第51話『好転の兆し』
【星間連合帝国 アイゴティヤ星―カルキノス星宙域 海賊連合母艦スネークヘッド】
ホログラム越しにも分かる戦況を眺めながらマーガレット・ガンフォールは眉を顰めていた。現在、彼女はレオンドラ星からアイゴティヤ星に向かう船の中にいるのだが、海賊連合提督としてホログラムではあるが連合の母艦で指揮を取っている。そのマーガレットの視線の先には海賊連合母艦スネークヘッドを中心とした七海賊の戦艦に囲まれ全方位から攻撃を受ける旧式船の姿があった。
『……随分と手を焼いているわネ』
視線を船から外すことなくマーガレットはそう告げると、傷だらけの顔に仰々しい髭を携えた男が振り返ってきた。
「お嬢はん。大勢での喧嘩っちゅうのはそう簡単に終わりませんのじゃ。何よりこんな辺ぴな場所での戦闘とっちゅうと弱い相手を嬲ってみたくなるもんですわい」
そう言って蛇のように細い体をくねらせる海賊連合の提督代理バロム・ロクフェルは赤い三白眼を鈍く光らせて薄気味悪い笑みを浮かべる。
元帝国軍人であるバロムは、その気性の荒さと非人道的行動によって不名誉除隊させられた過去がある。それから様々な犯罪歴を重ね宇宙海賊にまで身を落としたのだ。さらに純血のラヴァナロス星人である彼は他惑星の人間や女性、年少者を見下す傾向があった。その全てに当てはまるマーガレットは彼からすれば嫌悪の対象でしかなく、彼女を「お嬢さん」と呼称するのも嫌味でしかなかった。
扱いづらい男に対してマーガレットは突き放すように言い捨てた。
『貴方達の趣向に興味はないワ。さっさと終わらせなさイ』
マーガレットの言葉にバロムは艶めかしい笑みを浮かべた。
「へぇ……じゃけん、ええんですかのぉ? 聞いた話じゃとあの船にゃホーンズ海賊団のガキが乗っちょるらしいやないですか」
『よく知ってるじゃなイ。誰から聞いたノ?』
「まぁ色々ですわい」
マーガレットはそう尋ねながらもホーンズ海賊団から引き抜いた者から聞いたのだろうと察していた。つい先日、彼女はバロム等にホーンズ海賊団の隠し拠点を教え、そこを壊滅させたばかりだったのだ。
『ま、別にいいワ。良かったじゃなイ。貴方達の連合入りを拒否したはぐれ者ヨ』
「へえ。でものぉお嬢はん。あんガキば連合内でも指折りの実力者じゃ。頭も悪ない。じゃけん、何で連合ば加盟せんかったんか気になっとるんですわ」
バロムの無駄に優れた洞察力にマーガレットは嘆息する。人間的に問題があっても元帝国軍で鍛えられている以上、彼には人並み以上に力があるのは明白だった。
『何が言いたいノ?』
マーガレットは動揺を一切見せることなくそう告げると、バロムはバロムは薄汚れた笑みを浮かべた。
「ちゅうことはあんガキは誰かからそう指示を受け取ったっちゅうことじゃ。まぁそいが誰かっちゅうのはお嬢はんが一番分かっちょるんじゃろうがのぉ? そがん話しば下のモンが聞いたらどうなるかっ中話じゃ」
『私への不信感に繋がるでしょうネ。というかさっきから話が遠回しすぎヨ。みみっちいやり方やってないデ、言いたいことがあるならハッキリ言いなさイ』
マーガレットは吐き捨てるようにそう告げると、バロムは明らかに苛立った表情を見せたが、すぐさま鼻を鳴らしてニヤリと笑った。
「別にお嬢はんの地位を揺るがそうっちゅう訳じゃないんじゃ。ただ海賊連合のモンとして、ホーンズのガキみたいな優秀な駒ば無くすんは得策とは思えんのじゃがのぉ? ホーンズのガキ……レオナルドっちゅうと見た目もガキそのモノじゃ……どうじゃ? こん戦いが終わったらあんガキのことは任せてもらえんかのぉ?」
