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母乳バーニング

 山の中腹に見えた怪しげな坑道を歩きながら、私は激しく後悔していた。


「私なんかが、その母乳サラマンダーとやらに太刀打ち出来るのか?」


「大丈夫じゃ! 母乳サラマンダーは比較的大人しい種族じゃから話せばきっと分かるぞい?」


 坑道の奥から赤い灯りが見え始めた……。それは次第に大きくなり、灯りの中心には大きな緑色のトカゲが二足歩行で立っていた。


「む! 兄者兄者! エサですぜエサですぜ!?」


 鋭く長い爪の先に燃え盛る炎を灯した顎のしゃくれたトカゲは、私を見るやいなや舌舐めずりをして援軍を呼び始めた!


「……ナツメ?」


「ふむ、交渉決裂じゃな!?」


「いやいやいやいや! そもそも言葉を交わしていないし、あれで()()()大人しいとか間違ってないかい!?」


「むぅ! 何とも煩い煩いエサだな! 兄者兄者! もう待てない待てないぞ!!」


 爪で激しく空を切りジタバタと足を踏み鳴らしたトカゲは、痺れを切らしたのかヨダレを垂らしながら私に向かって激しく襲い掛かってきた!!


「ダンカンよ、母乳で浄化してやれ!」


「……お、おお!」


 坑道で乳を曝け出し、勢い良くトカゲに使って母乳を噴射する!


「おおっと! 母乳一族だったか!!」


 トカゲは咄嗟に激しく横回転し、燃え盛る炎の壁を身に纏った!


 炎の壁に遮られ、母乳が次々と蒸発していく!

 なんと私の母乳が一瞬で粉ミルクになってしまった!!


「ダンカンよ気を付けるが良いぞ! 此奴母乳一族慣れしておる!!」


「ど、どうするんだい!?」


「構わぬ! 奴が母乳一族慣れしている様に、吾輩も母乳サラマンダー慣れしているからのぅ! そのまま母乳を出し続けるが良いぞ! 出来るならもう少し母乳の濃度を落としてくれぬか?」


(そんな器用な事……あ、出来た)


 私はナツメに言われるがまま少し薄い母乳を出し続けた。母乳は奴の纏う炎で温められ、奴に当たる前に蒸発して粉ミルクだけが宙を舞っていた。


「そろそろ良いぞい。後ろに逃げるぞダンカン!」

「え!? ええ!?」


 母乳を止め、一目散に来た道を走った!

 すると奴の方から激しい爆発音が聞こえ、爆風と甘い母乳の匂いが私達を掠めていった……。


「ナツメ、これは一体……?」


「ふふん! 粉塵爆発じゃ! お主の粉ミルクに火が付いたのじゃ!」


「―――えっ!? 母乳サラマンダーとやらを殺してしまったのかい!?」


「なぁに。曲がり形にも火の精霊の名を冠しておるのじゃ、これくらいでは死なぬ」


 恐る恐る母乳サラマンダーの方へと戻ると、そこには爪の火が消え、パタリと倒れている母乳サラマンダーが居た。


「―――気絶しているみたいだ。良かったぁ……」


「な? 言ったじゃろ!?」


 母乳サラマンダーを道の端へと寝かせてやると、ドタバタと激しい足音が近付き、今度は爪に青い炎を纏った母乳サラマンダーが現れた!


「貴様等! 弟者を爆発させて痛い痛いしやがったな!?」


 目が血走っている母乳サラマンダーの兄と思しきトカゲは、今にも私達に襲い掛からん程に怒りの顔をしていた。


「ダンカンよ。どうやらコイツが本命のようじゃな。翁に呪いを掛けたのはコイツじゃ!」


 ビシッと母乳サラマンダーを指差したナツメに、私はとりあえず乳を曝した。

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