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乳英雄

「んん!? お前らあのジーサンのお友達かぁ?」


 母乳サラマンダーの兄は私に向かって鋭い眼光を飛ばしてきた。弟とは違い冷静で冷徹な瞳は直視するのを躊躇ってしまう位に冷ややかな目だった……。


「その通りじゃ! あの翁の呪いを解いて欲しいのじゃ!」


 ナツメの言葉に母乳サラマンダーは静かに爪先で頬を掻いた。


「奴はコヌビ様に悪いことをした。だからコヌビ様より与えられた力で奴にお仕置きをしたのだ……」


  (「ナツメ、コヌビ様)  (って誰だい?」)


 私が小声でナツメに問い掛けると、ナツメは驚いた顔で母乳サラマンダーに語りかけた。


「まさか……乳英雄か!!」


(一つ単語を聞くと、新しい単語が次々と出るのは何なんだろう……)


「はい、説明願います」


 私は挙手をし、ナツメと母乳サラマンダー双方に説明を求めた。そしてナツメは淡々と語り出した。


「その昔、己の母性を極めようと力の限り母乳神を蓄えた者がおった。それが乳英雄(ちちえいゆう)じゃ……。()()は激しく互いに力を競い合い、(つい)には母乳を母乳で洗う骨肉の争いは、共倒れの形で終焉を迎え、乳英雄は各地に潜むようにひっそりと暮らしていると言い伝えられているぞい」


()()……って事は……」


「乳英雄は全部で4人おるぞ?」


(酷い変態体質が4人もいるのか……)


 私は何だかこの世の全てが嘆かわしく思えてきた。この世に神がいるとしたら、それは間違いなくアホなんだろう……。


「この山にはコヌビ様が居られる。お前も失礼をする前に立ち去るが良い」


 母乳サラマンダー兄は私を手で追い払仕草をした。しかし道端に倒れている弟が目に入ると―――


「むむ! そうであった! 弟者の仇を取らねばならぬのであった! 覚悟!」


 母乳サラマンダー兄は激しく青い炎を灯し、爪を大きく振り回した。爪先の炎が私の近くを掠め、私の身体を冷気が纏わり付いた。


「何か冷たくないかい?」


「ダンカンよ。奴の炎は熱を吸うから、母乳を凍らせてくるぞ! 乳首が凍ったら負けじゃ、心せい!」


「……うわぁ…………」


 私は試しに母乳を少し噴射すると、母乳サラマンダー兄の炎に触れた母乳が忽ち凍り付き、カランコロンと響きの良い音を立てて転がった……。


「……で? ナツメ先生の戦略は?」


「奴の青い炎はコヌビの母乳によるものだ。アンチ母乳で封じてしまうが良いぞ?」


「……あの~……」


「ふむ、アンチ母乳の事じゃな?」


「はい。説明願えます?」


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