下衆い笑みで舌なめずりするバロムの言葉を聞いたマーガレットは、ようやく視線を動かすと遠慮なく嫌悪感と軽蔑の視線を投げかけた。
このバロムという男が不名誉除隊となった非人道的行動の一つには一般人への強姦・暴行というものがあった。しかも被害にあったのは少年少女だったという。つまりはレオナルドに対してもそういうことなのだろう。マーガレットは視線を戦況に戻すと興味なさそうに言い捨てた。
『……目標はダンジョウ=クロウ・ガウネリンヨ。それ以外は好きになさイ』
「そらありがとうございます……ケケケ」
バロムは挑発するよう気持ちの籠もっていない感謝の言葉を告げると汚い笑い声を上げる。その笑みは自らの願望が叶うのは時間の問題であると思っている節があった。
彼の思惑通り戦況を見れば既に勝負は決しているように見える。しかしマーガレットはこのまますんなり終わるようには思えなかった。
『(恐らク……我々が勝つチャンスはここだけネ……)』
轟沈間近の船を見ながらマーガレットは呟く。相手にシャイン=エレナ・ホーゲンがいる限り、彼女達が戦場で勝つ見込みは殆どと言っていいほどない。つまり彼女と合流する前の今しかダンジョウを捉えるチャンスはないに等しかったのだ。そう思っていた矢先旧式船のエンジンから火花が飛び散るのが見えた。
旧式船のスピードは確実に緩まっていく。最後の抵抗か船は小惑星帯に逃げ込もうとしていたが、それも悪あがきにしか写らず、マーガレットは憂いの籠もった表情でその様子を眺めていた。「終わっタ」そう思いマーガレットがホログラム通信を切ろうとした瞬間だった。
――彼女の正面にあるモニタを切り裂くように巨大な光が戦場を一閃した。
その光は海賊連合の戦艦一隻を貫き、先程まで悠然と漂っていた戦艦が傾いて轟沈していく。急な展開にスネークヘッド艦内にも動揺が走っていた。
「何じゃ!?」
バロムのみっともない声が耳に届く。その明らかに動転したような声を聞き届けたマーガレットはそれ以上何も言わず、微笑だけ残して通信を遮断した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【星間連合帝国 アイゴティヤ星―カルキノス星宙域 フローズヴィトニル号】
舌が痺れる感覚でシャインの目は急速に冴えていった。今の今まで仮眠していた彼女だが、戦闘領域に入ったという警報で起こされ、辛味成分がふんだんに盛り込まれた眠気覚ましのドリンクを一気に飲み干したのだ。
「ヒー……で? そっちの操縦してる子は?」
シャインは舌を出しながらホログラム越しでも相変わらず美人なイレイナの隣で操縦桿を握るカルキノス星人の少女を見つめる。するとイレイナは慌てた様子で答えた。
『ジャネット・アクチアブリさんです! 殿下が迎え入れられました!』
隣で操縦桿を握るジャネットは至って冷静なようだが、イレイナの口調で旧式船は予断を許さない事が分かる。しかしシャインは二本目のドリンクのボトルを開けながら呆れたように眉間に皺を寄せた。
「迎え入れたぁ? あのバカまた勝手なことして」
二本目のドリンクを飲みながらシャインはようやく接近してきた戦闘宙域の光を確認した。
通話を中断してシャインはフロントモニタの映像を拡大すると、ようやくイレイナ達が乗る船を視認することが出来た。しかし、その状況を見てシャインは思わず目を疑った。最悪な状況にではなく、彼女達の乗る船の旧式っぷりにだ。
「そんな船でよくもったね」
