母乳ファクトリー
目が覚めると、そこは良い匂いのする誰かの部屋だった。壁には可愛らしい熊のぬいぐるみ、窓際には花が飾られており、自分が寝ていたベッドからは染みついた『誰か』の匂いが漂っていた。
―――カチャ
「ああっ!! ダンカン様目覚められましたか!?」
扉を開け現れたのはビキニアーマーにエプロン姿のサヤカだった。
「……すまない、もしかしてかなり寝てたかな?」
「はい、かれこれ三日ほどは……」
私はガックリと肩を落とした。体は何とも無いがその間誰かの世話になっていたかと思うと妙なやるせなさを感じたのだ。
「すまない……世話になったみたいで」
「いえいえ! ダンカン様のお世話が出来てサヤカ嬉しくて感激です♡」
……何だかサヤカのキャラが変わっている気がする。もっとお堅い人だったよ様な気がしたが…………。
「お腹……空いてますよね? ご飯作りますので少々お待ち下さい」
サヤカは慌てて部屋を出て行った。
―――ひょい
そして扉から顔を出すサヤカ。
「あ、私のパンツはタンスの下から二番目ですのでご自由にどうぞ♡」
「い、いや結構……」
不気味な位に人が変わったサヤカに困惑しつつ、腹の虫は今にも私の胃袋を突き破りそうな勢いで鳴いている。
「はいダンカン様……あーん♡」
そしてこれである。出された手料理の数々。とても私1人で食べきれる量では無い。
―――ガチャ!
「ダンカンが目覚めたと聞いてやってきたのじゃ!」
ナツメが慌ただしく玄関を開け放ちさり気なく食卓に着く。どう見ても飯の匂いに釣られて来たとしか思えない……。
―――モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……
かなりの勢いで食い散らかすナツメ。その勢いに私は完全に置き去りだ。
「サヤカとやら、中々美味であるぞ?」
「……ありがとう」
「ところでダンカンよ。乳英雄も残すは1人となった」
「え? やだよ。もう出来れば関わりたくないんだけど……」
「まあまあ、話だけでも聞くが良い。『母乳ファクトリー』なる工場がココより北の『ニシマッヤ』の外れにあるのじゃが―――」
「母乳ファクトリー!?」
「うむ、最後の乳英雄ターベッタが支配するニシマッヤ地区にある母乳ファクトリーじゃ。どうやら最近各地で人攫いがあるみたいでな。攫われた奴等は母乳ファクトリーへ連れて行かれている様なのじゃ」
「……何の為に?」
気が付けば私はナツメの話にグイグイと首を突っ込んでいた。正直ココで聞くのを止めて置けば良かった……のかも知れない。
「恐らくは……母乳神に纏わるかも知れんのぅ。先程も緑色の髪をした獣人が攫われて行くのを見たぞい。残念ながら手も足も出なかったがな……」
―――!?
―――ガタン……
気が付けば私は立っていた。
「ど、どうしたダンカン……?」
「ダ、ダンカン……様?」
「その獣人、女か!? 赤い瞳か!? 服装は!?」
「お、落ち着けダンカン!! 遠目じゃったから詳しくまでは知らぬ!! 何じゃ! 知り合いか!?」
「こうしてはいられない……行くぞ! 母乳ファクトリーへ!!」
「そ、そうか、ならば行くとしようぞ!」
「わ、私も微弱ならお供致します♡」
こうして私達は母乳ファクトリーへと旅立つ事にした。
(ミント……)
攫われた獣人にミントの面影を寄せながら、私は決意を新たにしたのだ―――




