火蓋の上下 2~大パノラマ
『おい、ガーラわしも連れてゆけ。』
『はっ? アクラ殿はお体の具合が、、』
『長年の遣使としての旅の疲れが溜まっておるだけじゃ。ただ、、』
『ただ?』
『わしにとっても最後の大一番になるかもしれん。 悔いたくはない。行かせてくれ。足手まといになったら捨ててくれ。』
『いや、それはぁ、、』
『行こう!アクラ! 一緒に! 悔いを残されても困る。行こう‼‼ 』
『おー!ニジェ様! そう言って頂けますか!』
『アクラは、おるだけで頼りになる。』
『では、この小僧は?』
ガーラはニジェに聞いた。
『ここに取り残されても困るだろ? なあ、ドルン? ドルンも乗るんだ! さあ!』
50人の兵を乗せた3艘の船は川の流れに乗った。
いつ日が沈んだのかわからないくらいの大雨の中だった。
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『 ひやッ‼‼ ほーい! ホーイィ ‼‼ 』
頭からズッポリかぶるほどの水しぶきを上げ、褐色の肌が叩く雨で赤く腫れ上がる。
舟は大きく左右にうねる。至る所に小魚が跳ねているのが暗闇の更なる影となって目に映る。
『 楽しめ~! 楽しめ~ィ‼ ひゃッホ~‼ 』
口を開けば、喉まで溜まる雨水。それを吐き出しながらニジェは大声で叫んだ。
『 ゆけ!ゆッけ~ィ‼‼ 』
ⅭGでも機械仕掛けでもない圧倒的な大パノラマのアトラクションだ。何が起きたって非常口などない。
『今この時!ここに生きている‼ 楽しめ!楽しめ~!』
兵は皆、楽しんだ。フランス軍に追われ、恐怖との闘いの長旅。
彼らは、ひと時の楽しみを喜びに変えるすべは、すっかり染みついていた。
『俺たちはもう二度とこんないざこざに巻き込まれたくないんだぁ~!
これを最後にぃ~‼ 』
ニジェは船頭に立ちあがり、波と雨と風をいっぺんにその褐色の体に受け、飛び立つフラミンガの鳴き声の様におうおうしく叫んだ。
『ん?あれ、どうした? ドルン。』
『酔った。』
ハハッ!