『ええ、ダンジョウさんの判断が的確でしたよ』
呆れたように苦笑するシャインに先程自己紹介してきたヴァイン・ブランドがイレイナとジャネットの間から顔を出して告げる。まだ子供ながらも落ち着いた口調の彼は恐らくそこそこ頭が切れることを見抜いていたシャインは、ヴァインを同格扱いしてやるように鼻を鳴らした。
「違うわね。アンタ達周りが優秀だったのよ」
『お褒めの言葉として頂戴いたしますよ』
シャインの返答がお世辞だと理解しているのかヴァインは肩を竦める。その空気を読む能力にシャインはまたしても小さく笑った。
ブランドファミリーの小倅に謎の凄腕操縦士、さらにイレイナから受けた報告によれば虎殺流の使い手や子供のようなマフィアも仲間に引き入れているらしい。ダンジョウの味方を引き入れるその力は、今のところ優秀な人材のみに適応しているようだった。
「ジャネットちゃんだったわね。ちょっといい?」
『ハイ。何スか?』
あいも変わらず冷静に操縦感を握るジャネットに対して、シャインは新たに戦闘宙域内の環境をモニターに映し出す。旧式船の前方にある小惑星帯の特性を見たシャインはそこから一瞬で勝利への道筋を組み立てた。
「その船ドッキング用の通路は?」
『船の腹にあるにはあるッス。でもお姉さんの船がこっち来るまで保たないと思うッスよ?』
「そこは気にしないで大丈夫。船を右舷に七十度傾けて前方の小惑星帯に入って。腹部まで入ったらそのままエンジン停止して制動距離で小惑星帯に入りきったら迎えに行くから脱出準備を」
『右舷の方ッスね。了解ッス』
「あ、それから船は遠隔操作出来る?」
『遠隔は……あぁ出来ますね。了解ッス』
「OK。それじゃ578秒後にドッキングできるようにしておいて」
シャインはそう告げると通信を切り、真っ平らな胸を反りながら大きく背伸びをした。
深呼吸を終えたシャインは操縦桿を握る右手に力を込める。そしてフローズヴィトニル号に備わっている武器を確認して左手は加速レバーを握りしめた。
「さて、と。ドッグファイトは久しぶりだなー」
まずは小手調べに前方の砲門を開く。するとフローズヴィトニル号の船首から一本の砲門が姿を現した。シャイン小さく舌なめずりをして口元に付いたドリンクを舐め取ると、フロントモニタに映る一隻の戦艦に的を絞り、牽制のつもりで操縦桿と一体化するトリガーを引いた。
「いぎっ!」
凄まじい衝撃にシャインは思わず妙な声を上げる。放たれた超電磁砲の弾丸は漆黒の宇宙を一直線に切り裂いてロックオンしていた戦艦一隻を貫いた!
多少のダメージを与えられればいいと思っていた攻撃で轟沈する。その想定外すぎる光景を眺めながらシャインは我に返った。
「えぇ……出力上げすぎたかな? それとも最新鋭機の特権?」
少し引き攣った笑みを浮かべながらシャインは次弾発射までの冷却時間を確かめるが次弾まではかなり時間を要するようだった。だが一隻轟沈したことで、旧式船が逃げる時間稼ぎにはなったはずだ。そしてそれは敵に自身の存在を気付かせるということである。その証拠に程なくして敵艦からフローズヴィトニル号目掛けて長距離砲が飛び交ってきた。
フレアを散布してシャインは旋回しながら加速レバーを握り締める。そして船を急加速モードに入れると、一気に加速して戦闘領域に向かって突っ込んだ! 船首には轢いた海賊のCSがこべり付いているが、シャインは気にせず加速モードから戦闘モードに切り替える。そして連射の利くビーム兵器を駆使してボロ船を取り囲むCSを撃ち落としていった!
