母乳イーター
幼子が私の母乳を飲み終える頃には、私の身体から母乳を全て吸い尽くされたかと思う位に激しい飲みっぷりだった。
「――ぷはっ!」
この分だとかなり疲労していた様子だ。迷子だろうか?
「よしもう良いぞ。下ろすが良い」
幼子が私の腕からヒョイと降り立つと、腰に手を当てエヘンと背中を反らせ私を見上げた。
「貴様は中々の味じゃった。妙な懐かしさを覚えたぞ。気に入ったから吾輩の専属ミルタンクにしてやろう」
ビシッと私の顔を指差し、幼子は豪快に笑い出した。
「……アマンダ。すまない説明してくれ。今度は何だ」
「知らない~。今宝箱を溶かすので忙しいの、声掛けないで」
アマンダはその豊満な乳から母乳を宝箱へと垂らしている。垂れた母乳は白煙を上げ、宝箱の金属部分を溶かしていた……。
「ヤツが出しているのは母乳アシッドじゃな! 貴様は出すでないぞ? 吾輩の口が爛れるからな」
……ええ~っと…………
私はどこから説明して貰えばいいのだ?
「とりあえず、君は誰だい? どうしてココで倒れてたのかな?」
幼子へ顔を向けると、耳のついた帽子をグイグイと被り直して私の方を向いた。
「吾輩の名はナツメ。母乳神の成れの果てじゃ!」
「……ええっと……ゴメンよ、もう少し説明が欲しいかな」
「ふむ……母乳神になれるのは母乳一族の女だけなのは知っておるか?」
「ごめんなさい初耳です」
何故私が謝らなければならないのかは、この際気にしないでおこう。分からないままでは何故か気分が良くない。
「母乳神になるとな、肉体は滅びて母性エネルギーだけの存在になる。その為、母乳神になれない母乳一族の男達が母乳神を取り込み完全なる母乳神を目指すのじゃ」
「……それで、どうして君はココに?」
「元々は宿主が居たのじゃ……しかし母乳一族同士の争いにより肉体から分離させられてココに閉じ込められてしまったのじゃ。母乳一族に会ったのはかれこれ百年ぶりくらいかのぅ……」
「あ、年上の方でしたか。失礼を致しました」
「よいよい。百年前はナイスバデーじゃったが、今では力も無くしてこの有様じゃ、気にするでない。気軽にナツメと呼んでいいぞ」
ナツメは服の埃を払い解れた箇所を瞬時に修復し、見るからに真新しい服へと変わった。そしてアマンダが開けている宝箱を目を細めて見つめ険しい顔をした。
「貴様、名は?」
「ダンカンと言います」
「ダンカンよ……母性が腐り地に落ちた先にあるのは、あの男の様な末路だ。ヤツに潜む母乳神の純真なる母性は既に枯れ果ている。ああはなるなよ……」
私にはナツメが何を言っているのかが理解出来なかったが、真面目な顔付きからは冗談を言っているようには見えなかった……。




