?」


まだ誰もいない真冬の早朝。僅かに海陽の光が差し込む中で、ダンジョウは柵に手を掛けながら果てしなく広がる雪の波紋を眺め、そして首を傾げた。


冬になれば雪が降る。

風が吹けば雪の波紋が出来る。


そんな当たり前の情景に喝采を送る観光客の気持ちが彼には理解出来なかった。そしてそれは決してダンジョウだけではない。この星に暮らす全ての少年少女との共有疑問だったのだろう。

 ダンジョウはポケットから通信端末を取り出すと、先光団に届いた最後の依頼を見つめた。依頼人はこの地区に暮らす8歳の少年少女等である。


<変な看板のせいで、俺達の遊び場が使えなくなりました。先光団さん。何とかしてください>


白い吐息を吐きながらダンジョウは上体を反らせて冊に立て掛けられている看板の文字を眺めた。


≪立入禁止≫


そうたった一言書かれた看板は、この時代では珍しく手書きの物だった。恐らく、急に観光スポット化してしまった為、ホログラムや電子掲示板の制作が間に合わなかったのだろう。


「ガキの遊び場奪って何が立入禁止だ」


ダンジョウはそう呟くと立て掛けられた看板を蹴っ飛ばす。固定されているわけでもなく文字通り柵に立てかかっていた看板はそのまま前に倒れると、立入禁止の文字を下にして薄っすらと氷の張る裏面を天に向けた。

 ダンジョウは柵に手を掛けて飛び越えると、彼の目の前には汚れを知らない真っ白な雪原が広がった。


「……」


誰もいない雪の波紋が広がる雪原にダンジョウは足を踏み入れる。それは手つかずの美しい自然の芸術を踏みにじる行為に映るのかもしれないが、ダンジョウはまるで皺1つない真新しいシーツの上に飛び込むような快感を覚えた。

 ダンジョウは雪原を歩き続ける。当然彼が歩を進める度に足跡が出来上がる。彼は行っては来たりを繰り返し、ようやく一息ついて元居た柵の前に戻った。

雪原の中に一陣の風が吹くと、細かな雪を躍らせて差し込んできた海陽の光を反射させた。


「フーッ……うー寒っ! っし。これでもう大丈夫だろ」


両手に息を吐きかけながらダンジョウは手を擦る。すると、背後から聞きなれた声が響き渡った。


「兄貴! 待たせたのぉ!」


無駄に大きな荷物を背負う長身痩躯のビスマルクは寒空の中でもノースリーブで、見ているダンジョウの方が寒くなった。


「オメェ寒くねぇのかよ」


ダンジョウは顔を顰めながらそう告げると、ビスマルクは得意気に鼻を鳴らした。


「兄貴! 心頭滅却すりゃ火もまた熱いんじゃ!」


「火が熱いのは当たりめぇだろ? つーか使い方当ってんのかそれ?」


頭の弱い2人が揃うと会話のレベルも当然下がる。ここにシャインかタクミ、もしくはフィーネがいればツッコミが入るのだが、今この星に3人の姿はなかった。


「んな事より兄貴。シャインの姐さんは?」


ビスマルクが首を鳴らしながらそう尋ねてくるので、ダンジョウはポケットから手紙を取り出した。


「コイツに指示が入ってんよ。あと航宙券な」


ダンジョウはそう言って2枚のカードを見せると、ビスマルクは小さく頷いてから少し不満気な表情を浮かべた。


「それにしても残念じゃのぉ。タクミやフィーネはんが居ればそのチケットも4枚だったじゃろうに」


「フィーネは自分で決めたことだ。タクミは俺達と違って責任があんだからしょうがねぇだろ」


ダンジョウはニヤリと笑う。その笑みにビスマルクも自分を納得させるかのように頷いた。


 自治権を得られると噂されていたセルヤマ星だったが、治安の問題からその話は取り下げられることとなった。スパイ摘発時に拘束された諜報員の数が、帝国側からすると想定以上の数だったことが起因している。……というが、実際のところは元より自治権を与える気などなかったのではないかという憶測もあった。そして、そんな物騒な場所に未来のライオットインダストリー社社長をこれ以上置いておくわけにはいかないという理由でタクミはついにカルキノス星に引き戻され、現在はラヴァナロス星の学園に転入しているらしい。


「ま、タクミにもいずれ会えるだろうぜ。アイツは先光団の創設メンバーだからな」


ダンジョウはそう言って微笑むと、ビスマルクは人差し指を立ててキザったらしく「チッチッチ」と舌を鳴らした。


「兄貴。それなんじゃが、せっかくセルヤマから出るんじゃ。これからきっと新しい仲間も増えるじゃろ。心機一転で名前を変えてみんか?」


ビスマルクはそう告げると背負っていた巨大な荷物を下ろし、先程の看板同様に手書きのノートを見せつけてきた。


「? 何だこりゃ?」


ダンジョウは訝しげな表情でノートを見つめると、ビスマルクは不満気な表情で睨みつけてきた。


「兄貴ぃ……見りゃ分かるじゃろ? オラたちの新しいチーム名じゃ。呼び方はそのままだしエエじゃろ?」


――戦皇団(せんこうだん)


その文字を見てダンジョウは首を傾げた。


「んーなんかパッとしねぇな。ドスが効いて無くねぇか?」


「何言っとるんじゃ!? こんな完璧な名前は無いじゃろ!?」


ビスマルクの不満そうな声が響き渡る。それと同時に見え隠れしていた海陽が完全に昇りきり、辺りは一気に夜から朝へと切り替わった。


「あ、こんなことしてる場合じゃねぇ。そろそろ行くぞ」


ダンジョウはそう言ってビスマルクの肩を叩いて横切ると、彼は「待ってくれや!」と言って追いかけてきた。


「さぁて遂にオラ達も星外デビューじゃ! 兄貴の背中はオラが守る。安心してくれや」


「オメェも物好きなもんだよなぁ。ま、俺もツレがいた方が助かるけどよ。ちなみに本当に家族は説得できてんだよな?」


ダンジョウは眉を顰めながら尋ねる。ビスマルクがダンジョウの旅に付き添うと言い出した時、シャインが出した条件は「穏便に家族を納得させる」というものだった。その問いに対してビスマルクはまたしても得意気な表情で胸を張った。


「その点は安心してほしいのぉ! 全員納得じゃわい! まぁお袋は好きにせぇと泣き叫んどったし、親父にはとんでもねぇ剣幕でぶん殴られたくらいじゃ。唯一後ろ髪を引かれたんは可愛い妹に泣きつかれたことくらいじゃのぉ」


「オメェ穏便の意味知ってっか?」


ダンジョウは呆れながらため息をつくがビスマルクは肩を竦めた。


「そうは言ってものぉ兄貴。これから宰相に喧嘩を売りに行くっちゅうて納得する奴なんか居らんわい」


「バーカ。喧嘩売りに行くんじゃねぇよ」


ダンジョウはそう言ってニヤリと笑う。そして海陽が差す光に向かって歩きながら決意するように宣言した。


「国境も星間もねぇ。みんなが平穏な世界にすんだ」


海陽の光が増していく。雪原には無造作な足跡が広がっているが、真上から見るとただ一言の言葉が浮かび上がって見えた。


――PE∀CE


帝国を生まれ変わらせ、そして崩壊へと導いた少年の旅はこうして始まった。

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