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母乳サラマンダー

「じゃ、俺は帰るわよ」


 アマンダは手を上げ、塔より更に北へと進み出した。本当は付いて行きたいが、何だかナツメの言葉が引っ掛かり、ココで別れる事にした。


「それじゃあ我々も行くぞい?」


「え? でも何処に……?」


 当てが無ければ目的すら無い。成り行きで生まれ育った村から離れたは良いが何かしらの生業を探さないと食うにも困る。


「ふむ。それではアッチに進むのじゃ!」


 肩の上からナツメの指差した先には、高い山が聳えていた。山は岩肌が露出しており人が通る様な道があるのかすら怪しく見えた。


「何が有るんだい?」


「吾輩の記憶では山の中にダンジョンがあった筈じゃ! 近くには小さな集落もあるぞい!」


「……その記憶、何年前のかな?」


「…………120年前じゃ! ええい! つべこべ言わず歩くのじゃ!!」


 ナツメがジタバタと足を動かすので、私は仕方なく山の方へと足を向けた。山の麓は自然豊かで野草や木の実も採れたことから多少の空腹は満たすことが出来た。


 ナツメは私の母乳を頻りに欲しがるので、休憩がてらあげていると、古めかしい苔生した石の祭壇の様な物を見つけた。


「―――あれは?」


「……気にするでない。唯の石コロじゃ」


 ナツメが母乳を飲み終わり肩車の姿勢に戻ると、急かすように先へ進もうとするので、私は祭壇を遠目から見るだけで通り過ぎた。



 暫く山道を歩くこととなった。緩やかな斜面ではあるが、中々に山道は険しい。上半身裸のジーサンが横目に見えるが無視しておこう。両乳首を人差し指と中指で隠している時点で怪しさが限界突破しているからな。座禅を組んではいるが関わりたくは無い。


「ダンカン、アレは気にした方が良いぞい?」


「……えぇ……?」


彼奴(あやつ)も母乳一族じゃぞ?」


(うわぁ…………案外何処にでも居る気がしてきたぞ)


 私は仕方なく乳首を隠したジーサンへと近付いた。ジーサンは眼を閉じたまま私の足音に反応し口を開いた。


「近寄るでない……」


「じゃ、帰ります……」

「これ! 素直に帰る奴があるか!?」


「ワシは呪いに掛かっている……」


 ジーサンは私の意思に関わらず何かを語り出した。どうせ聞いたことも想像も付かない様な新しい単語が出るんだろうと思い、聞きたくない気持ちが強くなった。


「ワシは母乳一族だった……だがしかし! 母乳サラマンダーの呪いに掛かり、手が乳首から離れなくなったのだ!!」


「何とむごい呪いじゃ……」

「え!? そうなの?」


「ダンカンよ、此奴は母乳一族でありながら呪いのせいで母乳が出せなくなったのじゃぞ?」

「えっ? あ、その為の指?」


「ウム。翁よ、その呪いはこのダンカンが解いてしんぜようぞ! 安心して待つが良い!」

「えっ!? ええっ!?」


 私は頭の上でふんぞり返るナツメに問い掛けるが、嗚咽を漏らし始めたジーサンを見て、断るに断れなくなってしまった…………。

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