火蓋の上下 8~朽ち果てたムルの家
『ここだ。』
『えっ? ここ? これは人家ですか?』
『そうだ。俺は数日だが、ここに寝泊まりしていた。』
『それよりも家の外まで臭いんですけど、、、』
一番若い兵がつぶやいた。
二年経ったムルの家は無惨であった。
屋根のカジュの茅は、役目を果たさぬ程抜け落ち、白く濁った鳥の糞で覆われてしまっていた。
崩れた土壁の一部が、軒先に砂となって積もっていた。
『入るぞ!』
あの時ニジェを迎い入れてくれた入り口の扉は崩れ落ち、戸を開ける必要もなく部屋に入った。
『ゲホ!ゴホっ!』
『息ができない臭さだ。』
皆、嗅いだこともない異臭に、強く閉じた目から涙がホロリとこぼれた。
目を開くと、すでに白目は真っ赤だった。
床は至る所、獣の糞尿で足の踏み場が無いほどであった。
壁のほとんどは蜘蛛の巣で覆われ動物が引っ搔いた爪痕らしき場所は、今にも崩れ落ちそうであった。
奥に進むと朽ち果てた土壁の穴からアフリカヤマネとイタチがヒョイと飛び出して来た。
『オー!!びっくり!!』
一人の若衆が身をねじって一回転して驚いた。
『ここは、夜行性の獣の巣屈となってしまっているようだ。』
ガーラは鼻を抓みながらそう言った。
『で、ニジェ様。ここで何を?』
『これ。さっき拝借した麻の袋。』
『はい?』
『皆、ここにある腐りきった獣の死骸、、と、その辺のとにかく臭くて干からびたやつをこの麻袋に詰め込んでくれ。ギュウギュウにパンパンに。』
『ゲッ、触るってことですか?』
『当たり前。5袋全部。』
ニジェはニコと笑ってそう言った。
『で、誰か数人で、ブビンガの木からヤニを取ってきてくれ。ヤニ溜まりがあるはずだから。多ければ多いほど。 それと、この付近の家から梯子を三つ調達してきてくれ。この辺りの人家はカジュの茅を葺くのに、皆梯子を使っていたからな。数年経ってしまっているから、なるべくブビンガでできた頑丈な物が良い。』
皆、この家から脱出したいのか、こぞって俺が行く!と手を上げた。
『ニジェ様、どうされるのですか?』
ガーラは尋ねた。
ニジェはガーラの耳元で囁いた。
『おー!それは!面白い!』
『なッ。』