「そっちのCSは誰ー?」
旧式船を守りながら戦う二機のCSに向けてシャインは回線を開くと懐かしい声が響き渡った。
『そん声は姐さんじゃな!』
『……お久し……振りです……』
彼女の予想通り大きな戦力になっていた二人にシャインは労いの籠もった声で告げた。
「ここまでよくやってくれたね。もうひと頑張り頼むわ」
『任しといてくれ! おい赤だるま! キサンばさっさと無効の敵片付けてこんかい!』
『青二才の……指図は……受けぬ』
「仲良くしろとは言わないけどちゃんと協力してね」
この状況でも未だ憎まれ口を叩く余裕がある二人に感心しながらシャインは旋回した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【星間連合帝国 アイゴティヤ星―カルキノス星宙域 ブランドファミリー脱出船】
砲手席でずっとトリガーをずっと握っていたせいで人差し指にマメができている。ダンジョウは水ぶくれになった指を舐めながら自分達の乗る船はもう撃沈寸前であるとようやく理解した。所々の壁に設置されている計器からは火花が飛び散り、床面や壁にはヒビが入り、どこからか火が上がったのか煙で視界もやや悪い。重力発生装置も故障しているせいで船内は無重力状態なのだが、通路壁面にある移動用キャタピラも動いていないせいで、このドッキング用通路に繋がる扉の前にたどり着くのも一苦労だった。
「レオ、開きそうか?」
「んー無理ですね。壊れてます」
レオナルドはそう言いながら壁に備わっている機器を操作する。しかし扉は閉ざされたまま一向に開く気配を見せなかった。
「お下がりください」
ダンジョウの背後に立っていたカンムがそう告げると、彼はそれ以上何も言わずに腰の刀を抜いて扉を真一文字に切り裂いた! 刀が小さなレオナルドの頭上をを通り過ぎると、彼は体を強張らせながらカンムの方に振り向いた。
「刀振る前に言ってくださいよ……」
「太刀筋は理解している。仮にその身体を掠めても避けられただろう?」
カンムはまるで何かを忠告するかのようにそう言い放つ。レオナルドは怪訝な表情を浮かべる中、ダンジョウは「喧嘩なら後にしろよ!」と言ってから上下で半分になった扉を蹴飛ばした。
扉が倒れるとその先には小さな一室があり、そこではドッキングの準備に入る三人の姿があった。
「三人共無事か!」
ジャネット、イレイナ、ヴァインを確認したダンジョウはそう叫びながら三人の方に進むと、ヴァインは普段と変わらない笑顔で頷いてきた。
「ええ、ダンジョウさんもご無事で何よりです」
「あたりめーだ。オメェは随分落ち着いてんな」
「いかなる時も冷静に。これビジネスにおける常識です」
ヴァインがそう告げるとイレイナが「来ました!」と叫んだ。
扉の上部に備わっているドッキング確認用モニタからシャインの駆る船が近づいてくるのを確かめる。するとジャネットは手にしていた機器を操作してシャインの船を巻き込みながらバリアを展開させた。
「バリアOKッス。ただもう腹部にしかバリア張れないんで上の方は攻撃され放題ッス。なんで急ぎ目でお願いするッス」
その言葉にイレイナは頷くとドッキング用通路を起動させた。ボロ船から伸びる通路がシャインの船に届き、その通路内に空気が行き渡るとイレイナはドッキング通路の扉を開いた。
「さ、殿下!」
イレイナは真っ先にダンジョウの方に振り返るが彼は呆れたように首を振った。
「ばーか。女子供が先だろうが。まずはイレイナとジャネット、ヴァイン、それからレオな」
ダンジョウの言葉にイレイナは「こんな時まで!」と言わんばかりに歯痒そうな表情を浮かべるが、彼女の肩をジャネットがポンと叩いた。
「こういう時は団長さんの言うとおりにした方が早く済むッス」
彼女はそう告げると頭頂部で束ねたコーンロウを靡かせてドッキング通路の中に入っていく。ヴァインもそれに続き、そこにレオナルド、渋々と言った表情のイレイナが更に続いていくと、最後にダンジョウとカンムが並んで通路に入ったところで船内が大きく揺れた!
