母乳VS聖剣
サヤカは容赦無く私に剣を向けた。剣先とサヤカを交互に見るも、その真剣な眼差しからとても冗談とは思えない気迫が溢れている。
「……どうしてもかい?」
「チュベビを離乳させる程の実力、是非この目に……!!」
「はは…………は……」
―――バッ!
私が瞬時に片乳を曝け出すより早く、その刃は私の首へとピタリと当てられていた。私は静かに手を上げ降参の意を示した。
「……こんなもんさ」
「…………」
サヤカは無言で剣を下ろし、その場から立ち去った。その背中にかける言葉は私の中に持ち合わせておらず、サヤカが去った後その場に居合わせたナツメが静かに口を開いた。
「何故『ヒドイヨナキデチチヲセガムアカサン』の事を言わぬのだ?」
「自分でも良く分からない力は他人に語る物じゃないさ……。それにアマンダが居れば何とかなるさ……きっと」
自分で出ると言いながら、他人任せな自分。どうしようも無くダメな事だと知りつつも今更退くに退けない状況下に、私の悪い部分が全て現れているな…………
次の日、母乳コロシアムとやらに四人で視察に行ってみた。殺気に満ちたオヤジ共がクジ券を握り締めて、自分が賭けた相手を必死で応援している様はかなりの迫力だ。
「これが……母乳コロシアム」
「なんじゃなんじゃ騒がしいのぅ」
「金の匂いがプンプンするわね!」
「あれが私達の闘う相手です」
サヤカが指差した先には異常なまでの逆三角形をした筋肉モリモリのマッチョマンが、細身の男の首を片手で締め上げていた。
「彼は『母乳処刑人』と呼ばれており、ピゾンお抱えの戦士です。彼に勝った者に『銀の乳首』が授けられます」
(いやいやいやいや! どう見ても無理です! はい!)
人を殺すことを何とも思わない顔をした母乳処刑人は、首を閉めたまま思い切り男を地面に叩きつけた!
「うわっ……!」
「大丈夫じゃダンカン。コヌビより弱そうではないか♪」
「……えっ!?」
サヤカがナツメの声に反応して、私の顔をまじまじと見つめてきた。マズいぞ……コヌビを離乳させた事は言っていない!
「あ、すまんダンカン。口が滑ってもうたぞ!」
「ダ、ダンカン様はコヌビもその手で……!?」
「ま、まぁ……成り行きで……ね。良く覚えていないんだけどさ」
私が話を逸らすためにアマンダの方へ目をやると、アマンダはいつの間にかクジ券を買っていた。しかも母乳処刑人に賭けてやがる。
「何よコレ!! 母乳処刑人が強すぎて賭けが成立しない程に倍率が低いわよ!?」
賭けた後で散々文句を垂れるアマンダを余所に、サヤカは受付で『銀の乳首戦』へエントリーをしに行った。
「アマンダ?」
「ん? 何かしら?」
「勝てるのか……?」
「勝てなくても死ななければセーフよ。幸いギブアップは出来るから死ぬ前に降参しなさい」
「あ、ああ……」
何とも情けない返事をし、エントリーを済ませたサヤカと共に母乳コロシアムを抜け出した…………。




