母乳将神 ターベッタ ①
もうちょっとで終わるんじゃ
母乳工場員の怒号と機械音、そして逃げ惑う女性達。その最中で奴はひっそりと現れた。
「ユヌサヌゾ……!!」
カシャンカシャンと音を立て、赤き鎧に身を包んだ鎧武者。両手に細身の曲刀を携え、顔は恐ろしい修羅の面で見えず気迫だけが伝わってきた…………
「ダンカン……」
「言わずとも。あれがターベッタか……」
私は覚悟を決めかねていた。奴を倒せば更なる悪が復活の兆しを見せる。しかし倒さねばこれからも被害者が出続ける。どうにかターベッタを大人しく出来ないものか……。私は緊張感漂うこの場で一人、そんな事を考え始めた。
「ナント手ヌルイ……マサカコンナ奴ニ負ケタトハナ……」
「ダンカン何を考えておる!
今は奴に集中するのじゃ!!」
そんな雰囲気が伝わったのだろう…………なら話は早い。
「私は母乳魔神が復活するのは避けたい。だから和平交渉といかないか?」
「ダンカン!?」
「…………」
驚くナツメに無言のターベッタ。やはり和平は叶わぬ夢なのか……?
「イイダロウ……」
「えっ!?」
ターベッタの返事に思わず声が上擦ってしまう。まさか本当に和平に応じてくれるとは思わなかったからだ。これならばお互いにこれ以上母乳を流さずに済みそうだ―――!
「タダシ条件ガアル!」
その言葉にとても嫌な予感がした。確かに母乳ファクトリーと滅茶苦茶に壊した上での和平交渉……ただで済む方がおかしい!
「な、何だ……」
「ダンカン聞いてはならぬ……」
ナツメのか細い声は私の【期待感】の渦に直ぐに吞まれてしまった。私はターベッタの次の言葉を待った。
「乳英雄ヲココマデ追イ詰メタノハオマエガ初ダ……」
「…………」
「ダンカン……頼むからそれ以上奴の言葉に耳を貸してはならぬぞ!! 戻れなくなる!!」
「私はこれ以上争う事は避けたいんだ!!」
「ダンカン…………」
後ろでナツメの意思が弱まるのを察した。しかし私の意思は変わらない……!!
「条件とは……何だい?」
―――カシャン……
ターベッタは右手に持った曲刀を私の足下へと投げた。
「ココデ……自害セヨ―――!!!!」
「!!」
「…………」
えっ
は……?
な……?
…………!?
私の脳がその役目を放棄し、視界が大きく虚ろいだ。息が上がり鼓動が早くなる。気が付けば汗がダラダラと流れ、目の前に光る曲刀が怪しく私を誘っていた。
「貴様ガ今ココデ死ネバ、我今後イッサイ表ヘハデヌ……」
「……ま、待ってくれ!!」
「ナラバ先ニ誰カガ死ヌダケダ……」
ターベッタの巨大な母乳ハンドが母乳ファクトリーの壁をぶち抜く!
―――ボゴォッ!!
そしてその手に握られた女性に向けて曲刀を突き立てた!!
緑色の髪をした獣人の女性は意識が無いのか項垂れたまま動かず、ブラブラと脚が揺れていた。
「―――え?」
私はその数奇で奇妙な再会に動揺を隠せなかった。まさか本当にあの子がココに居るなんて……!!
「ミント!!!!」
「サア!選ブ刻ダ!!」
ターベッタは曲刀をミントの喉元に突き立てた!!!!




