母乳魔神
「ナツメ!!」
ナツメの奥底まで届くように大きな声で呼びかけるも、その表情が変わることは無かった。
「ほぅ……この娘は『ナツメ』と申すのか」
その口振りはまるで他人ごとの様であり、私は軽くホッとしたが、事態は私が思うより酷い有様であった。
「私は【バースディ】。かつて乳英雄の礎を築いた者であり、母乳一族の祖でもある」
「……母乳魔神とはお前の事か?」
「左様。ここは母乳大陸と呼ばれるかつて乳英雄が世界を掌握した場所。母乳神はこれより始まりここにて終わる。母乳一族はココに咲く【母乳花】を通じて輪廻転生するのだ…………」
「お前の目的は何だい? とりあえず聞いておこう」
「母乳一族の殲滅。そして再生…………全てはやり直す為。全ての母乳一族をココに集わせ新たな母乳王国を築く」
―――無と終わりの狭間で、私は正直嬉しく思っていた。
母乳魔神とやらはもっと極悪で残虐だと思い込んでいたが、良く分からない目的で動いてる事を知り、実は大した事無いんじゃないかな。と侮った。
「乳英雄を全て離乳せしめたのはお前が初めてだ。母乳神の覚醒無しにココまでやれるとは、やはり母乳の力は無限大と言う訳だ。それだけに我が一族の衰退は非常に口惜しい……」
ナツメの眼光が鋭く私の胸中へと突き刺さる。私は思わず視線を逸らしてしまった。
「お前はこれからこの娘を滅さなくてはならない」
「……は」
ナツメの周りに白い鬼火の様な物が一つ漂った―――
「お前の体を依り代に、我は新たな世界の母となる」
「待てよ……」
ナツメの周りに白い燐火の様な物が一つ漂った―――
「我は全ての母……」
「早過ぎだ……」
ナツメの周りに白い狐火の様な物が一つ漂った―――
「子は親の言う事に従わねばならぬ定め!!」
「まだ覚悟が―――」
ナツメの周りに白いいんね火が一つ漂った―――
「親は子を待ってはくれぬ!覚悟をせよ!!」
「……ああ!もう!!!!」
4つの灯火がナツメの周りをグルグルと回り、次第にその速度を増していく。私はチルミーソードを取り出し、覚悟の無いままナツメと対峙した。
──バッ!
ナツメが私に飛び掛かるので、私は思わずチルミーソードで払い除けてしまった…………すると、ナツメの体からは紫の煙が上がり斬られた部位が僅かに消えかかっていた。
「え!?」
「何を驚いておる……この娘の体は母乳エネルギーで出来ている。母乳神器で斬られれば無くなるのは当たり前だろう?」
…………
………………つまり……ナツメを倒すとナツメが死ぬ……のか。
私はまたしても近しい人を亡くす運命にある様だ。




