第二十三話
バトル・オブ・ブリテンが勃発してから二週間が過ぎた。
俺はゲーリングを呼び寄せて状況を聞いた。
「ゲーリング、状況はどうなのかね?」
「総統、簡単に言えば戦況は有利です」
「ふむ……その言葉に偽りはないなゲーリング?」
「勿論ですマインフューラー。我々ルフトヴァッフェは徹底的にジョンブルの軍需工場や軍港施設を叩いています。日に日に奴等の迎撃戦闘機の数は少なくなっていると報告があります」
「うむ、だが油断してはならんぞゲーリング? やられているとはいえ、イギリスは大英帝国とまで言われているのだ」
「勿論ですマインフューラー。実は三日に一回は夜間空襲も行っています」
夜間空襲には対地襲撃機に改造されたBf110が主力となって行われていた。
このBf110はルフトヴァッフェに派遣された小園少佐が考案した斜銃を搭載していた。
この斜銃は下方――つまり地上に銃身を向けており、三七ミリ機銃や二十ミリ機銃が搭載されている。
なお、戦闘機型のBf110には上方に銃身を向けた斜銃もあった。
他にも機銃はMK108機関砲が開発されて、試験的にBf110に搭載される事になっている。
「うむ、くれぐれも市街地に爆撃してはならんぞ。市街地に爆撃すれば市民の士気が上がってしまうからな」
「分かっておりますマインフューラー」
俺はゲーリングにそう念を押しといた。しかし、それから三日後の夜間空襲で一機のHe111が航法を誤って、爆撃目標であるテムズ河口にある石油タンクではなくロンドン上空に侵入して爆撃してしまったのだ。
「……申し訳ありませんマインフューラー」
「いや、過ぎた事を悔やんでも仕方ない。イギリス側に謝罪の電文を送ろう」
ゲーリングからの報告を聞いた俺は直ぐにイギリスのチャーチルへ謝罪の電文を送った。
「首相、ヒトラーから謝罪の電文が来ていますが……」
「ふん、放っておけ。どうせ初めから爆撃するつもりの腹のくせに……」
チャーチルは葉巻をくわえて火を付けた。
「目に目を、歯には歯をだ。直ぐにベルリンを爆撃せよッ!! ヒトラーにイギリスの恐ろしさを思い知らせるのだッ!!」
こうしてウェリントン爆撃機等八十機が集められてベルリンへの夜間空襲が決定された。
そして九月十一日、ベルリン総統官邸、2330。
「そ、総統ッ!! 大変ですッ!!」
「何事だボルマン?」
ボルマンが慌ただしく部屋に入室してきた。
「ゲーリング元帥からの入電ですが、イギリス空軍の爆撃隊がベルリンに向かって飛行中との事です」
「何ぃ?」
あの葉巻野郎……謝罪を無視しやがったのか?
「空軍はどうしている? レーダーは何をしているんだッ!!」
「戦闘機隊を発進させていますが……」
「しまった、今日は夜間空襲の日だったか。それで爆撃隊を味方の爆撃隊と間違えたのか」
チャーチルがそれを狙ったのかは知らんが……ヤバイな。
「ベルリン市内に空襲警報を発令しろッ!! ヒムラーに連絡して親衛隊は民間人の避難誘導をさせるのだッ!!」
「ハイルッ!!」
ボルマンが慌てて部屋を退室していく。
「空軍の戦闘機隊が爆撃隊を防げればいいが……」
ベルリンの街並みを見る中、空襲警報が発令されて眠っていた民間人が叩き起こされた。
「空襲ッ!? 何処からだ?」
「ライミーの奴等だとよッ!! 親衛隊の避難誘導に従おうッ!!」
民間人達はそう言いながら親衛隊の避難誘導に従って避難をしていく。
「総統、空軍から連絡です。敵爆撃隊の大半は撃墜しましたが、まだ数機がベルリンへ向かっているようです」
「ベルリンにはアハトアハトは何門あるのかね?」
「……八門しかありません」
「これが終わったら首都防衛の構築を変えないとな」
「総統、防空壕へ避難をして下さい」
ボルマンはそう言ってきた。
「此処に留まっては危険です。ぐずぐずしていると爆撃隊が……」
ボルマンがそう言った時、飛行機の爆音が聞こえてきた。
「全員防空壕に逃げ込めェッ!!」
俺の叫びに皆は中庭にある防空壕へ避難を始めた。
「総統も早くッ!!」
「分かっているッ!! 誰もいないなッ!!」
俺は廊下で叫ぶが誰も他の部屋から出てこない。よし、なら防空壕に避難だな。
そして俺達は走って中庭にある防空壕へ向かった。
「総統ッ!!」
ボルマンが防空壕の入口で叫んでいる。後少し……。
「あっ……」
「エリカさんッ!?」
その時、俺の前を走っていたエリカさんが躓いて転けた。
「立てるかエリカさんッ!!」
「だ、大丈夫です……」
エリカさんがそう言った時、爆撃隊が上空を飛び去っていった。
そして空気を切り裂く音が……。
「失礼するぞエリカさんッ!!」
俺は咄嗟にエリカさんを爆弾を守るために転んだエリカさんに覆い被さった。
「マインフューラーッ!!」
そして爆弾が総統官邸に命中したのであった。
「ヒュウッ!! 見ろトム、ジェリーのちょび髭の官邸に命中したぞッ!!」
「ハハハ、誰かカメラを持ってないのか? 破壊された官邸の写真を撮れ」
イギリス空軍の爆撃隊は大被害を出しつつもベルリン――特に総統官邸へ爆撃する事に成功したのである。
「……むぅ……」
ぐ……背中が痛いな……。
「……俺は無事みたいだな……」
覆い被さったエリカさんは爆撃の恐怖か、気絶していた。
「総統ッ!!」
「ボルマン。皆は無事か?」
「皆は無事です。総統、早く医務室へ。背中に怪我をしています」
ボルマンの言葉に背中を触るとぬちゃっとした感触があり、手には血が付着していた。
「衛兵ッ!! 閣下を医務室へ運ぶのだッ!!」
「待て、エリカさんが気絶している。彼女も運ぶのだ」
「勿論です総統」
そして俺はエリカさんと共に医務室へと運ばれた。
軍医によれば背中の傷は爆風で何かの破片が背中に切り傷を負わしたらしい。
エリカさんは気絶との事だ。
「総統、三日くらいは念のために安静をして下さい」
「うむ。ボルマン、ゲッベルスに伝えて総統代行をせよと伝えろ。被害の状況と民間人の死傷者の情報収集に勤めろ。ゲーリングには再度防衛線の構築を伝えろ」
「分かりました」
ボルマンはそう言って医務室を退室した。
「……ぅ……」
「気が付いたかね?」
隣のベッドでエリカさんが目を覚ました。
「総統……空襲はッ!?」
「大丈夫だ。イギリスの爆撃隊は既に逃げたようだ」
「そうですか……総統、助けていただいてありがとうございます」
「いやなに、可愛い御嬢さん(フロイライン)を守るためなら傷の一つや二つはどうってことない」
俺はそう言って笑う。
「も、もう……総統ったら……」
フロイラインと呼ばれたエリカさんは顔を赤くするのであった。
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