「イレイナさん! 強制解除!」
ジャネットが叫び声に反応したイレイナは、慌てて手にしていた遠隔操作のボタンを押すとドッキング通路の入り口が閉じて旧式船から切り離された。
離れた瞬間に通路内は激しく揺れ動き、ダンジョウは小さな通路内の壁に打ち付けられた。
「っ痛ェ~……おいカンム、大丈夫か?」
隣のカンムにダンジョウは視線を向けるが、そのような心配は無用と言わんばかりにカンムは通路に備わっている小さな窓から外を確認していた。
「問題ありません。さ、参りましょう」
カンムはそう言ってダンジョウの腕を掴むと、勢いよく窓の枠部分を蹴ってシャインの乗る船へと移動した。
辿り着いた真新しい船の中は真っ白な壁に覆われており、扉が一枚だけ備わっていた。ダンジョウとカンムがそこに入ると、レオナルドが扉を閉じてドッキング通路が切り離された。
「新車の匂いですね」
ダンジョウは新しいエアカーなどに乗った経験はないので同意しかねたが、そのヴァインの言葉に他の面々は納得したように頷いていた。
『全員乗った?』
スピーカーから聞こえる久しぶりの声にダンジョウは少し安堵したように微笑んだ。
「おおババァ! 久し振りだな! どうしたんだこの船?」
『まずは中に入って』
シャインがそう告げると同時に室内にあった唯一の扉が開く。無重力の中を漂いながらダンジョウを先頭に扉を抜けると、そこには椅子やテーブルが置かれたスペースが広がっていた。
待機スペースと思しき室内をダンジョウが見回していると、そこに繋がる通路の先から栗色の髪を三編みに束ねた童女が向かってきた。
「ババァ! 元気だったか?」
ダンジョウはニッコリと微笑むと、シャインはホッとしたような微笑みを見せてから上部に浮かび上がった。そして天井部に足をつき足を屈めると水泳のターンのように勢いよく天井をキックしてダンジョウの頭上に拳を振り下ろした!
「ギャッ!!」
明らかに何かが破損したような衝撃音と同時にダンジョウは頭を抱える。そしてその懐かしい痛みに涙目を作りながらシャインを睨みつけた。
「こ、このクソババァ! 再会早々何しやがる!!」
「マフィアと揉める! 勝手に人増やす! このアタシをまだババァ呼ばわりする! 舐めてんのかっ!!」
「テ、テメェ! 明らかに最後のは個人的な恨みだろ!」
「だったら何だってのよ? もう一発欲しいのかこのバカ!!」
「く、首を絞めるな! し、死ぬ!」
胸倉を掴みながら童女と思えない形相で凄んでくるシャインにダンジョウは呻きながら訴える。その光景は二人からすれば日常なのだが初めて見た他の面々は呆気にとられていた。
「ホ、ホーゲン中佐。お叱りは後ほど。今はこの状況をなんとかしませんと」
明らかに畏怖した様子のイレイナが仲裁に入るとシャインは鼻息を荒げながら胸倉から手を離した。
「それもそうね。ジャネットちゃんってのはどの子?」
「あ。わ、私ッス」
先程までの言動に明らかにビビっているジャネットが恐る恐る手を上げると、シャインは自らが付けていたグローブを取ってジャネットに優しい笑顔を振りまきながら放り投げた。
「この先がコックピット。貴女はすぐに船をここから移動させて。船はそのグローブを認識して動くから。操縦や攻守はその場の判断に任せる。ただアタシとは常に通信できるようにしておいてね」
「は、はいッス」
グローブを受け取ったジャネットは恐縮した様子でコックピットに向かって走り出す。ダンジョウはその後姿を見送りながら、恐らく怠惰な性格をしている彼女が走る姿がシャインへの恐怖からくるものだと察していた。
「それと、イレイナとヴァインくん」
「はい。以後お見知りおきを」
イレイナの隣で頭を下げるヴァインにシャインは小型のデータソフトを差し出した。
「二人はそこの通信機でこの中にあるデータをカルキノス星に送りつつ、援軍を頼んでみて。迎えに来るってだけでも充分だから」
「しょ、承知しました」
イレイナの返答を合図にヴァインはデータを受け取ると、待機スペースの一角にある通信席に腰を下ろした。
「んじゃ、残りの君達二人とバカは着いて来なさい」
「おい! 誰がバカだクソバ……」
「あぁ?」
「……ぐ……な、何でもねぇよ!」
ダンジョウは言葉を飲み込むと、前を歩くシャインの背中を睨みながら、カンム、レオナルドと共に船の後方に向かって進み始めた。




