母乳の城
「落ち着いて……な。兎に角その幼女をこちらへ渡すんだ」
ダンカンは額に冷や汗をかきながら青年に語りかけた。しかし、幼女を抱える青年の手は益々力むばかり。
「ふ。それはならぬな。この娘は母乳一族の様だ。つまりチュベビ様に献上するのが我が定め! そこをどけい!」
――バッ!
青年は腰に下げていた袋から何かを取り出しダンカンへと投げ付けた!
「ぐあっ! 目が……目が……!!」
咄嗟に顔を手で押さえたが、眼の中がジャリジャリと痛む感覚に襲われ目が開けられなくなってしまう。
「ふはは! この娘を返して欲しくばチュベビ様の根城である『母乳の城』へと来るが良い!!」
――ダッダッダッダッ……!
目の開けられぬダンカンは走り去る足音の方向に手を伸ばし、己の眼よりも幼女の身を案じた……。
「ダンカン! 母乳を出すが良い。それで眼を洗うのじゃ!」
ナツメの咄嗟の判断でどうにか目が見えるようになったダンカンの視界に、幼女の物と思われる小さな可愛い靴が片方落ちているのが見えた。
―――ズ……ズズ……
「!!」
ダンカンの肩口から伸びる黒い影。それは以前コヌビと対峙した時に見たあの刺青の様な恐ろしい影であった。
「ダンカンならぬぞ! 落ち着けい!!」
……ズズズズ……ズズズズ!!!!
黒い影は勢いを増しダンカンの上半身は瞬く間に闇に飲み込まれてしまった! そして血相を変えたダンカンは一人駆け出した!!
「待つのじゃダンカン!」
慌てて後を追うナツメであったが、小さき体ではダンカンの足に追い着けず、あっと言う間に一人残されてしまった―――
―――雅な乳香る母乳の城
「チュベビ様 無事奴めを釣れましてございます」
「……そうか。それは楽しみだな」
母乳の入ったワイングラスをクルリと一回しすると、小さく口を付け味わうチュベビ。傍らには捉えられ意識を失った幼女が小さく項垂れていた。
「ヨウジョヲ……カエセ……!!」
「!!」
黒い影がゆっくりとチュベビの部屋へと忍び寄る。従者は怯えチュベビの後ろへと隠れた。
「ははは! 早い早い! 実に素晴らしい!!」
チュベビは顔に手を当て酷く楽しむように高らかに笑い声を上げた。
「ヨウジョ…………ヨウジョ……!!」
黒い影は人の形を成し、ヒドイヨナキデチチヲセガムアカサンに変貌したダンカンがチュベビの目の前へと姿を現した―――!!
「コヌビを離乳させたその力……見せてみよ!!」
マントを翻し脱ぎ捨てたチュベビ。上半身裸に下だけシルバーのタキシードを着用! 金髪のウェーブが掛かった長髪が乳英雄としての気質を更に際どくする!
ダンカンはチュベビに飛びかかろうとした!
だがその跳躍はピタリと止まり、ダンカンの膝から下に白い母乳スネークが巻き付いており地面には大量の母乳スネークが連なるようにダンカンの動きを止めた。
―――パチン!
チュベビが指を鳴らすとたちまち大量の母乳スネークは母乳へと戻り、ダンカンの膝から下は母乳の海へと浸かってしまう。
「……ヨウジョ……カエセ……」
「ふふ、全く持って勇ましい男だ。我が母乳の海は深いぞ? 母なる母乳の海で溺れ死ぬが良い!!」
チュベビの両脇からにゅるりと現れた母乳アナコンダが激しく口を開けダンカンを睨みつけた―――!!




