乳獣母神コヌビ Ⅱ
漆黒に染まったダンカン。それはまるで聖母の様に美しく、オッサンの様に汚かった。
「参るぞ!!」
太い槍を両手で握り、助走を付けて勢い良く貫くコヌビ。槍の動き一つ一つに風を切る音が激しく鳴り響き、ダンカンの命目掛けて迷いが無い!
ダンカンの胸を確実に捉えたコヌビ!
「……呆気ない」
落胆にも似た表情は直ぐに真顔へと戻った。突いた筈の手応えが感じられず、槍の重さが急に消えてしまったのだ…………槍を手元から辿ると、ダンカンの乳から貫いた先の部分が溶けるように無くなっていた。
「―――!!」
コヌビは驚き大きく退いた。何が起きたのかは明白だが何故出来たのかは理解し難かったのだ!
槍は半分より先が溶けて無くなり、解けた先は未だにブスブスと白煙を上げ黒い液体がポタポタと垂れていた。
「あの一瞬で溶かすほどの母乳アシッド。貴様……侮れぬ!」
コヌビは槍を投げ捨てると、大きく息を吸い込み始めた。
「我が母乳を受けよ!!」
凄まじい胸毛の隙間より噴射される獣臭いコヌビの母乳! それは嗅いだ者の嗅覚を破壊し、目眩を起こさせる程であった!!
「我が母乳ミストから逃れる術は無い……喰らえ!!」
ダンカンの周りをグルグルと走り、横から猛烈な勢いで牙を脇腹へと突き立てる―――!!
―――ブンッ!
「!?」
牙が突き刺さったダンカンの姿は一瞬で霧散し、手応えがまるで無かった……。
「母乳ミラージュか!! 何処だ!? 何処に居る!?」
母乳による蜃気楼。それは母なる愛情を込めて作り上げたもう1人の自分である!
ダンカンを見失い狼狽えるコヌビ。辺りを頻りに見渡すが影も形も見当たらない。
―――ピュッ!
「むむ!」
コヌビへ向かって飛ばされた黒い母乳! 辛うじて回避すると立て続けに新たな母乳が発射された!
―――ビュッ! ビュ!
「フン!!」
素早く身を躱すコヌビ。乳英雄の名に恥じぬ動きはダンカンの母乳を一滴も浴びること無く躱しきった!
―――ビチャッ!!
「!?」
背中を襲う違和感。手を当てるとそこには躱した筈の黒い母乳がかけられていた!!
「ぬかった!! 母乳バウンスか!!」
コヌビへとかけられた母乳はコヌビの母性エネルギーを次々へと奪い去っていく!!
「グオオオオオオ……!!!!」
遅く飛ばした母乳へ高速で母乳をぶつける事により、母乳を弾けさせる母乳バウンスを喰らったコヌビは身体から紫の煙を上げながら身悶えを起こしていた……。
「母乳をかけられたのは何百年ぶりよのぅ……」
コヌビの背中は変色し、爛れた様に赤黒くなっていた。




